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第11話・御嬢様メイド対カボチャ剣闘士

「クキケケケケケケッ!!カカカカカカカッ!!」


「どうやって入れていたんだ?そんなデカイ得物…はっ!!」


ミステアは壊れた様にケタケタ笑いながら手を自分の腹に突っ込み、今度は明らかに収納スペースをガン無視したような有り得ないサイズの巨大な大鎌を取り出し、リクス目掛けて投げてきたが彼女は長い方の日本刀を難無く弾き、その代わり犠牲になったかのように呆気なく砕け散った。


「返す。次はこれを頂く。」


「要らんですっ…!人様の得物をポンポン捨てて、ゼータクが過ぎんじゃねぇですかい?コカカカッ…!!」


すかさずリクスは短い日本刀をミステアに投げつける形で返還し、新たに先程の大鎌を拾って足早に駆け出し、ミステアの体を真っ二つにしようと真横に一閃…しかし、ミステアも簡単にダメージを受けるつもりは無く、体内から今度は盾を取り出して日本刀や大鎌を防ぎ、その刃を砕け散らせる。


「顔がガラ空きだぞ。」


「チッ…!避けきれ…ギゲッ!?ゴガッ!!」


リクスは砕けて柄だけになった大鎌をリングに突き刺してそれを軸にし、短い丈のスカート故に豪快に黒の下着をパンチラどころかパンモロさせながらの強烈なハイキックをミステアの顔面の左半分に叩き込んで蹴り砕いてしまった。


「「「お、おおぉおおおおお!!」」」


「ミステアが新人メイドさんに押されてるぞ!?」


「しかも、黒…だと!?」


「なんてサービス旺盛なメイドさんなんだ!!」


最初のメイドマグナム…ではなく、単なる盗品ライフルによる射撃はともかく、ミステアの武器を奪っては使い、時には躊躇い無く捨て、時には使用不可になっても利用する戦法、そして何より今までの戦いで勝利を納めてきたミステア相手に明確なダメージを与えた上にハイキック時のパンモロが効いたか?これには観客達ならびに一部の助平も思わず歓喜した。


「マジか!リクス御嬢様って普通に戦えたんだな!?」


「邪眼無しであれなら充分イける!!やれやれー!!」


「ブッフォオオオ!!?今の見た!?黒!黒の大人っぽいやつ!?大胆過ぎるの履いてるよ!あの娘!!」


「…フローラさん!?だ、大丈夫ですか!?」


「ムム…そのまま、鼻血出し過ぎて…死んでしまえ…」


思わぬリクスの善戦ぶりにバンホーとギャスクは驚きつつもそのまま応援し、フローラはパンモロシーンを見て興奮のあまりに鼻血を噴水のように流してカイナに介抱されてる…その様子を見ていたラガミは軽蔑しきった様な冷たい視線をフローラに送った。


「コケッ…コカカカカカカッ!!クキキキキキッ!!カケケケッ!!」


「どうした?御機嫌じゃないか?」


「ギギィイイイッ…逆だ!マヌケェエエ!!アンタさん、少々やり過ぎたねぇ?自分の顔が『こんな』にされたら…誰だって御機嫌どころか不機嫌になるだろがァアアアッ!?」


相変わらず狂人じみた笑い声を上げるミステアの様子にリクスは呑気に冗談混じりに機嫌が良くて笑ってるのかと明らかに的外れな事を言うがむしろ逆…砕かれた顔の左半分を補う形で漏れ出した青白い炎の中からリクスへの恨みで燃え上がるかの様に欠けた左眼と口を象ったドス黒い炎が浮かび出した。


「コカカカカカカ!!コケッ…ケキョッ…燃えろや!燃えろォオオオオオオ!!カハァアアアッ!!」


「…ぐっ…!?」


ミステアは体を思い切り仰け反らせ、勢いよく起き上がると同時に口から青白い炎を吐き出した。彼がまた何らかの武器を体内から取り出すものかとばかり思っていたリクスは回避出来ないならばせめてと咄嗟に尻尾を伸ばして盾代わりにし、直撃を防いだ、が…。


「…いな、いっ…!?」


「クケケケケケケケ!!コカカカカカカァァアアアアッ!!浅はかなトカゲ如きが…アッシを舐めてんじゃねぇやァアアアア!!」


先程の炎の勢いが止むとそこにミステアの姿は無かった…どうやら牽制の目眩ましらしく、気づいて背後を振り向くが時既に遅し、ミステアの腹を勢いよく突き破る形で飛び出した無数の黒い紐にリクスが絡め取られた。


「こんな、もの…!くっ!!」


「ココココ…抵抗は無駄ですぜ?コカッ…クキッ…北の地には鎖縛狼って種族がいやしてね、ソイツらは貪食紐という工芸品作りを生業にしてやす。コイツがまた頑丈な作りでしてねぇ~…例え竜が暴れても引き千切れねぇシロモノなんですぜ?これが…コカカカカカカッ!!」


リクスは拘束してる紐を振りほどこうとして暴れるも全く外れる様子も切れる様子も無かった…ミステアの使ったこの紐状のものは貪食紐(グレイプニール)といい、魔界の極北の地・魔氷河(ヘルグレイシャー)に住まう鎖縛狼(フェンリル)族達の作る工芸品らしく、一見しなやかで軽いだけの紐ながらも魔界のどの金属よりも硬く、故に(ドラゴン)が暴れてもビクともしない頑丈さを誇るという。


「コケケケッ…どうせアッシが武器を出したところでアンタさんに盗られてポイ捨てされるのが目に見えてやすからね…なのでやり方を変えやした。獰猛なトカゲちゃんは繋いでおかないとねぇ~。」


「ふんっ…随分と、いい趣味だな…。」


「クキケコカコッ…まだそんな眼が出来るんですねぇ?気に入らねぇな…!」


自分の武器を奪い取って戦うような相手にわざわざ武器を与えてやるような事をする義理は無いと言わんばかりに貪食紐で拘束することに成功…それでも尚、恐れを見せず顔色一つ変えずこちらを睨み付けるリクスの目を見て、ますます彼女にただならぬ危険性を本能的に感じたか、ミステアは最も残酷な処刑法の敢行を決意…彼の腹から何かが高速で回りだしたかのような物騒な金属音が聞こえてきた。


「さぁ、イッちまいなァアアアア…ミステア様のバラバラ殺人ショーの始まりだァアアアア!!コカカカカカカァアアアアッ!!」


ミステアの腹をブチ破り、最早収納スペースがどうこうどころではない巨大なチェーンソーが凶悪な豪音を上げて高速回転しながら出現した。


「ひぇっ!?なんだありゃ!!あんなもん、どうやって入れてたんだ!?」


「それになんてこと考えるんだ…身動き出来ない御嬢様をあれでバラバラにするつもりか!?」


「あ、あぁ…リクス様が、死んじゃう…!!」


「テメェエエエエ!!やめろ!このカボチャ頭ァアアアア!!それ以上やったらアタイがテメェを殺すぞ!?」


「ムム、万事休す…か。」


リクスのピンチを目の当たりにし、観客席のバンホー達は顔を青褪めさせたり、怒りを露わにしたりと、ミステアの残虐極まりない死刑執行に非難を示していた。


「んっ…ぐっ…こ、の…。」


「ケココココ!!だから暴れてもムダって言ってんだ…ろっ!?」


「もぐもぐ…ぺっ…マズイ、やはりダメか。」


「アッシの話聞いてやした!?噛み切れるワケねぇだろがァアアアア!っていうか喰えるか!?そんなもん!ムダな抵抗はヤメロッ!!」


必死にもがきながら貪食紐を外そうとしたリクスはとうとうあまりの危機的状況に気が動転したのか?それともこの期に及んで食欲が沸いたのか?貪食紐を食い千切ろうとするならまだしも食べ始めたが尚の事切れるワケが無かった…アホな奇行に走ったリクスにミステアはツッコミを入れずにいられなかった。


「なるほど、ならば…『ムダじゃない抵抗』ならしてもいいんだな?」


「キココココッ…マジで頭は確かですかい?抵抗にムダの有る無しなんざ関係無ェ、アンタさんは死ぬんだよ!!アッシが今まで殺ってきた剣闘士みてぇになぁああああ!!」


リクスの顔に諦めはまるでなく、むしろ今から逆転してやらんばかりに不敵な笑みを浮かべていた。そんな彼女の態度に神経を逆撫でされたミステアは心底イラつきながらリクスを拘束している貪食紐を強引に手繰り寄せてチェーンソーでバラバラにしようとする…この必殺の処刑法で彼は今まで、自分の手で殺した中堅剣闘士・キババをはじめ、多くの剣闘士達を殺害してきたため、これには絶対の自信があった。




…そう、『あったハズ』であったのだ…。




「はぁああっ!!」


「クコッ!?な、なにするつもりだッ!?何故自分からこっちに!?」


なんと、リクスは拘束された状態のまま、自らチェーンソーを剥き出しにして身構えているミステアに向かって勢いよく駆け出してきたのだ…覚悟を決めての自決か?はたまた、自暴自棄になっての特攻か?


「自分から突っ込んで来るたぁ、手間が省けやしたよ!クカカカカッ!!」


「そうか、だが勝つのは私だ。」


「コカッ?」


ミステアは最早、自分の勝利が揺らがない事を確信したのか…突撃してくるリクスに対しての警戒心は完全に無くなっていた。しかし、この世で最も恐ろしいバケモノとは強い魔族や魔獣でもない、『油断』の二文字である。




「獲ったァアアアア!!」


「コ。」




チェーンソーが身体に当たるか当たらないかのギリギリの位置に辿り着いた瞬間、メイド服の胸元の部分を掠めてビリビリに破れさせながらリクスはスライディング…リング上を滑りながらミステアの股間部分にキックを命中させた。所謂、金的攻撃である。


「「。」」


「「「ひっ…!!」」」


「あーっと!!?金的!金的です!(タマ)と玉、二つの意味でミステア選手の男としての尊厳がクリス選手によって奪われました!尚、一応これも反則ではないので悪しからず!しかし、これは痛い!私もなんかこう…アソコがキュッとなりました!!」


「「「こ、怖ァアアアア!!」」」


まさか過ぎるリクスの起死回生の一撃が金的などと想定外であった観客席のカイナとフローラは絶句し、バンホー・ギャスク・ラガミは同じ男であるからこそ解る痛みだからこそ共感出来たため自分の股間が潰れたような錯覚を覚えながら戦慄し、司会者や周囲の男の観客達もまた同様の感覚に襲われて股間を押さえながら身体を震わせた。


「コケッ…!?コッ…コ、ココ…コココ…!!」


強打された男のシンボルへのあまりの激痛のため、一瞬意識が飛んでいたミステアがようやく我にかえり、自分が痛恨の一撃を食らってはいけない部分に食らったと認識した途端、声にならぬ苦悶の声を絞り出すと同時に腹から突き出たリクスをバラバラにしようとしていたチェーンソーは完全に停止した。ミステアは股間を押さえながらその場に膝から崩れ落ち、身体を小刻みに震わせ俯せで悶絶していた。


「ふぅ…形成逆転ってヤツだな。」


「キ、キッ…キタネェ、ぞ…!!ゴガッ!?」


「おっと、スマンな…その辺に落ちてた石ころかと思って…。」


うずくまってる体勢のため踏んでくださいと言わんばかりに向けているミステアの頭をリクスは石と間違えて踏んだなどと白々しく嘘を抜かしながら躊躇無く踏みつけた。


それは見ようによってはとても奇妙な光景であった…痛みに堪えて急いで立ち上がるなりすれば有利なのは依然、ミステアのままだ。ここから巻き返せる可能性も十分にある。現にリクスの身体を縛る貪食紐は未だに外れてない、拘束されたままだというのに

彼女は余裕たっぷりに、深く暗く冷たい海の底の様な眼でミステアの無様な姿を見下ろし…足で踏みつけてるという獲物と狩人の立場の逆転だ。


「フフッ…どうだ?今の気分は?」


「フザケンナ!!最っ低、最っ悪にっ!!決まってんだろ!?」


「ほう?それはすまないな…メイドである私としたことが不覚にも客人に対してとんだ御無礼をしてしまった。御詫びに…。」


「グキッ!?」


「もっと御無礼して差し上げよう。」


リクスの中では完全にミステアは蹂躙しても良い弱者として認識していた。魔族特有の弱者に対する嗜虐心に火が点いたらしくサディスティックな笑みを浮かべてミステアの頭を蹴り飛ばし、仰向けの状態にする。


「え?ちょ、な、ナニするつもりでやすか!?」


「ナニって、なんのことだ?ンフフッ…言葉に出して言ってみろ。」


「アッー!!あ、あ…アッー!!困りやす!困りやす!そういうのは困りやす!!アッ、アァアアアアァアアアア!!」


蛇に睨まれた蛙…いや、この場合は蜥蜴に睨まれた南瓜か?反対にミステアはリクスに対して恐怖を覚えたらしくまるで身動きが出来なかった。身動きが本当に出来ないリクスの方はというとそんな彼の怯える様子を舌舐めずりしながら見つめ、足で股間部分に鋭い蹴りを入れてグリグリと抉り始めた。

ミステア自身、こんな屈辱的な扱いを受けるなど剣闘士デビューを始めた時はおろか、それ以前のことでさえ無い、生まれて初めての経験なためか両手で顔を覆いながら赤面し、絶叫が上がった。


「おい、おい…おいおいおいおいおいィイイイイイイイ!!ナニしてんスか!?御嬢ォオオオオオオ!!?」


「いいのかよ!?アレ!?いいのかよ!アレェエエエエエエ!!完全に調教じゃねえかァアアアア!!」


「あわ、あわわ…リクス様、なんてこと…」


「リクスちゃんンンンンン!!ソッチの道にイッちゃだめェエエエエエエ!!」


「ムム~…教育に、よろしくない…」


観客席で盛大にツッコミを入れたギャスクとバンホーが言うように今現在リクスがミステアにしてることは怪しいクラブの女王様がそういう趣味を持つ客にするSMチックな調教そのものでしかなかった。カイナは静かに赤面しながら俯き、フローラとラガミは道を誤ろうとしているリクスに不安を覚えた。


「クリス選手ゥウウウウウ!ミステア選手ゥウウウウウ!ナニしてんだ!?アンタ達はァアアアア!!この闘技場はそういうことヤる場所じゃねぇぞォオオオオオオ!!命のヤり取りの場所だぞ!?ゴラァアアアア!!」


「「「うっ…!?」」」


「「「ちょ、調教されてみたい…かも!!」」」


闘技場の主旨から大幅に外れた二人のアダルティックな行いに流石に司会者の反感を買ってブチギレさせてしまったため怒りの咆哮が上がった。一部のドMな観客からは逆に大変好評だった。


「ククッ…一理あるな、もう少し続けたかったが仕方ない、楽にしてやるか。」


「はぁ…はぁ…クッ…ケッ…え?そ、そんな…アッシはまだ…!!」


「なんだ?まだヤッて欲しかったのか?私を縛ってバラバラにしようとしただけでも相当なヘンタイだというのに、その私に踏まれて悦ぶなんてとんだヘンタイだな?」


「ち、違っ…そうじゃなくて、ひぎぃっ!?」


「悪いがこれ以上続けると司会者がウルサイんでな、とっととイけ。」


「コカッ!?アッ、アッー!!」


司会者のお叱りに渋々応え、リクスは顔を近づけながら、息を荒げて興奮するミステアに容赦無く言葉責めを浴びせ、足を高らかに振り上げ、メイドの…ではなく、冥土の土産代わりに思いきり黒い下着を彼に見せながら半壊していた頭を全て蹴り潰して、ミステアは絶頂と最期を同時に迎えながらリングの上で果てた…。




「あー…コホンッ…色々ありましたが、ミステア選手を打ち負かして今!今回が初デビュー、異色のメイド剣闘士・クリス選手の勝利です!!」


「「「うぉおおおおおお!!」」」


「「「わぁああああああ!!」」」


司会者によって勝利宣言が告げられ、観客からの歓声がリング中に響いた。彼女の剣闘士としてのデビュー戦はとんでもない形による勝利で飾られた…。

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