デートプラン
「ヤータさんが喜ぶデートプランを考えました。聞いてください。――あなたに逢いたくて」
まだ鳥も鳴いていないような暗闇の……中というわけではないギリギリの時間。窓から差し込む薄明かりに照らされたリンリルの顔は、眩しいくらいの笑顔だった。張り倒したくて伸ばした手は、力なくベッドへと落ちていく。
「――後五分」
眠気はまだ、俺の中にある。いくらリンリルが逢いたいと願ってくれたとしても、絶賛ベッドとのランデブーの真っ最中なのだ。アバンチュールとも言う。ララバイでも良い。
しかしそんな無言の抵抗も何のその。彼女は「では発表します」と問答無用で何かを語りだした。どうか子守唄になりますようにと、遮ることなく聞いてみる。
「先ずは集合場所で待つヤータさんに向かって、膝カックンをします」
小学生かよ。いや、膝カックンなんて今どきの小学生だってやらねーよ。この島は昭和か? ギリギリ平成か? せめてバブルくらい盛大にやってくれよ。
「集合場所は目立つモニュメントの前がいいですよね。ルーユにゾンビでも借りようかしら」
ゾンビの前で待ち合わせてデートをする剛毅なやつなどいるものかよ。ゾンビの前だぞ? 目の前にゾンビがいるんだぞ? むしろエンカウントだぞ? 絶対絶賛戦闘勃発中だろうよ。これから来るであろうリンリルをゾンビから守るために懸命に戦う俺。そんな俺に対して、お前は膝カックンをすると言うのか。
「ゾンビを横目にクレープでも食べたいですね」
むしろゾンビに食べられる瀬戸際なのですが? もしかしてゾンビと戦う俺を無視してんの? それともクレープを武器にする斬新な展開なのだろうか。薄いクレープが刃のようになって、丸鋸のようにゾンビを切断してしまうとか。
……駄目だ。ドーナツがモンスターとなって襲い掛かるパニック映画よろしく、クレープまでも襲ってきそうだ。
「次はホームセンターでショッピングをしましょう」
あぁ、クレープは武器にならなかったか。モンスター案件だったのかもしれない。ゾンビクレーパーと名付けよう。すぐに忘れるだろうけど。
それはともかく、ホームセンターはいいチョイスだ。武器には事欠かないし、食料もある。幸いゾンビは一体だけだから、ショッピングの間に振り切ることも出来るだろう。
「店員がゾンビだと面白いですよね」
面白くねーよ。大惨事だよ。自ら死地に踏み込んで、そこでショッピングなんて出来るわけ無いだろう。おまけに店員がゾンビだと言うのなら、既に店で買い物をしていた客がいた場合、彼らもゾンビになっている恐れがある。
逃げ込んだ場所から逃げるのは、心理的にも難易度が高いのではないだろうか。クレープが待ち構えているかもしれないし。もうこんな所に居られるか! 俺はクレープを食べてやるぞ! ――そういった客がクレープに食べられてしまうのだ。
「フードコートが混んでいたら、順番待ちをしながら何を食べるか相談しましょう。今度こそクレープですね」
それはもしや、フラグというものでは? クレープが売っているのなら、店の中は既にクレープだらけになっているのではないだろうか。ゾンビがひたすら厨房でクレープを焼き続けて、殺人クレープを次々に量産していくのだ。その名もゾンビクレーマー。……なんか違う。
ともあれ、それらを排除してバリケードを築いて、生存者はその場をやり過ごしているのだろうか。厨房で見つけた武器を構え、他に役立つものはないかと探しに行った仲間を信じて待つ。しかし、次にやってくるゾンビは彼らなのかもしれない。つまりゾンビビリーバー。
「うーん、私はやっぱり、ピザが良いですね。ヤータさんは何が好きです?」
丸いものは危険だ。それがゾンビになる条件なのかもしれない。ならば何が良いだろう。――麺がいい。うどんとか、胃に優しいものがいいなぁ。朝ご飯にうどんとか、正直理想だと思うのだ。温かなスープに、少し柔らかめにした麺。卵と絡めたりしたらもうたまらない。
ああ、なんか目が覚めてきた。脳がほどほどに覚醒して、まだ布団から出れずにグダクダしている時間、ついつい妄想してしまうのは俺だけなのだろうか。
「うどんとか、かな」
「そこは蕎麦って言ってほしかったです。こんなにもお側にいるのだから」
寝起きに駄洒落は突っ込めねぇ。あと、どうか馬乗りにならないで。昨日食べすぎたピザが出てきそう。




