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 檻のように爪を立てて地面に刺さるドラゴンの手の中で、不機嫌をあらわにするかのように前足で土かくうり坊。


 その視線は常に俺の方へと向けられており、この折から解き放たれれば、真っ先に俺のスラリとした腹へと鼻先が突き立てられるだろう。


 怖すぎる。恐怖しかない。今このタイミングで死にたくないよ? このタイミングで街に死に戻りしたって、瓦礫の山と化し巨大な足跡をこさえた非情な現実を目にするだけだから。


「リンリルさんや? このうり坊、なんだか俺にだけあたりが強くない?」

「そりゃそうですよ。諸悪の根源みたいなものですし。いいですか? 周りをよく見てください」


 リンリルの言葉に従い、俺は恐る恐る周囲に目を向ける。……回復したスッケルがエリーヌちゃんと戯れるのを、ルーユが楽しそうに眺めていた。


「ぎゃぁぁぁ!? 花粉地獄から解放されたと思ったら今度はゾンビかよ!? なんなんだ、ここはディストピアか!?」


 ほんと、魔王様の趣味は悪すぎる。


「パニックホラーに混ざりたいのか?」


 なんて、ちょっと現実逃避気味に答えてみる。


 正直、理由はなんとなく解っているんだ。ドラゴンが言っていた腹が減っているという要素と、リンリルが言う周りをよく見てみろという要素を組み合わせれば。


 うり坊が草原に居たら、そりゃ食い物も少ないんじゃないかと。


 うり坊には番人的な役割を与えられているらしいから、草原から離れるわけには行かないだろう。


 その何処に餌場があるというのか。


 森なら餌が豊富だろうけれど、そこに立ち入るわけにもいかず。餌を探すのは専らエリアの境目か。


 しかし、だ。


 チラリと肩に乗るリスに視線を向ける。境にある餌は誰のもの? あー、縄張りは厳守される訳ね。そんなちょっとしたテレパシー。


 街では茄子味に絶望して食物を栽培することもないし、うり坊、完全に詰んでますわ。


「……神様は、何故うり坊にこんな試練を与えてしまったのか」

「深く考えてないと思いますよ? 考えて行動していたら、今みたいな状況はないですもん」


 そりゃそうだ。


「ヤータ様。そろそろ食事をご用意なさっては如何か?」

「それはそうだけど、うり坊はどんな物が食べたいんだ」

「若い人だそうですぞ」


 生け贄じゃねーか。え、ドラゴン、それ本気で翻訳してんの?


「失敬、若いウドが食べたいそうですぞ」


 ははっ、若いウドだけに若人ってか。つーか、うり坊も間違えられるのを承知で若いウドなんて言い回しをしてるだろ。ウドで良いじゃんウドで。


 ……ごめん、俺、ウドなんて食べたことないから見た目すらも解らない。


「ウド、ウドねぇ。味を元に戻すことは出来るだろうけど、それって森に生えてんの?」

「リスやネズミなら解るのでは?」


 あー、確かにその二匹なら森の植物にに詳しそうだ。トラだと転生者を襲ってばかりだろうし、生えている植物なんて障害物としか認識してないだろ。


 頼めるか。そう視線を投げ掛けると、二匹は颯爽と森の方へと駆けていく。


 やべー、今の俺ってアニメの魔物使いみたいじゃなかった? 格好良さが滲み出ていなかったか?


「スク水に汗が滲んでいる程度ですね」


 お前はなんで人の尻を撫で回してんの? ドラゴンとの会話に混じってこないと思ったらさぁ。リンリル、そう言うところだぞ? そう言うところが嫌いになるんだぞ?


 てか、そりゃうり坊に襲われたら冷や汗だってかくっての。


「尻の割れ目をなぞんな。人の尻を触るくらい暇なら、リス達の手伝いでもしてこいよ」

「そんなこと言って良いんですか? 私の信仰心がなくなりますよ?」


 この日、この時。俺達のパワーバランスが明確になった。

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