前門後門!?
探し物を効率よく行う方法を述べよ。
その質問に対しての答えは複数あるだろうが、今回選んだ物は捜索と言うよりもむしろ、捜査というべき物だった。
「ギュマブルレシャアァァァ」
草原と森林の境をのんびりと歩く一団から、そんな奇声が聞こえてきたらどう思うだろう。
「ニュミカシュブリャァァァ」
俺は絶対に近寄りたくない。
「チュゥゥゥギュハルシャヂャァァァ」
「もう無理だよ、此奴をなんとかしてくれよ!」
そう頭を抱えてしゃがみ込む俺の太股に、声の主が心配するように擦り寄ってくる。
ぬちゃぁ。
何かが付着した。
「エリーヌちゃん。すっかりヤータさんに懐いてしまって。製作者として誇らしいわ」
この台詞だけで、この状況を理解してくれるだろうか。そう、奇声を発する物の正体は……ルーユが造ったゾンビ犬なのである。
なんて冷静でいられるわきゃねーだろうがよどう考えてもさぁぁぁっ!? やだやだ、なんかもう、いやぁぁぁっ!? なんか付いてる!? 太股になんか付いてるよぉぉぉ!? コートを捲って擦り寄るとか、なに器用なことやってんの!?
お利口か、お利口さんなのか!? 絶対に褒めたくはないけどさっ!
「りんりる、りんりる拭いて! なんか付いてるやつ拭いて!」
「愛が籠もった液体じゃないですか」
「めっちゃ固形物だよ! プルプルしてるよ! うっわ、目が合った!?」
「あら、再生しておかなくちゃ」
くそう、下ネタ気味の返しに普通に答えてしまった。けど、うわぁ。自分の太股を直視できない。普通の犬が懐いてくれるのならとても嬉しい。けど、こんな、生々しいゾンビの犬なんて。
つーか、製作者は冷静すぎだろ。そもそも再生するなら完璧な犬にしてくれよ。
よし、虎に抱き付こう。顔は怖いけどモフモフだもん。これはけして差別ではない。趣味の領域なのだ。けして交わらない趣味の領域なのだ。
「ルーユ、頼むからうちに帰してやってくれ。何かを探すのに犬の鼻は確かに有効だと思う。でも、でもゾンビは無理だ!」
「そうですよルーユ。自分の趣味を押し付けないで下さい」
「むぅ、こんなにも可愛らしいのに」
なんて言っているルーユだけど、けしてエリーヌちゃんに触れようとしないのはどうかと思う。
けど、それに触れてはいけない気がして突っ込めない。曲がり形にも魔王様なのである。……怖い。
「それなら、うり坊に訊くしかありませぬな」
そう言うドラゴンは、何時の間にかうり坊を手の平に乗せていた。そしてそのうり坊は、足に力を込めて突撃体勢を取っている。
ブルブルと空気が震えるのを感じた。視線はただ真っ直ぐに、……俺を捉えている。
くっ、こうなりゃ威嚇だ。なるべく大きく見せるために両手を広げて仁王立ちだ!
「ちょ、ちょっと待てよ。お前、俺に体当たりする気か? 俺はオーラに目覚めた神様のスペア的な存在だぞ! その俺に神の使いであるとお前が仇なすぐはぁっ!?」
悲しいかな、腹に頭突きを喰らい膝を折って蹲る俺を、慰めてくれる奴は此処には居ない。
「ヤータさん、そんなに魅力的なお尻を突き出してしまって、誘ってるんですか? このリンリル、それに乗らない手はありませんね」
「ちょ、不潔よ不潔! まっ、エリーヌちゃんもそんなに興奮しないで頂戴! 飛び散ってるから、なんか色々飛び散ってるから!」
「ははっ、皆さん元気いっぱいですな。ところで、どうやらうり坊は腹が減っている様子。美味しい物でも食べさせたら如何か」
「目、開けら、鼻無理、喉がいでぇぇぇ」
誰か、俺の代わりにこの状況に突っ込んでくれ。




