恐怖の都市伝説!?
それは、カジーナの店で酒を豪快に飲んでいるときのことだった。
「瓶ビールを豪快に、さ。あんた、それ楽しんでんの?」
「なんかこう、しゅわーっていうのを楽しんでる」
その楽しんでる? と言う問い掛けは、色々と含みのある物だったのだろう。アルコールを無効化してしまうこの体では、酒に酔うなんて事が出来るはずもなく。かと言って酒の美味しさが分かるわけでもない。
だってさ、ビールって苦いじゃん? でもしゅわしゅわ感は好きだから、とりあえず飲みたくなってしまうのだ。……自分でも、とりあえずで瓶ビール一気はおかしいと思う。炭酸飲料の瓶とは違って、本当に一升瓶のようなもので一気飲みをしているのだ。正直重くて腕が疲れるから、コップで飲みたいというのが本音である。
けれど、俺が口をつけた瓶ビールは高く売れるらしいからしたがない。おこぼれは頂いているから、俺は大人しく喉に流し込むだけなのだ。
そういうのを含めての、楽しんでんの? という問いかけなのだ。まぁ、多少の金銭を受け取っているからには、この程度の事は楽しんでやりますよっと。なんかこう、飲んだ後の成分的な物を気になって調べてみたら、やたらと健康に良さそうな栄養素が増えていたそうだから。
ほんと、この体って不思議。
「でも凄くないか? こんなに炭酸を飲んでもゲップ一つ出やしない。これぞ神の力!」
「ゲップでもしてくれた方が、ギャップで可愛く映るかもしれないけどね」
それ、幻滅されるだけだと思う。
「カジーナは、男の前でゲップできんの?」
「大丈夫。あたしのゲップを聞けるほど、酒に強い奴なんていないから」
……いや、カジーナも其処まで強いわけではないよね? むしろ酔い潰れるからゲップが出るまでもないんじゃねーの。
「あ、今の話で思い出した。この前ここで暇な奴らと集まって飲んでいたんだけどね? みんな酔い潰れて寝静まった後に、いきなり悲鳴が響き渡ったのよ」
ふーん。誰かがふと起きてゲロをしたら、それがかかった奴が悲鳴を上げた、っ話かな?
「その悲鳴でみんな起きたのだけど、悲鳴を上げた奴はガタガタと震えながら青白い顔でビクビクした声でこう言ったの。「女が、知らない髪の長い女が豆がない、豆がないって俺の股間を弄るんだ!?」って」
……え、痴女?
「それ、寝ぼけた参加者なんじゃねーの?」
「その時、女はあたし一人だけだったのよね。もちろん、あたしはそんなことしてない。トイレで寝てたから」
吐くのはゲップだけにしてくれねーかな。ゲップに関しても、トイレでしてるってだけって勘繰ってしまうのだけど。つーか、じゃあ寝てる間に誰かが此処へ侵入したって訳か。でも、なんで豆? なんで股間? 訳わかんねーな。
「その話を他の奴にもしたんだけど、前から同じ目に合ってる奴が結構いたらしいの。それも、男ばかり」
……ああ、だから豆がないのか。なんとなーく、察した気がするよ。
「そんな話を思い出して、ふと思ったの。ヤータ、あんたが被害に遭ったとしたら、ちゃんと男として扱われているんだなって」
……やべぇ、それすっごい嬉しいかも。だって、だってさ。銭湯へ行くと絶対に女湯へ連れて行かれるんだぜ?
体に性別はない。生前は男だった。なら、男湯に入るのが自然ってもんだろ? なのに何故か女性達に女湯へと誘導され、すべすべもちもちな肌を撫で回される。それが嬉しくもあるが、やはりどことなく寂しい気持ちになってしまう。
だが、だが、もしも今の話に上がった行為の被害に遭ったのなら、その事がみんなに知れ渡ったのなら! やっぱり俺は男だったと、みんなが認めてくれるのではないだろうか!
そんな野望を胸に持った俺は、借りている部屋へと帰り早々に就寝を果たした。
――そして夜。
「どうか、豆をください神様」
初めて見る幽霊型の魔物から、土下座をしながらそう懇願される俺なのだった。……どうやら、俺の性別は神らしい。




