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島の電気事情

「君に頼みがあるんだ」


 ギルド長に呼ばれやってきたときは、面倒事が起きたのかと若干憂鬱になりました。けれど室内にいたリンリルの深刻そうな顔と、どこか元気のなさそうなハムスターの体と声色を見るに、面倒事だからか厄介事なのだろうと、俺は尚更帰りたくなったのだ。


「回し車が壊れた」

「それが深刻なことかよ」


 思わず突っ込んでしまったけれど、場の空気は和やかなものにはならなかった。普段なら『いいツッコミですね』、なんてツッコミを入れそうなリンリルも、今は強張った顔で黙り込んでいる。その表情を見て、俺は詳しく説明しろと視線を向けた。


「ヤータさん、残念なことなのですが、これが本当に深刻なことなんです。実はこの島の電力はギルド長が回す回し車によって賄っていたので、蓄えていた電力がなくなればこの島は停電してしまいます」


 思った以上に深刻だった。聞けばシュールな話なのに、実情が深刻すぎるだろう。


「これまで不眠不休で頑張ってきたんだ。みんなの笑顔を、便利な暮らしを守るために! なのにこんな、こんな終わり方なんて! 私は、私はまだ頑張れるのに!」

「ギルド長、ヤータさんに本音を打ち明けてください」

「ごめんなさい嘘ですもう終わりにしたいです。新しい発電方法を作ってくださいませ」


 いい話が台無しだなぁ。


「ヤータさん、このままでは男性を集めて自家発電をしてもらわなくてはならないんです!」


 いい話が台無しだなぁ。


「もしくは常時発電できるように誰かしらに情事にはげんでもらうしか!」


 いい話が台無しだなぁ。


 さっきから聞いていれば、リンリルの深刻さを表しているのは表情だけだよね? 発言から察すれば、此処ぞとばかりに巫山戯ようとしているだろ。いや、巫山戯ているのか。これがもしも真面目な発言なのだとしたら、むしろ発電なんてしなくてもいい気がする。


「いや、新しい発電方法を作るのはいいんだけど、魔法で発電すればいいだけだろ? 何のための魔法だよ」


 そう、そこなのだ。ギルドが発電しなくとも、必要ならば個人個人が発電するだろう。例え発電するような魔法が使えない人が多くとも、数人できればそれで十分だろう。……何かできない理由でもあるのだろうか。その問いにリンリルは「誰かが魔法で発電したとして、へそ曲げられて途中で拒否されたらどうするんです?」と、この島に暮らす人々の性格を分かりやすく教えてくれた。

 そして続けて、「それに、それを仕事としてしまったとして、自由な風土にそれは合うのでしょうか。時代は感情が入らないオートマチックなのです。ギルド長は感情を捨てられなかったのです」と、新参者の俺には感じ取れない部分も教えてくれた。


 というか、ファンタジー的な世界観であるはずなのに、近未来的な発想すぎて耳がキーンとなりそうだ。そんな懐かしいツッコミは、場を和ませることができるだろうか。感情を捨てきれないギルド長あたりなら、何かしら反応してくれるかもしれない。

 ――いや、ハムスターらしからぬ奇妙なダンスを繰り広げているのを見ると、無性に腹が立って仕方がないから無視しておこう。


「ヘイヘイヘーイ。早く発電しちゃいなヨウ! でも発情はゴメンだゼ!」


 どうやら無視はさせてもらえないらしい。長年の仕事から解放されたからといって、さすがに羽目を外しすぎだろう。めちゃくちゃ重い回し車を作ってやろうか。


「ご覧の通り、ギルド長はもはや当てにはなりません。痛い目を見せようとしても無駄です。すばしっこさは島随一なので。ここはもう、ヤータさんだけが頼りなんです」

「……ギルド長の脳波によって回る回し車でも作るか? 働かざる者食うべからず、だ」


 だるまのような動きで踊るのを止めたハムスターが、頭を抱えてのたうち回った。


「ファンタジーにあるまじき暴挙! ごめんなさい。仕事は他にもあるので、そちらを頑張ります。むしろ、そちらに手がつけられていないせいで、ギルドで買える物資の値段が高すぎたのです」

「ギルドの売り上げによって、ギルド長の体力にバフがかかっていたのです。そういう要素もあったのです。それがなくなれば、だいぶお買い求めやすくなると思いますよ」


 どんな要素だよ、と呆れてみれば、すかさず「神様の趣味です。ちょっと意味わかんないですよね」と笑ってくれた。その笑いの意味は、とりあえず考えないようにしておこう。俺って、その神様と全く同じ姿をしているからね? その意味が俺に向けられているような気がして、心底居心地が悪いのだ。


 こほん、と一つ咳払いをして閑話休題。


 なる程、そういうことならちゃんとやらないといけないよな。チョコレートが安く買える。それだけでも俺が動く意味があるというもの。あと、アダルトグッズが安く買えるようになれば、島民からの信仰心もうなぎ登りなのではないか。

 そういう人たちだということは、俺ももう解っている。


「じゃあ、ドラゴンの羽ばたきによる風力発電と、口から出る炎による火力発電でどうだろう」

「採用」


 かくしてドラゴンは、ハムスターによって生贄とされたのでした。

 窮鼠猫を噛むどころか、巨大なドラゴンですら噛んでしまうのは、まさしくファンタジーと言うべきなのではないか。ともあれ満場一致で可決したそれはすぐに実行され、ドラゴンさえも悠々と従える俺の信仰は、なおのことうなぎ登りなのであった。

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