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怪しいキノコ

「ヤータさんは、どんなキノコが好きですか」


 しゃがんで何かを見つめるリンリルは、俺に視線を向けずにそう問い掛けてきた。好きなキノコか、そう問い掛けられても食べたことのあるキノコなどたかがしれている。椎茸にシメジ、舞茸にエノキにナメコってところではないか。


 あぁ、パスタやハンバーグのソースなんかではマッシュルームも食べたことがあったか。エリンギはどうだったかな? 中華でよくあるキクラゲは、キノコに入るのだろうか。あれ、未だによく解らない存在だよなぁ俺的に。


「エノキのシャキシャキ感とか好きだなぁ。鍋に入っていると嬉しい」

「エノキですか。……細すぎません? 私はもっと太い方が好きなんですけど」


 ……その返しってさ、変な発想をした時点で負けだよね? リンリルのことだから狙っているんだろうけれど、生憎、俺は食べ物を下ネタで例えるのは嫌いなんだ。


「あぁ、ヤータさんはキノコよりもアワビの方が好きですもんね」


 だから下ネタに絡めるなっての。はぁ、こいつを連れてきたのは失敗だったかもなぁ。今回、リンリルを連れてやって来たのはある意味俺のテリトリーとなったも同然の森なのだけど、そこに毒キノコが生えているらしいことが気になっていたんだよ。


 俺に付いてきているネズミやリスの仲間からの苦情で知ったのだけど、魔物達も毒キノコには参っていた様で、胞子を浴びるだけで死んでしまうような危険なものもあったらしい。


 それは困ると、ちょちょいと弄って毒キノコが生えないようにしたのだ。けれど俺では毒キノコかどうかなんて見分けることは出来ないだろうし、魔物達もよく解っていないらしく、本当に毒キノコが生えていないかどうかを確かめるためには専門家の力が必要となる。


 それで食材と言えばで啓司に相談したところ、ギルド職員なら詳しいと教えられ、有無を言わさずリンリルが付いてきた、と。……こいつの詳しいキノコって、本当に菌糸類のことなんだよな?


「松茸とアワビのお吸い物だったら飲んでみたいけどな。それよりちゃんと調べてくれよ? 俺とネズミ達じゃ毒キノコかどうか解らないんだから」

「そのことで聞いておきたいんですけど、毒キノコは生えないようにしたんですよね?」


 え、そういう聞き方をするってことは、生えていたってこと? うわー、もしかしたら微妙に信仰心が足りなくて、排除しきれないものがあったのかもしれないな。もしくは、新たに誕生したとか? だとしたらどうしようもなくなるのだけど。


「その筈なんだけど、やっぱ生えてた?」

「いえ、生えていませんよ。この島の毒キノコは独特の魔力を放っていまして、森に入ればあるかどうかは直ぐに解ります。大丈夫、毒キノコは生えていませんよ」


 あ、それは素直に良かったと思う。でも、それならなんであんな意味深なことを言ったのだろう。そして何故、リンリルはしゃがみ込んだまま動かないのだろう。……何かをじっと見つめている? その正体は?


 そっとリンリルの傍により、頭越しに何を見つめているかを確認してみる。すると其処には――。


「めっちゃ毒キノコだ」


 白をベースとした中に、赤い水玉模様が散りばめられた正にと言うような毒キノコが生えていた。


 いや、確かこの手のやつにも食べられるものと見分けが付かないものがあったはず、リンリルも毒キノコは生えていないと言っていたから、これもその手のやつなのだろう。じゃあ、これは美味いのだろうか。


「……ここで一つ、あるお話をして差し上げましょう。街にある男がいました。その男は女の子にもっとキノコ狩りを楽しんで貰えるように、あるサプライズを仕掛けました。それは、うっかり座ったらキノコがお尻に刺さってしまったドッキリです」


 いや、ドッキリ言うとるやん。サプライズって言いだしたんなら、最後までそれで通してくれよ。てか、それただのカンチョーだよね?


「黄タイツ公式動画配信サイトで公開されているので、気が向いたらどうぞ」


 一生気が向くことはないと思う。ていうか、この島にも迷惑配信者的な者が居るのか。しかもそれが黄タイツ、あの股間を好きなように変化させられる魔法を持つ彼奴というね。


 ……え、てことは、このキノコって彼奴の股間なの!? だからリンリルはそう言う話を振っていたの!? うわ、こっわ。


「一応言っておきますけど、あの人、人を喜ばせたいという気持ちだけは本物ですよ。動画についてもちゃんと許可とか取っていますし。ただ、尽くしたいだけなんです。方向性はアホですけど」

「ふーん。キノコだけに、奉仕の心ってか?」

「上手いこと言いますね。このキノコ食べます?」


 要りません。

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