オオアリクイ
啓司の酒場で朝ご飯を食べたあと、部屋に続く廊下を進んでいるときだった。出るときには気が付かなかった、いや、なかったはずのものに気が付いたのだ。
「手紙、か?」
白い封筒に入った一枚の手紙。俺が部屋を出ている僅かな時間に、ドアの隙間に差し込まれていたことを考えると、どうしたって怪しく感じてしまう。
どうせまた、リンリルの仕業であろう。そうなると読まないことのほうがリスクが高いだろうと思い、俺は部屋のドアを開けて中に入りながら、封筒から便箋を取り出して読み始めるのだった。
――拝啓、お元気ですか? 私は元気です。それはもう、ビンビンに元気です。朝から手がつけられなくて、貴重な時間を十分ほど消費してしまうほど元気です。
さて、今回このような手紙をこのような方法で送らさせていただいたのには、当然理由というものがございます。それは少し、面と向かっていうのが恥ずかしく、また、その場面を想像してしまうのも少し、元気になってしまうので、という至極どうでもいい話でもありますが。
唐突ではありますが、私には夢があります。どうしても会いたい人がいるのです。それは……。
やっぱりちょっと恥ずかしいですね。少し別の話をして気を紛らわせてから本題に入りたいと思います。私は幼少期より、動物が大変好きであります。愛している、などとは言いませんが、最愛の相棒を我が家に迎えたこともあり、とても信頼を寄せた存在であるのは確かです。犬から始まり、猫、鳥、トカゲ、フェレットやウサギも飼いました。それらは前世での話であるため、今はもう、いい思い出として心のなかにしまっている次第であります。
あなたが連れている虎やリス、ネズミを見て、少し羨ましくなったのが、この手紙を書いたきっかけの一つであることは、間違いのないことです。ぜひ一撫でさせてほしい。それは堂々と、お会いして頼みたい事柄であるため、この場では彼らにファンが居る、程度に思っていただければ幸いです。
ほんの少し、気持ちが落ち着きました。なので勇気を出して、本題へと入らせていただきます。
私の夢は、私が日頃から夢見ることは……そう、オオアリクイに襲われて旦那を亡くした未亡人に会いたいのです。そしてこう言ってやるのです。オオアリクイはそんなことしない! あんたの主人がどうせ、悪さをしたんだ! オオアリクイは、オオアリクイは悪くないんだからな! と。そう惨めになじられる未亡人をそっと抱きしめ、……私のものにしたいのです――
文章の途中でそっと便箋を閉じ、もう二度と開かないとの思いで封筒にしまった。これは本当に、リンリルからの手紙なのだろうか。もしも違うというのなら、今後、この手紙の主に会うことがあるかもしれない。そう思うと、ちょっぴり怖くなってくる朝なのだった。




