第18話・御嬢様と殺し屋爆乳姉妹
「居たぞ!!アイツらだ!!」
「野郎!!ぶっ殺しやぁあァアアアア!!」
「ウッシャッシャッシャ!!」
突如、何処からともなく現れた全身に吹き荒れる風の紋様を刻み、両肩に白い羽衣の様な布を纏わせてるチーターの頭部と胴体を持つ上半身と黒い翼を足首に生やしたダチョウの脚を持つ下半身といった奇妙な姿をした韋駄天族と呼ばれる複数人の魔族達がナイフを片手に混雑極まる人混みの中にいるリクス達目掛けて襲いかかってきたのだ。
「こいつら正気か!?こんなところで襲ってくるとは!!」
「テラー!それにお前達!!此処は逃げるが勝ちだ!走るぞ!!」
「「「了解です!!」」」
明らかにまともではない韋駄天族達の襲撃に驚愕しつつもリクスが下した決断は逃走であった。その理由としてはテラーが追っ手の韋駄天族を撒こうと敢えて人混みに入り込んだのが仇となり、こんな中では迎え撃とうにも身動きが取りにくく、その上、正体不明の大勢の相手に戦うのは得策ではない…よって此処は緊急退避こそが導き出された解答である。
そんな逃走を図るリクス達の様子を見ていた者達がいた…。
「あらあら?フフン♪あのお嬢ちゃん…私達のカワイイ下僕達から本気で逃げ切れると思いなのかしら?ねぇ?キリサ?」
「ンフフッ♪自分が狙われてると知った獲物というのはムダな事をしたがるものなのですわ♪カルマお姉様♪」
見た目は人間の女性に似てるが、虫の触覚が生えた頭、緑の髪が所々入り混ざる黒のロングヘアー、両手首に蟷螂の腕、腰から蟷螂の羽を生やし、巨乳を通り越して爆乳の領域にあるはち切れんばかりの大きな胸の谷間を強調させた露出度の高い緑と黒の生地のボンテージファッションに身を包み、腹に両腕を広げた蟷螂の紋様を刻んでるお互いに瓜二つな外見をしている二人組の蟷螂型の魔族の女性…淫蟷螂族の双子の姉妹である前髪で右目を隠している姉のカルマ・デスサイザー、反対に前髪で左目を隠している妹のキリサ・デスサイザー、二人は揃って手で口元を隠しながら無駄な足掻きをしている標的達の姿を見ながらクスクス…と妖艶な笑みを溢していた。
「フフン♪サベッジのおじ様ったら、あんなノロマなお嬢ちゃんを始末するのに『私達』を動かすなんて…用心深いのやら、心配性なのやら、ねぇ?キリサ?」
「えぇ、カルマお姉様、いつも通り楽な仕事になりそうですわ♪ンフフッ♪」
カルマとキリサ…この二人の姉妹こそが自分の手下の韋駄天族達をけしかけた犯人であり、彼女達の正体は金さえ払えば即座にどんなターゲットでも最速で探しだし、速攻でバラバラに切り刻んで無惨な屍に変えてしまう町の殺し屋集団『リッパーズ』のリーダーでもあった。どうやら二人は裏の繋がりがある三獄士の一人・サベッジから受けた依頼の下、リクス殺害を命じられたため、この様な暴挙に出たのだ。
一方、リクス達はというと…。
「オラァッ!!邪魔だ!邪魔ァアアアア!!ヒャッハァアアア!!」
「「「グアアアアア!!?」」」
「「「ヤメテー!!」」」
「「「痛ぎゃああああ!!」」」
リクス達をしつこく追跡してくる韋駄天族達はなんと…邪魔な通行人をナイフで次々に切り裂きながら道を開き、今にも追い付かんばかりの勢いで疾走していた。
「うぉおおおーい!?なんなんだ!アイツら!?なりふり構わずかよ!!」
「マジか…!?クソッタレ!何がなんでもオレ達を殺したいらしい…!!」
「しかも、速ッ…速いぞ!?ヘタしたら全力出したカイナぐらい速いんじゃないか!?」
ギャスクやテラー、バンホーが驚くのも無理は無い…リッパーズはターゲットさえ殺せれば周囲の無関係な者達を平然と巻き添えにするという正気を疑うやり方が当たり前の集団である上にその主な構成員である韋駄天族という魔族はトップスピードだけならばカイナをはじめとした鎌鼬族とタメを張れる程の俊足を誇ることから『風の化身』という異名がある程だ。
「このままでは追いつかれる!えぇい…!邪魔だ!どけぇッ!!道を開けろ!!」
「うぎゃあああ!?」
「非常事態だ!!許せ!!」
「なんだ!?テメ…!ぐぼほッ!!」
「ごめんなさーいぃいいい!!」
「ひでぇー!!」
このまま人混みに遮られながらの移動では追いつかれるのも時間の問題であるため、仕方なく…これは非っ常~に仕方なくのことであるが、リクスは前方に居た両眼の代わりにギラギラとした紫色の輝きを放つトライバルパターンの紋様を持つ黒豹の頭をした全身に赤い炎の刻印を刻んだ獣人…猛豹魔人族の通行人にドロップキックを放ち、テラーは毛深い体毛に包まれた牛型の獣人…牛魔人族の亜種・野牛の後頭部をショットガンで撃ち抜き、カイナは背中に幟旗を差し頭に足軽が被る様な黒い陣笠を被った戦国時代の甲冑姿のカニ型の平家蟹族を切り裂くなど、邪魔者を切り捨てながら突き進む韋駄天族達のマネをして逃げ道を開いていった。
「「「マテー!!」」」
「「「オメーら、オレ達のマネしてんじゃねぇーよ!!」」」
「うっせぇ!!そっちこそつけ回してくるんじゃねぇ!!」
「そもそもなんでオレ達を狙うんだよォオオオ!?」
「大方本命はクリスだよな!クリスだよなァ!?一体お前は何やらかしたんだ!?」
「知らん!心当たりなど多過ぎて逆に解らんわ!!」
「落ち着いてください!リクス様!!」
逃げども逃げどもストーカーの如く追跡してくる韋駄天族のしつこさにいい加減ウンザリしてきた一同、テラーが言うように確かに韋駄天族達の狙いはリクスである…最も、リクスには闘技場の運営側や三獄士の怒りと警戒を買ってこそいるが他に何人かの剣闘士を手にかけた関係の恨み、ヴァジュルトリア家絡みの恨み、命を狙われる理由が盛り沢山であったからいつかこうなっても不思議は無いのだが…。
「このままじゃラチがあかん!脚の速さはアッチが上…どのみち追いつかれるんだから迎え撃つぞ!」
「フンッ!貴様に言われるまでもない!!」
「ええっ!?マジですかい!?」
「あぁー!!もうヤケだ!!チクショウ!!」
「うう…どうして、こんなことに…!?」
どうやらこれ以上追いかけっこすることを諦めたようであり、覚悟を決めた一同は一斉に後ろへ振り向き…。
「「「オラオラオラァアアアーッ!!」」」
「投げろ!投げまくれ!投げるものは周りにいくらでもある!!」
「ホントにホントにごめんなさーい!!」
「「「え?ちょっ…ヤメテー!!」」」
「「「ワレワレがなにをチたー!?」」」
「「「は!?お前ら、そんなの有り…カゲゴッ!?」」」
自分達の周囲にたまたま居た両目が突き出てる着物姿の金魚…幽霊金魚族の亜種・出目金や頭に瘤が出来てる同じく幽霊金魚族の亜種・蘭鋳などといった幽霊金魚族の群れを掴んではボールの様にポンポン投げつけて韋駄天族達に次々とぶつけて撃退していった…尚、この幽霊金魚族達は余所からやって来た一団であり、一族揃ってメギドの町への観光旅行中をしていたばかりにこのような不幸な出来事に巻き込まれてしまった実に哀れな被害者であった。
「テメーら!!ふざけた事しやがって!」
「確実にコロス!!」
「チィッ!!まだ動ける奴がいたか!?」
しかしそれでも韋駄天族は半分以上も残っており、幽霊金魚族という投げるためだけに生まれたような魔族が既に周りにいなくなったためテラーは仕方なくショットガンを引き抜いて応戦しようとしたが…。
「「「遅ぇんだよ!!ノロマがァアアアー!!」」」
「ぐおおぉっ!?」
「テラー!!」
風を射抜くなどやはり無理があったようで…韋駄天族達は持ち前の目にも留まらぬ速さでテラー目掛けて飛びかかり、彼の腕や足などを次々にナイフで切りつけていった。
「おい!何してやがる!その…イカ?いやタコか…?もうどっちでもいい!そんなのよりも早くあの女を殺れよ!!カルマ様とキリサ様を待たせんな!!」
「るっせーな!解ってんだよ!!指揮んな!アホ!!」
「ウラァッ!!恨みは無ェが覚悟しなァアアアー!!」
(速ッ…!!邪眼で捉えきれない…!!)
韋駄天族達はターゲットをテラーから本来の殺害対象であるリクスに変えて一斉に襲いかかる…リクスは闘技場の外ということや今が完全なオフということなので久しく使わなかった邪眼の発動を試みようにも自身の視界に映らぬ程早く動ける者など石化させようがなかった。このままテラーの二の舞になるかと思いきや…。
「え?あ、あ…れ…?」
「ヒギャアアアアア!!?」
「あ、足…!足がァアアアッ!!」
「…リクス様には、指一本…触れさせません…。」
彼らの凶刃がリクスに届くその前に…速く、鋭く…自らの腕を鎌に変えたカイナの斬撃が韋駄天族達を一閃していた。
「速ッ!速ッ!?彼女は一体…!!」
「あん?あぁ、そういえばテラーは知らなかったか?」
「カイナは俺達の住んでる森の中では最速の種族だからな、特にあいつは村の連中の中では一番速いんだぜ。」
「そうだったのか?それは私も初耳だ。」
普段大人しいカイナの意外な一面を知ったテラーが驚くのも無理は無い、
鎌鼬族は基本的にあまり好戦的な一族では無いがいざ戦いとなると目にも留まらぬ速さで躊躇いもなく敵を切り刻む残忍性を秘めている。特にカイナは村一番大人しくて内気な性格ながらも敵と見た瞬間に振るわれる本気の速さと迷いの無い刃の鋭さは誰よりも強いのだ。
「こ、こいつ!?」
「俺達の様に速いだと…!?」
自分達と同じ様な想定外の相手を前にした韋駄天族達は思わぬ反撃にたじろぐ…と、その時だった。
「アナタ達?いつまで時間をかけてるのかし、ら…あらあら、まあ…?」
「カルマお姉様を待たせるんじゃありませんよ…って、何ッ!?」
いつまで経っても戻ってこない韋駄天族達に痺れを切らしたカルマとキリサ…デスサイザー姉妹の二人がその姿を現わす。地面に無様に転がる大半の彼らの有り様を見たカルマは冷静に見下ろし、逆にキリサは目を思いきり見開き驚愕していた。
「ゲゲェッ!!カルマ様にキリサ様!?」
「ヒッ…!?」
「いつまで経っても戻ってこないと思ったら…!この有り様はなんなの!?アナタ達、全員殺…!!」
「フフン♪まぁまぁ、そう熱くならないでキリサ♪カッカしてると御肌が荒れるわよ?」
「カルマ御姉様ッ…!ぐぅううう…わ、解りまし、た…。」
「よろしい♪」
韋駄天族の情けない負けっぷりにキリサは怒りの余りに激昂に身を任せてまだ生き残ってる彼らを全員始末しようとしたが、姉のカルマはこのピリピリした雰囲気に相応しくない穏やかな笑みを浮かべながらやんわりとした口調でストップをかけられるとキリサは振り上げた腕を渋々力なく下ろすと同時にカルマから優しく頭を撫でられた。
「さてと、これは…誰がお殺りになったのかしら…?」
「…。」
「…そう、貴女が…?ウフフフフ…。」
カルマはリクス達を一通り一瞥しながら誰が自分達の手下を切り刻んだのかを尋ねると、自分に向かって無言で睨み付けてきたカイナを見て瞬時に彼女が殺ったのだと悟る。
「おい、貴様らか?こんなふざけた連中をけしかけてきたのは?大方闘技場の運営側の差し金だろうが…あいつらに金でも貰ったのか?」
「フフン♪ノーコメントで♪」
おおよその予想がついてるためかリクスは真っ先に闘技場の運営側の人物がリッパーズに殺害依頼を寄越してきたと見るが当然ながらカルマはすっとぼけてきた。どうやら守秘義務はキチンと守る主義らしい。
「さてと、もういいかしら?私達も暇じゃ無いのよ、ね…?」
「リクス様には、手出しさせません…!」
「…あら?」
カルマは手首の鎌を起こしてリクスににじり寄ろうとしたが、同じく腕を鎌に変化させたカイナがそれを阻んで自身に引き付けた。
「コイツ、私達二人を相手になんて無謀な…!」
「キリサ、残りはアナタが始末してくれるかしら?この娘は私が…フフン♪」
「えぇ!?カルマ御姉様!?」
「久々に私、本気を出せそう…♪」
「あぁ、もう自分の世界に入っちゃってる…!解りました!そちらはお任せします!!」
キリサはカイナの言葉にカチンときたのかカルマと二人がかりで殺してやろうと思いきや、当の姉はというとターゲットであるリクス達の相手をキリサに押し付けカイナと一対一で戦おうとしていた。しかも抗議しようにもカルマはカイナと戦うことしか頭にないようで自分の言うことなど聞き入れやしなかった。キリサは仕方なくリクスの方へ視線を向ける。
「カイナ…死ぬなよ。」
「大丈夫です。皆さん、イッてください。」
「すまねぇ!!カイナちゃん!」
「無事でいてくれよ!!」
「ぐぬぬ、かたじけない…。」
リクスは振り向きもせずにカイナにカルマの相手を任せて走り出し、ギャスクとバンホーは傷を負ったテラーを担いで彼女の後を追った。
「あ!?ま、待てぇええええ!!待ちなさいィイイイイ!!アンタ達の脳ミソには『待つ』って言葉が存在しないのか!?ド低脳がァアアアア!!」
「殺されると解ってて誰が待つか、バカ者…!!」
「全くあの子ったら、怒ると周りが見えくなっちゃうのよね、そこが可愛いんだけど…フフン♪」
「バカ言わないでください。」
「ん?」
キリサは逃げ出したリクス達を怒りの形相を剥き出しにし、ダッシュで追いかける…そんな妹を微笑ましく見送ったカルマの一言に物申す様にカイナが割って入る。
「可愛いのはリクス様であって貴女の妹ではないです!」
「え。怒るところ…そこ?って、あぶ、危なッ!?仕掛けないで!いきなり仕掛けないで!!」
「貴女達がそれを言いますか!!」
「ごもっとも!!」
…それは今、対抗するべきところではない。というか自分達の命を狙われる事の方を怒れ…そう言わんばかりにカルマはツッコミを入れようとしたがカイナは有無も言わずにいきなり斬りかかってきたため、慌ててガードした。
カイナとカルマによるタイマン、リクス+野郎共とキリサによる命懸けの追いかけっこ…生き延びることが出来るのはどちらか…?




