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第一話・御嬢様は食求不満

新連載はじめてみました、更新遅めになるとは思いますがよろしくお願いします

我々人間が住まう世界とは別の空間に存在する所謂『地獄』や『冥府』などと呼ばれる場所…『魔界(ヘルブラッディア)』、多種族間同士の争いが絶えぬ戦国乱世・群雄割拠の時代の真っ只中の世界。


此処で生きとし生けるモノ達の価値は強いか弱いかで全てが決まる弱肉強食の摂理、奪い・殺し・壊し・犯す、それこそが絶対的な基準、そんな世界でこの戦いの歴史に終止符を打てるモノがいたとしたら間違いなくこの世界の支配者となるだろう。


しかし、そうした血気盛んな様々な種族のモノ達は戦いの果ての勝利、奪い尽くしてしまった後のことなどまるで考えてなかった…そんな中、ソレにいち早く気づいたモノがいた…。




此処には太陽や月などというものは一切無く、黒雲によって常に暗天の空が広がるだけ、そして岩や木々などにはドスムラサキ色の臓物や脳髄に似た訳の解らない肉塊があちこちに張り付き時折赤い粘液や緑色のガスを吐く…それが魔界という世界のどこの地域にも見られるごく当たり前の光景である。


とある森林地帯…ドス黒い木々に覆われ、侵入者を見るや否やその肉と骨を喰うために這い出てくる大百足(オオムカデ)やそれが食い散らかした死骸を食する屍出蟲(シデムシ)と呼ばれる危険な蟲妖の類、魔界でも屈指の獰猛な『森の魔獣王』の別名を持つ鬼熊(オニグマ)といった猛獣がウジャウジャ住み着いている上に森の構造自体が複雑過ぎて一度入った者で生きて帰った者が存在しないということから通称『帰らずの森』と呼ばれている。


しかし、その迷いやすい構造と奥地に辿り着く前に侵入者が力尽きてしまう故に此処に住まうとある種族はその利点を生かして外界の騒がしい戦国乱世の影響を受けずにヒッソリと暮らしていた。




帰らずの森・最奥地、巨大な洋館のダイニングルームにて…。



「…。」


一見人間のようにも見える姿ながらも人間の耳にあたる場所にエリマキトカゲのような皮膜が生え、色素の薄い白銀のロングヘアーを軽くポニーテール状にし、気難しそうな堅い表情に暗い金色の瞳、華奢な肢体に纏う黒いドレス姿、胸元の素肌には蜥蜴を模した黒い紋様が描かれ、臀部に鉱石を寄せ集めたような外見の黒い蜥蜴の尻尾が生えた少女…この洋館の主にして邪眼蜥蜴(バジリスク)族の名家・ヴァジュルトリア家14代目当主・リクス・L・ヴァジュルトリア14世は鱗の生えたか細い指の両手でナイフとフォークを使って黙々とテーブルに並べられた魔界特有の異形の料理に一通り手をつけ、口元を拭くと同時に静かに立ち上がる…。


「おい、そこのキサマ。」


「ハッ、ハヒッ!?どっ…どうなさいましたか、リクス御嬢様!?」


「今すぐコックを呼べェエエエエエエエッ!!」


「ヒッ!?ヒィイイイイ!!直ちに呼んできます!!」


どうやら並べられた料理に気に食わない点があったらしく、リクスは先程までの寡黙さが嘘のような怒りの咆哮を上げながら、すぐ近くに立っていた緑色の鱗を全身に生やしたまんま蜥蜴を人型にしたような姿の蜥蜴人(リザードマン)の執事の内の一人にこの料理を作った料理人を呼べと命令を下した。


数分後、呼び出された黒い鱗に所々に髑髏の模様がある蜥蜴人の亜種である毒蜥蜴(ポイズンリザード)のコックはリクスの不機嫌を聞きつけてすぐさま厨房から駆けつけた…


「遅い。」


「すみません!片付けの最中だったもので!!それで…リ、リクス様…?私が作った料理になにか御不満でも…?」


「ある。大いにある。」


「えっ」


「キサマ…これはなんだ?」


リクスは数分もかけてノソノソ来たコックの不敬はとりあえず置いておき

、此度の料理の不満点を説明すべく、ある皿に盛られた頭部をくり貫かれて脳ミソ剥き出しになってる猿に似たナニカの生物の生首を指差した。


「この森で取れた(ヌエ)の新鮮な脳ミソでして、とても美味し…。」


「…。」


「リクス様!?ヒィイイイイ!!邪眼を閉じて下さい!!邪眼だけは御勘弁をォオオオオ!!まだ石になりたくないですゥウウウウ!!」


帰らずの森原産の頭が猿で胴体が虎と狸で尻尾が蛇という奇怪な生物・鵺の脳ミソの説明を最後まで聞くことなくリクスは無言で金色の瞳を血に染まったかのような赤黒い不気味な色の瞳に変えてコックを睨み付けるとなんと彼の両腕両足が徐々に石になっていく…これは邪眼蜥蜴族特有の邪眼の呪いによる力であり、一度魅入られたが最後、邪眼をかけた邪眼蜥蜴本人の意思で解除されない限り永久に石像となってしまうのだ。


「ハッキリ言うが…クッソ不味い」


「そんなストレートに!?なにがいけなかったんですかァアアアアア!!ひぇえええ!!石に、石になるゥウウウウ!!」


「私もこれがこの森一番の美味であることは理解している。だが、年々不味くなっていくとはどういうことだ?今日出されたものは特にヒドイ、鵺の脳ミソ本来の滑らかさの中にある生でも味わえる濃厚な口当たりと芳醇な香りがまるでない、パサパサしている上に腐臭が鼻につく、一口目でもうウンザリしてきた…なんかこう、牛乳を湿らせて乾かした紙束でも食わされたかと思ったぞ?」


「すみません!すみません!このところコイツら、なんだか質が悪くなってきて!!全部このクソ猿共が勝手に不味くなったのが悪いんですゥウウウウ!!」


コック曰く、この森で採取される鵺の脳ミソは年々味の劣化が目立ってくるらしく、それをなんとか料理の腕でカバーしようとかそういう努力皆無なコックは全ての責任を鵺に押し付けて自分のことは棚に上げる始末だった。


「こっちはなんだ?」


「ハイ!巨蟹(カルキノス)の甲羅焼き、人面樹添えです!」


「「「ケラケラケラケラケラ」」」


次にツッコミを入れたのは森の水辺に生息する化け蟹の一種である巨蟹と呼ばれるものを豪快に甲羅ごと焼いたもので、その側にはゲラゲラ笑うドスムラサキ色の人間の顔がついたミカンぐらいの大きさの木の実…人面樹の実が添え物として盛り付けてあった。


「「「ウケケケ!!」」」


「フンッ!」


「「「ゲピョオオオオン!!?」」」


リクスは表情を一切変えずに爪を立てた手で全ての人面樹の実を握り潰した…目玉や歯は飛び散り、脳獎じみた中身は赤い汁を垂れ流し、彼らの命は柘榴と散った。


「巨蟹はまだいい、多少は食える…が、人面樹の実が単純に不愉快だ。ムカつく笑い顔で食欲が失せる」


「見た目の問題!?クソッ!なんてことだ。こんなことならこんなクソ植物から実なんか採取しなければァアアアアア…うわぁあああ!!石化がますます加速するゥウウウウ!!?」


巨蟹の甲羅焼きに問題がなかったがどうやら添え物として人面樹を使ったことが問題だったらしい、リクスの怒りと呼応するかの様に食材に対して責任転嫁するコックの石化は徐々に早まっていった。


「これは?」


「ハッ、ハヒ!フヘッ…!リクス様の好物である霊酒(ネクタル)殺人蜂(キラービー)の蜂蜜割りです!!」


魔界で取れた様々な果実を組み合わせて作られた霊酒と呼ばれる人間界でいうところのミックスジュースのような煌びやかな液体を猛毒の針を持つ超大型の森の殺戮者・殺人蜂の巣から命懸けで採取した蜂蜜で割った飲料水であり、リクスが幼い頃から飲み続けていた大好物でもある…が。


「たわけ、私の小さい頃に飲んだものはもっとコクがあったぞ。」


「石に!あぁアアアアア!!?石になるゥウウウウ!!」


やはりダメだった…リクスが幼き日に飲んだものは今飲んだものとは比べ物にならないくらいの極上の甘さ、酒のほろ苦さとが見事に溶け合ったそれは素晴らしいものだった。そのせいか今のものは同じものとは思えぬ程、かつての美味とかけ離れ、見る影も無かった。


「ダメだ!ダメだ!ダメだ!なんなんだ!この不作ぶりは!?阿鼻叫喚草(マンドレイク)も苦くて硬い!屍番虫(デスウォッチ)の踊り食いも不可能な程マズイわ、猫妖精(ケットシー)の心臓も味が落ちて…肉も野菜も全てが過去最低のマズさだ!!森の中で魔界の戦争を静観しているだけの私にとっての数少ない楽しみなのに…一体どうすればァアアアアア!!」


「。」


遂に石と化したコックの様子など目もくれず頭を抱えながらその場に崩れ落ちたリクスは絶望した。いつまでも不毛な争いに身を粉にする他の魔界の阿呆な権力者や武人共と違い、彼女はそれに参加するつもりがないため、踏み入る者全てを生かして帰さぬ帰らずの森の特性を利用して静観してきた…当然ながら自分から森の外へ出る理由はないため、必然的に娯楽は限られてしまう。それを晴らしてくれる唯一の趣味が食事だけであったというがそれすら危ぶまれているのが現状だ。


「…ん?待てよ?そうか…今あるもので満足出来ないならば…。」


…と、ここでリクスはある妙案を浮かんだ。それは…。





「自分で作ればいいのだ!納得いくものを追求して!」


まさかの結論に至ってしまった。奪い、破壊し、殺す、それが魔界に住む者達が定めた鮮血の(ルール)…自ら何かを生み出すことが出来ない悲しき異形の者達が、一から何かを生み出すことが出来るものなのか?他の者が聞いたら間違いなく鼻で笑われ、それで終わるだろうが今の彼女は気にも止めなかったという…。

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