駅弁
ギルドの売店で見かけた雑誌コーナーに、何故か置いてあった日本の旅行雑誌。値段もお手頃だったため、暇潰しにと買って読んでみたのだけど……。
「これに隠された意思に、俺は気が付いてしまったかもしれない」
自分以外に誰もいない部屋にて、俺は誰かに聞いてもらいたい想いを隠さずにそう呟いた。
「俺はみんなの要望に応え、列車を創った」
それは森までを繋ぐ列車であり、広い草原を横目に揺られるのは中々乙なものである。
「それなりに乗っている人はいるらしいから、更なる欲求が生まれるのも無理はないだろう」
もう一度、旅行雑誌の表紙に目を向ける。そこには、――魅惑の鉄道旅行と書かれていた。
「なんか名所を創れと言うことか!」
「ぴんぽーん! 正解です」
そして期待したとおり、何処からともなく現れたリンリルが回答に花丸をつけてくれたのだった。道理で値段もお手頃なはずだよなぁ、俺が買わなきゃ意味がないんだから。
「花畑とか、建ち並ぶ風車とか、色んな景観がみたいそうですよ。その為だったら、ヤータさんに色々とサービスしたいという人も大勢います」
「例えば?」
「駅弁とか」
鉄道旅行だけに? でも駅弁かぁ。偶に啓司が弁当を作ってくれたりもするけれど、それは普通の海苔弁なんだよな。ご飯の上に海苔を敷いて、白身魚のフライをでんと載せたもの。
それはそれで美味しいし、非常に満足できるものなのだけれど。駅弁、駅弁かぁ。その言葉には普通の弁当にはない魅力を感じてしまう。
ご当地の名産品が使われてきたり、紐を引けば温まるギミックがあったり。日常とは違う体験が出来る旅の醍醐味と言って良いだろう。
……いや、それをくれるってのは名所を創った上でのことではなかろうか。つまりは拒否権などないのでは? 人の願いを叶えることを拒否できる権利がある。それは少し気分が高まることではあるものの、それを行ってそっぽを向かれてしまったら、俺はなにも出来なくなってしまうからなぁ。
やはり、信じられてしまえば拒否権などないのだろう。気持ち良く答えれば、きっとお互い気持ち良くお礼が言い合えるだろうから。
「因みに体位の話です」
せっかく俺が気持ちの良い落ちをつけたというのに! ……いや、リンリルのも気持ちの良い落ちだとは思うのだけどさ。
「体を差し出されて願いを叶えるとか、俺魔王みたいじゃん。やだよそんなの。俺はみんなから信頼される神様でありたい」
「神様なんて、子供をつくってなんぼじゃないですか」
その偏見はどうかと思う。いや、まぁ、メジャーな神話の神様は子沢山だけどさ。
「そもそも、俺の下半身には何もないんだ。そんなのを貰っても意味がない」
「言葉責めというのもあるかと」
俺はそこまで上級者ではないのですが。
「だから、俺はみんなから信頼される神様でありたいの。汚い言葉なんて使いたくないね」
「パロディーもののアダルトビデオを借りたと思ったら、実は元ネタの物を借りていた。そんなときになんて言います?」
……それってさ、汚い言葉を引き出すための問答なの? 俺にはその状況が想像できないから、なんの言葉も出ないのだけど。
「分かんない。……あ、この言葉を妙な変換にするなよ」
「……あーあ。つまんない」
そう残念そうに呟いて部屋を出ていくリンリルの背を見て、ふと気が付いた。こうして、信仰というものは減っていくのだろうか。他人の期待に応えるのって、難しい。




