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9. 生活の始まり

 見世物になる覚悟を持って外に出たものの、その外には誰も居ないって言う期待外れ。って期待してねーよ。寧ろ幸運なのに何だろうか、このがっかり感。知らず知らずに調教されている気がする。


「独り占めー」

「触手で際どいとこ触んの止めろよ!?」


 そんな人っ子一人居ない大通りを、カタツムリに弄ばれながら進む俺はまさに見世物だった。際どいとこなんて、全くもって無いようなものなんだけどさ。


「その椅子リンリルに貰ったんだよね? 豪華で良いやつだよねー」

「豪華すぎるくらいだけどな。でも、クッション性は抜群だぜ」


 移動するって事で早速出番が来た訳だけど、俺には少し豪華すぎると思う。出した際のリンリルの説明によると、ロココ様式のシェーズロングをイメージして造ったらしい。なんかグミみたいな名前だよな。


 豪華な装飾が施されているのは分かるけど、そんな事より、この足を伸ばせる座面が良い。触った感じもふわふわだし、どんな生地を使ってるんだろうか。あと、背もたれにクッションが置いてあったのも最高。


 まさに無防備にだらっとしてたから、マイマイにいいようにされるんだろうけどさ。よく考えたら、これで店内とかに入ったら迷惑だよな。その時は大人しく仕舞うか。


「それよりさ、なんでこんなに人が居ないんだ?」

「お祭りだったからねー。皆ギルドで魔物の部位を売ってる最中だよ。朝方に終わったから、まだ行列も凄いだろうねー」


 祭りって言える肝っ玉が羨ましい。でも、そんな状況も何時もの事な為、要領の良い奴は欲張って狩るより、切りの良いところで先にギルドに行って行列を避けるらしい。マイマイよ、自慢か?


「なら、どこの店もやってないんじゃないか?」

「そこは、ちゃんとルールが決まっているんだー。店をやってる人は優先的にって」


 なる程なぁ、そこまでちゃんとしてるとなると、この十年の間でどんな事があったのか、少し気になってくる。それとなくマイマイに聞いてみると、マイマイがやってきたのは二年前で、その時にはもう既にこの状況だったらしい。


「啓司が凄く怖かった、って話しだけどねー」


 あの人は、俺の中で町長だよ。もうそうとしか思えないし。


 そしてマイマイの横を浮いて進み、やってきたのはカジーナの店。先に雑貨なんかを買ってしまうと荷物になるから、って言うマイマイの配慮には正直驚いたし、案外まともだったことに少し感動したりもした。


「おっじゃましまーす!」


 更にこの手の平サイズにも小さくなれるのが良いと思う。マイマイは結構大きいから、店に入る時はこうやって小さくなって誰かに運んで貰うらしい。居酒屋の時、全然気付かなかったんだけど。


 そんなマイマイを肩に乗せ、椅子を仕舞ってから浮いて店内に入る。すると、一人で酒を飲んでいるカジーナが目に入った。


「やっほー、早速飲みにきたの? って、あら。可愛い格好。ペロペロしたくなっちゃう」

「そんなとこー。あ、ご自由にどうぞ」

「ぶっ飛ばすぞ。って、え、武器の事で来たんじゃないのか?」


 怪しい視線と言葉に内心戦慄しながらも、カジーナの店なんだし武器の事だと思っていただけに少し残念。


 でも、そんな俺の反応に二人は呆れ顔だ。ペロペロ出来ないのを残念がっている、って訳じゃないなら良いんだけどさ。てか、目だけで表情を作るマイマイがなんか凄いな。


「武器造りはそんなに簡単じゃないっての。祭りもあったんだし、そんなに早くってのは無理ってもんよ。それに、武器が壊れた人も居るからそっちが優先」

「ヤータちゃん戦わないでしょー」


 ごもっともな意見すぎる。魔法が使えるんだし、もっと、ぱぱっと造れるかと思ってたよ。


 まぁ、魔法自体は使っているみたいだけどな。それを使ってなお拘って造っているからこそ、島で唯一の武器屋なんだとか。


「てかさ、ヤータの場合それどころじゃなくない? 居酒屋消滅したんだしさ」

「いや、それ初耳なんだけど」


 立ち話もなんだからと、カウンター席に座っていたカジーナの隣に座り、テーブルの上にマイマイを置く。そして、カジーナにレモンサワーを手渡されると同時に不穏な事を聞かされた。


 どゆこと? 俺働き口なくなったの? そんな俺の疑問に答えてくれたのはマイマイだった。


「リンリルがやりすぎちゃってね、居酒屋の周囲一帯が消滅してクレーターになっちゃったんだよ」


 その話、すっげー鳥肌もんだよ。俺が死んだのって絶対それの巻き添えじゃん。


 でもそれもあって、リンリルが俺の働き口を考えてくれたそうだ。俺の頭の中に恨みと感謝が同居している、いや恐怖の津波に流されそうだけどさ。


「ああ、あの雑誌の話ね。え、リンリルも加担するの?」

「うん、ヤータちゃんの事だしね。彼奴も大歓迎って言ってたし。で、ヤータちゃん。つまり、君にグラビアをやってもらいたいんだって」

「断る」


 俺的にまたまた不穏な話し。そこに流れるように俺への説明があったけどさ、仕事をくれるのは有り難いよ? でもそれは無理だろ、恥ずかしすぎるだろ。絶対恥ずかしいポーズさせられるじゃん。嫌だよそんなの。


「そもそも、雑誌ってなんだよ」

「雑誌は雑誌。まぁ、娯楽って事よ」

「十年の節目、この島では娯楽にも力を入れていこうって、この前決まったんだー」


 十年経ってから娯楽って、今までじゃ考えつかないような状況だよな。


 それなら今までは暇つぶしと言ったらなんだったのか。ふとした疑問を二人にぶつけてみると、答えは決闘。死んでも生き返る事からって言う理由なのが恐ろしい。


 何だろう、雑誌と言う言葉が天使かなにかのように聞こえてきた。


「写真撮られるだけで、月収五十万だよー? プラス、雑誌の売上次第じゃボーナスも」

「やらせていただきます」


 やべーよ、五十万って凄くない? いや、この島の物価は知らないけどさ、バイトしてた身としちゃあ、その額は魅力的だ。しかもボーナス、何という素晴らしい響き。胸が躍るな!


「ははっ、これ、勝ち組じゃね? 俺の時代が来たんじゃね?」

「そうかもねー」

「苦労しそうだけど」


 二人がどこか不憫な人を見る目で見てくるけど、写真撮られるだけなんだし、楽勝だろ。最初はどんな生活になるか不安にも思ったけどさ、これならなんとかなりそうだ。


 転生するまでのこの生活、絶対ハッピーライフにしてやるぜ!


「ところでさ、なんでマイマイはそんなに詳しいんだ?」

「巻き込まれたからー」


 今日、付き合ってくれているのも、それが原因なのか?


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