おっちょこちょいでは済まされない?
「よくぞここまでやって来た。勇敢なる勇者よ歓迎しようぞ!」
水晶のように煌めく氷の通路を進んだ先。そこにあったのは昔、この島へ来る前によく見ていたような光景だった。
黒板消しを挟んでみたくなるような引き戸、八畳ほどの小さな部屋の中央に置かれた丸テーブルの上にあるパソコン。
小学校にこんな隠れ家のような部屋があったのなら、昼休みには此処で隠れるように過ごしていただろう。
そんなかつての憧れによって温かくなった胸を押さえつつ、テーブルの前に置かれた椅子に座る。
うん。コロコロと回るキャスターは、良い感じに動きそうだ。これでテーブルの周りをぐるりと走ったのなら、転びそうなスリルと疾走感に興奮間違いなし。
「あれ? おーい、聞こえてないのか?」
お、壁にはホワイトボードが設置されているじゃないか。真っさらなそれに、どんな落書きをしてやろうかとワクワクしてしまう。
定番なのは、ちょっとエッチな落書きかな? バレたら恥ずかしいとも思ってしまうが、それでもその場のノリに任せてやってしまうのが若さだと思うのだ。
故に、黒歴史は増えていく。時は未来にしか進まないのだから。
「無視か? 無視なのか?」
掃除道具が入ったロッカーは、なさそうか。モップをギターのように構えたり、バケツをドラムのように使うことは出来ないらしい。
この狭い室内、ライブ会場にするにはピッタリだと思ったのに。
「そろそろこっちを見ろ。罰を与えるぞ」
「あ、はい」
なんて、少し怒気の籠もった声を聞き、俺はキョロキョロと彷徨わせていた視線を素早くパソコンへと向ける。
本体の隣にある箱のようなモニターに映っていたのは、よく、よーく見覚えのある顔だった。
「ははっ、本当にそっくりな顔だ。それでこそ、同じ物を作っただけあるというもの。此処に入ることが出来たのも、その証拠と言えるだろう」
こっちを見ろといった割に、独り言のように話を進めるのはどうなのだろうか。そう気になったものの、若干面倒な予感がするのでスルーしたい気持ちもある。
というか、リンリルの目的はやはり、俺を此処に連れてくることだったのか。
「一つ、質問良いか?」
「ふむ? まぁ、いいだろう」
そう怪訝そうな顔で頷く同じ顔を見ていると、なんとも不思議な気分になってくる。しかし、相手は神様である。俺を、この島の住民を生み出した根源である。
……気分を損ねたら、本当に罰が与えられてしまうのでは? なんて、そんな恐怖を今更ながら感じてしまう。
「オーラみたいなのって、なんなんすか?」
「お? うーん、リンリルはそんなことも教えていなかったか。あー、今回教えようとしたけど、面倒を起こして無理だったか」
……あー、なんかもう、次から次に面倒なことが起こりそうな予感がプンプンするな。本当に、この空間に閉じ籠もっていたくなるよ。
「まぁいい。教えよう。それは信仰心だ。誰かの願いを叶えれば、力を貸せば。それはお前の力となってくれる。その部屋に入る鍵でもあるな」
なる程。ネズミ達が俺に懐くのも、信仰心あってのものなのだろう。そう考えれば、島にやってきた直後にオーラが強かったというのも納得できる。
あの頃は、島の住人にも神様だと思われていた。だから信仰心が厚くオーラが強かった。しかし、町で過ごす間に人となりが知れ渡り、信仰心もなくなりオーラが弱まった、と。
それが森にやってきたことで、まだ見た目で判断してくれる者が居たことで。こうしてオーラをある程度操れるようになったと。
それが、リンリルの目的だったと。
「そんな訳で本題だ。その部屋はこの島のコントロールルームであり、エリア毎の境にそれぞれに対応した物が設置されている。エリアに対応するコントロールルームが、島を上空から見て右側にある感じだ」
……コントロールルーム?
「パソコンを弄ってくれれば解ると思うが、そこでオブジェクトの配置や植物等の味や見た目などを設定できる。本来、我がそこへ行って調整するはずだったのだがな」
だがな?
「いやー、うっかり島に入れるのはギルド職員と転生候補者だけにした所為で、我が行くことが出来なくなってしまったのだ! うむうむ。通信が繋げられただけでも運が良かったと言うべきか」
……え?
「なんとかハッキングでも出来ようかと頑張ったのだが、もうこれは、もう一人の自分を『そちら側』で作るしかない。そういう結論になってな」
……だから、その為に、俺には何も知らされていなかったと?
「あははっ! あやつら、初期設定だけでよくぞ今までやってこれたな!」
……神様でも、他人事になれるんだなぁ。




