散歩道
木漏れ日のカーテンに彩られた淡い緑色の苔たちは、朝の露に濡れてキラキラと輝いている。そんな幻想的な空間は、俺が癒しの空間が欲しいと森の中に創ったものだ。
そっと椅子のように盛り上がった木の根に腰掛けると、足元に白い虎が横たわった。スンスンと、木の根を取り囲むように茂る苔の匂いを確かめる。肉食ではあるものの、食欲をそそられるような匂いでもするのだろうか。雑食性を普段から見せている、ネズミとリスはモグモグと口に運んでいる。
あぁ、癒される。自然に、動物。こういう空間って、良いよなぁ。
「散歩道って言葉、さをちに変えるとエッチですよね」
残念! そんな空間はリンリルによって見事に壊されてしまいました。
此処に来るまでに歩いてきた、角材を並べて作った散歩道には卑猥な玩具が所々に落ちているのが見える。そんな、そんなたった一言のためにばら撒いたというのか? そんなの、……ただの暇人じゃないか。
「なぁ、なんでこんな癒しの空間でそんな下ネタを言うんだ?」
「え、それはモロチ――勿論、癒しの空間だからこそ言うんじゃないですか」
……いや、まぁ、確かにその手の行為は癒しを求めてやるものだとは思うけど、いや、癒しか? 殆ど興奮して終わりなような? でも、興奮するってことは癒されていることでもあるような気もする。
え、もしかして言いくるめられてる?
「私は、こういう空間で癒されたいです」
それ、どういう意味で言ってるの? 俺と同じように穏やかな心を持つ意味で? それとも話の流れそのままの意味で? ちょっとシンキングタイムくれねーかな。
「こんなところに座ったら、つゆでお尻が濡れちゃいそうですね」
なんかもう、そんな言葉もエロく聞こえてしまうんですが!? それさ、素直に苔の上に座ると露で濡れてしまうって意味だよね? 他の意味なんてないんだよね!?
「はぁ、一息につきますね」
なにその微妙な言い回し。それって座って一息ついたって意味だよね? それにしては間の“に”という一文字が、どことないエロスに聞こえてしまうのですが。
「ふぅ、声が漏れてしまいそうです」
漏れて良い声と漏れちゃいけない声って、あるよね。野外だとなおのこと。よし、決めた。俺はなにがなんでも突っ込まないぞ。……その決意すら変な意味を持ちそうなんですが。
「そろそろ、いきません?」
それは帰ろうよって言っているんだよね? なんかもう、最初から最後まで紛らわしいことばかり言いやがって。
「あ、外に出しちゃ駄目だったのに」
「ゴミ拾い、ちゃんとしてから帰れよー」
まったく。人の癒し空間に、卑猥な物をばら撒くんだからさぁ。そう言う物はしっかりと家の中に仕舞っておいて下さいなっと。
てか、すれ違い系のコントを下ネタでやるとこんな風になるのだろうか。……まぁ、欠伸をする虎を見るに、笑いどころは謎だけどなぁ。




