構って欲しい彼女
とある一軒家の中で、一人の男性が倒れていた。外傷はなく、その顔に浮かんでいるのは恍惚な笑み。下半身は見るも無残に腫れ上がり、その雫は玄関まで点々とした軌跡を描いていた。
室内は玄関を上がって直ぐにリビングが広がり、奥にキッチンと浴室、トイレといった水回りが集約された1Kであり、荒らされた形跡は一切ない。一軒家なのにこんな間取りをわざわざ造るのかと、近隣でよく話題となっていた。
冷蔵庫の中にはキュウリにナス、ゴボウと言った野菜が数本入っており、五徳の上に置かれたままになっていた鍋の中には、切り分けられた蒟蒻が煮込まれていた。炊飯器は見当たらず、パンが二枚残されていたことに、疑問を浮かべる者も多かった。
風呂とトイレは別々であり、トイレは今時珍しい和式のもの。底がないかとも思ってしまいそうな便器の底には、用を足した形跡などはなく、魔法を使ってきちんと処理をしていたものと思われる。綺麗好きとの近所からの評判も頷ける。
同様に浴室もカビ一つなく、脱衣所に置かれた洗濯機の中にも、髪の毛一本落ちていない。ただ、洗濯籠の中に無造作に放り込まれていたパンツの数は多く、どのタイミングで洗濯をしていたのかは図ることは出来なかった。
リビングにはテレビはなかったが、幾つかレンタルされた映像ディスクが確認された。観音開きの棚の中にノートパソコンが収められていたことから、それによって中身を観賞していたのだろう。
パッケージにはタイトルなどの情報は一切なく、ディスクにもそういったものは表示されていない。ノートパソコンにはパスワードが設定されていたため、その場で中身を確認することは出来なかった。
倒れていた男は昨日から見かけなくなったと、周囲で噂されており、家を訪ねた者もいたそうだが、いくらドアを叩いても現れる気配はなかったという。夜には部屋の明かりが灯されていたこともあり、居留守を使っていただけではないかと、これまた噂になっていた。
そして当日。用事があって家を訪ねた人物が、痺れを切らして中に押し入ったところ、この様な状況になっていたというわけだ。
この訪ねたという人物は、映像ディスクのレンタルを生業としている者で、昨日訪ねた者と同一人物であった。返却期限が過ぎていたので、催促に来ていたという。
――以上のことをリンリルから聞いたとき、俺はどう反応して良いのかが解らなかった。それを聞いて、どうすれば良いのかが解らなかった。
「えっと、つまりどういう事?」
「つまり、返却までにたまった映像をすべて見て発散しようと、魔法を使ってブーストしたら気持ちよすぎて意識を失っていたそうです。駄目ですよね、そういう事をしたら。気持ちの良いことは健全に行わないと」
「そんな話を俺にして、俺はどう反応すれば良いんだよ」
「もやもやしたでしょう? さぁ、私を抱きしめても良いんですよ!」
それは、ムラムラした時の反応だろうに。
最初から最後までよく分からなかったので、俺は静かに読みかけの小説を手に取った。事実は小説よりも奇なり――、ということにしておこう。




