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第14話・御嬢様捕食事件

「フハハハハハァーッ!!さぁ、果たして貴様は我とロザリーちゃんを討ち破ることが出来るかな!?」


「ピギャッシャアアアアーッ!!」


三獄士の一人・ヘルハルトはロザリーちゃんなる名前の大砂蟲(サンドワーム)という超巨大な化け物の上でなにか…すっごい大人げないことを言っていた…




…が、それがいけなかった。





「「「バカかお前はァアアアアアア!!?」」」


「「「ふっざけんなァアアアアアア!!この首無し野郎ォオオオオオオ!!」」」


「「「通るか!そんなインチキ!!殺すぞ!テメェエエエエーッ!!」」」


「ぐぎゃあああああああ!!?」


金と血に餓えてるハズの観客ならびに一部の剣闘士達から激しく非難罵倒の雨嵐が降り注いだのは言うまでもなかった…彼らは口汚いブーイングと共に闘技場『ゴモラ』の売店で売られてる霊酒(ネクタル)の空きビンや魚妖串、黒騒霊(レムレース)族という魔族が作った酒のつまみである黒騒霊豆(レムレースビーンズ)の残骸、包丁やハンマー、果てはその辺をウロウロしてた幽霊金魚(ユウレイキンギョ)族や小鬼(ゴブリン)族などの小柄な魔族などを怒りに任せてヘルハルト目掛けて投げつけたのだ。


「貴様らァアアアアアア!?何をするか!このドグサレ共がァアアアアアア!!我とロザリーちゃんの愛を引き裂こうとしてるのか!?」


「試合以外でやれ!そういうマニアックなペット愛!!この芋虫フェチ!!」


「ルール無用のこの闘技場であっても流石にそんな化け物持ち込むバカはテメェだけだ!!ボケッ!!」


「どうせ大方、リク…じゃなかった。クリスちゃんにこのまま連勝ばかりされると困るもんだからそんなもん連れてきたんだろ!?」


「…ギクッ…!!」


周囲の観客同様に怒りと不満を爆発させてブチギレた観客席の

バンホーやギャスクも暴言を連発し、フローラの核心を突いた発言にヘルハルトは身体をビクンと揺らして動揺した。


そして…彼が取った行動はというと。


「やだーい!!ヤダヤダヤダー!!我はロザリーちゃんと一緒じゃないとやだーい!!びぇええええん!!ぎゃおおおおおおおん!!」


「「「「「」」」」」


「「」」


「」


なんと、駄々っ子になった。大の大人の魔族の男、それも剣闘士の中の剣闘士と呼ばれた花形剣闘士・三獄士の一角を担う男が…ロザリーちゃんの頭の上で仰向けになり、手足をバタバタさせる駄々っ子ダンスを踊って泣き喚きはじめたのだ。この情けない姿に全ての観客、ならびにゲストルームのモニターごしで様子を見ていた同僚のサベッジとモナーク、そしてこんなみっともない男の対戦相手にさせられそうな状況になっているリクスも絶句し、思わず開いた口が塞がらなかった…。


「いいでしょ!?ねぇ!!ねぇ!?ロザリーちゃんと一緒がいい!!我、離れたくないー!!いやだァアアアアアア!!いぃいいいやぁああああだァアアアアアア!!」


ヘルハルトが恥もプライドもクソを捨ててまで必死にグズりながら駄々っ子を貫こうとしていたのにはロザリーちゃんと離れたくない…それもあるが、他にも理由があった。



「クリス選手!!至急、ヘルハルト選手のロザリーちゃん同伴での戦いをお願いします!!」


「いや、ダメだ。それはダメだ…そんな化け物に乗った状態でこの満身創痍の私と戦うなんて…。」


「鬼!悪魔!人でなし!!あの人は今!泣いてるんですよ!」


「おい、司会者!!貴様はアイツの母親かなにかか!?ダメに決まって…!!ん?おい、まさかとは思うまいが…?」


最早隠すつもりもないのか?グルである司会者も司会者で我が子を可愛がる母親の如き慈悲深さと図々しさでリクスに逆ギレ気味の泣き落としで頼み込んできた。当然ながら断るリクスだったが、駄々っ子ヘルハルトとクソ甘過保護司会者のあまりのしつこさに段々イライラしてる途中、直感ながら彼女の中である『仮説』が浮かんだ。




「貴様、もしかして…『弱い』だろ?」


「ヒッ!?な、な、なんのことだ…弱い?我が!?小娘、貴様ではなく我がだとッ!?」


「…やはりか!!」




…その一言でこれまで以上に激しく動揺したヘルハルト、またもや図星だった。慌てて取り繕うがかえってリクスの勘を確信に変えさせてしまった。実はこのヘルハルト…というよりは首無幽騎(デュラハン)族という種族はあまり知られてないが個々の実力は大したことのない、むしろどの種族よりも弱い部類に入るが、戦車や馬など何かしらの『乗り物』として機能するものに騎乗することにより驚異的な強さを発揮できる種族なのだ。つまり、ヘルハルトは今ロザリーちゃんから降ろされたが最後…リクスに確実に負けてしまう、だからここまで必死に醜態を晒してきたのだ。


ゲストルームにて…。


「大バカ野郎ォオオオ!!自分で墓穴掘りやがったァアアア!?」


「それに今まではハデな物には乗らなかったからまだギリギリセーフだったのに…今回は流石にやり過ぎダネ。まさか大砂蟲なんて引っ張り出すとはネ。」


同僚故にヘルハルトが弱いという事実を熟知しているモナークとサベッジはモニターに張り付きながら彼のアホな様子に思わずツッコミを入れた。以前のヘルハルトはバイク型の重機械兵(ゴーレム)や騎乗用の小柄な生物など運用ギリギリの乗り物で相手を翻弄してきたが今回はあまりにもやり過ぎた…ヘルハルトは蟲妖や魚妖といった魔獣を愛でる極めて特殊な趣味を持ち合わせており、それが行き過ぎたためこのような結果を引き起こしてしまったのだ。


「どうするよ?オーナー、あのままじゃヘルハルトが大砂蟲から降ろされちまうけど、オレらはともかく素のアイツはマジでザコだぞ?」


「ヘルハルト君は乗り物に乗らないとデビューしたばかりの素人どころか赤ん坊にすら余裕で負けちゃうヨ?」


「弱ァアアアッ!?ええい!!バカ言うなでチュ!!無論、続行でチュ!!おい!司会者ァアアア!!観客(クズ)共がどう喚こうが知ったことないでっチュッ!!」


「構わず、試合開始のゴングを鳴らせニァアアアン!!でないとテメェ!コラァッ!!クビにしてやるニァアアアン!!」


同僚二人からの散々な言われようをされ、本気でどうやって三獄士の一員に加えられるほど勝ってきたんだ?というくらいひ弱なヘルハルトへの評価に驚愕しつつも、そんな激弱首無し野郎には意地でも勝ってもらわねば割とマジで困るため、ゲバチョーとゼニニョンは司会者に強制的に試合開始のゴングを鳴らすよう史上最低の命令を下した。


「は、はい!ただちにィイイイイイ!!これより、クリス選手対ヘルハルト選手の試合を開始致します!!」


「「「バッキャロー!!死ねェエエエエ!!」」」


「フハハハハーッ!!天は我らに味方したァアアアッ!!」


「ピギャアアアーン!!」


「クッ…!!やはりこうなるのか!!」


権力(オーナー)であるゲバチョーとゼニニョンには逆らえなかったのか…司会者はガチでクビにされては敵わんと思い試合開始のゴングを鳴らした。同時にヘルハルトは観客達からのブーイングを背にロザリーちゃんを操り、気丈に睨みつけてくるリクス目掛けて突撃を仕掛けた。


「そんなフラフラな動きで避けられるかァッ!?」


「ピゲャアアアア!!」


「ガッ!?」


巨体に似合わずロザリーちゃんはストレートな直進ではあるもののそのスピードは恐ろしく速く、満身創痍なリクスでは完全には避け切れず、ロザリーちゃんの太い胴体にぶつかり宙を舞ってしまった。


「クククッ…このまま我が串刺しにしてやってもいいがロザリーちゃんは常にハラペコ状態なんだ。なので…。」


「ピギィイイイイイ!!」


「………。」


「貴様もロザリーちゃんに喰われるがいい!!」


ヘルハルトがそう言うと、ロザリーちゃんは口を大きく開き、凄まじい勢いで気を失っているリクスを吸い込んでしまい、丸呑みにしてしまった。





「…ゴックン。」





「う、嘘…だろ?」


「御嬢、が…」


「リクス様ァアアア!!」


「ふざけんなァアアア!!今すぐ吐き出せ!テメェェエエエエ!!」


「ム、これまで…か…。」


その一部始終を見てしまった観客席のバンホー、ギャスク、カイナ、フローラ、ラガミ達は深く絶望した。巨大な剣闘士であるニオウマルすら余裕で喰い殺した様な化け(ロザリーちゃん)なのだから、彼よりも遥かに小柄なリクスは恐らく体内ですぐさま消化され、消えてなくなってしまうだろう…。




誰しもそう思ったが、その体内ではというと…。




「ん…う…此処、は…そうか、あの化け物の腹の中、か…。」


なんと悪運が強いことか…奇跡的にまだ生きていた。どうやら噛み千切られたニオウマルと違って全身を丸呑みにされたのが不幸中の幸いだったようだ。目覚めたリクスは自分が今現在何処に居るかを瞬時に悟った。


(さて、どうしたらいいか…私が何かを喰うならともかく、まさか私があんな化け物に喰われることになってしまうとはな…ヴァジュルトリア家の14代目にあるまじきことだな。)


その場に座り込み、笑えない皮肉混じりに自嘲しつつもロザリーちゃんの広大な体内を見渡していた。どうやらあの怪物は相当な悪食のようであり、既に消化済みの魔族や魔獣といった無惨な白骨死体(ぎせいしゃ)はともかく、樽や壺、何かの木片や瓦礫まで転がっており、食べられる物ではないものまで自分の腹の中に納めていた。


(…私はまだ負けた訳ではない。意地でも此処から抜け出してやる。)


このまま長時間ジッとしていてはいずれはリクスも白骨死体の仲間入りとなってしまう、そうなっては今度こそ魔族としては致命的な敗北者に成り下がってしまう。なんとか脱出の手立ては無いものかと考えてた時だった…。





「…其処に誰か要るのか…?」





…どうやら先客が居たようだ。





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