痛気持ち良いもの
自分の部屋に鞭を持って現れた人を見て、人はなんと発言するだろうか。声にもならない悲鳴を上げるだろうか。それとも一目散に逃げ出すか。
「ヤータさん、エスエムチャンスですよ!」
けして、誰かを囃し立てる様なことは言わないはずだと、俺は思う。
「黙れよリンリル。俺は断じて、そう言うのは求めていない」
ベッドに腰掛けていた俺をまるで差し出すかのように、後ろからグイグイと背中を押すリンリルの腕を振り払う。てか、さっきまでこの部屋にいなかったよね、こいつ。何時の間に入ってきたの? 鞭をもったこの人と一緒に来たの?
「あなたの意見なんてどうでも良いわ。私が求めている。それだけで良いの」
良くないと思う。とは、口が裂けても言えなかった。もしもその様なことを言ったら、俺はどうなっていただろう。……開けてはいけない扉を開けていたかも?
何故なら、鞭を持ち俺の目の前に立つこの女性、クイーンは痛みを快感に変える魔法を使うことが出来るのだから。……いや、俺はその魔法が効かないのだけどね。だからこそ、開けてはならない扉を開けそうなんだけどね。
「まぁ、そんなことはどうでも良いわ。あなたに作ってもらいたい物があるの。痛いことが気持ち良いと思えるもの。それが欲しいのよ」
「いや、お前痛みを快感に変えられるじゃん」
「バカの一つ覚えに魔法魔法、ソレじゃあつまらないでしょう?」
この世界を簡単に否定してくれるのな。俺はろくに魔法が使えないから羨ましくて仕方がないのだけど。まぁ、その分みんなが俺を信仰してくれればなんでも出来るような物なんだけどな!
「なんというドエス。で、例えば何よ。足つぼマッサージとか?」
「それは駄目ね。剣山を使ったら泣き叫んで終わりだったもの」
剣山と足つぼを一緒にしないでくれる!? それはもう拷問だからね? プレイなんて言う生易しいものではないからね!?
「じゃ、じゃあ電気風呂とか? この街の銭湯にもあるけど、あれ気持ち良いよな」
「電気は駄目よ。加減が難しいから」
……この人ってさ、やっぱりこの街で一番危険な人物だよね。加虐趣味が極まってるよ。てかさ、そもそも俺は痛気持ちいものが好きとか、そう言う趣味はないんだよ。電気風呂が精々だけど、痛みを感じたら驚くし、苦痛に思うだけで、そこに気持ちよさは感じないし。
でも、敢えて上げるとしたら、あれだろうか。俺の人には言えない、ちょっとした趣味のような物。
「ヤータさんは、折り畳んで尖らせた紙の角を指で叩くのが好きなんですよ。ソレをやっているといつも笑顔で、私もほっこりしちゃいます」
――恥ずかしくて死にそうなんだけど!? 見られてた、見られてたのか俺の憩いの一時を!?
「だから、剣山は駄目なのよ」
俺の癒しの一時をソレと一緒にしないでくれるかな!? ちくしょう、ここはもう、ズバッと解決策を出して、この羞恥心を取り払ってくれる!
「もうさ、飴と鞭みたいな感じに、痛みの後に優しさをあげればいいんじゃねーの?」
「飴のように固めた後で鞭で滅多打ちにするのね。一応、試してみておくわ」
……根本的に、話が通じていないようです。羞恥心も越えて、なんとなく虚無感を感じてしまう俺なのでした。




