4. 諦め
ここから文字数が減ります。ごめんなさい。
俺は運動神経は悪くなかった。速くはないがちゃんと走れるし、縄跳びは得意なほうだった。ただ、球技に関してはあんまりだったけど、授業でやった柔道では受け身も投げ技もちゃんと出来た。
「先ずは槍の方が良いかもしんねぇな」
俺は悪くねぇ、なんて言いたい気分だ。
棒を振るえば振り回されるし、回転させようとすれば顔に当たる。散々だった。誰だ棒なら良いとか言った奴は。
はぁ、これで大きな胸でもあったら、啓司もさぞ楽しかっただろうに。……いや、ほんと何考えてんだろ。
「そう気を落とすなよ、まだ初日だぜ?」
確かにそうなんだけどさ、この体のお陰でハードモードなんだよぁ。いっそ楽になりたい。楽をしたい。よく考えればだ、別に探索しなくても運が良ければ町中でも宝玉は手には入る訳で。
もういっそ戦闘度外視で、いかに楽が出来るか突き詰めてみるか? 先ず始めに上がる問題は、歩くのが億劫なところだ。車椅子か? いや、腕が疲れる。そうか、浮かべば良いのか。それなら何処も動かさなくて済む!
「おおっ! 出来た!」
「パンツ見えてんぞ」
浮かぶことは出来たけど、勢い余って大開脚だ。大人しく見守ってくれていた啓司には、見苦しいもの見せて本当にすまん。後はこの仰向け開脚体勢をどうにかするだけだけど……、出来ない。
「なにプルプルしてんだ?」
「じょ、上体が起こせない! 腹筋がぁ」
「魔法でうつ伏せになればいいだろうが」
……おおぅ、魔法って便利だな。ふわふわ浮かぶことも、こうして自由に体勢を整えられる。これってさ、上手くいけば物を浮かせたりも出来るんじゃないか?
うん、思いの外上手くいった。
試しに足元に落ちるさっきまで使っていた棒を浮かせてみたが、体を浮かせられたようにすんなりいけた。それだけじゃなく、自分で扱うよりも自由に回転させられる。最早醜態を晒す必要もない位に。
「ある意味才能だな、それなら十分戦闘出来るんじゃないか?」
「そんな事しない。俺は町から出ない」
「は?」
いっそ町に引きこもって宝玉が来るのを待つと伝えると、啓司は呆れながらもそれも選択だな、と納得してくれた。この選択をする者は当然他にも居たらしく、初めは啓司の店で預かっていたらしい。
でも、ニートが出来るほどこの町は甘くなく、もれなく全員手に職を得たらしい。それでも最低限の戦闘力は必要だと忠告を受けたけど、魔物の襲撃の際は否が応でも戦わなくてはいけない状況になるそうだ。
「弱い者は当然何度も死ぬ。それが嫌なら戦えないとな」
「それなら武器は槍が良いよな、飛び回りながらチクチクやれば良いだけだし」
俺の言葉に、啓司から最初は真面目そうな子だったのに、と呆れと悲しさが混じったような呟きが漏れたのが耳に届いた。
俺だって最初は頑張ろうとしたさ。でも体が否定したんだ、叫んだんだ。楽をしたいって。
ひとまず訓練は終わりという事で、仕事の説明の為に啓司の店へ向かうことにした。
「あら、随分可愛くなったじゃない」
武器屋兼酒場に戻れば、早速カジーナが今の俺の奇妙さに反応してくれた。うつ伏せになり腕はだらんと下ろし、屈んだように足を曲げた体勢はカジーナには可愛く映ったのだろうか。
でも、後ろに回ってワンピースの裾をめくるのは止めていただきたい。俺ってそんなオーラ出てる? 何でも許しちゃいそうなオーラ出てる? 怒る気なんてさらさらないんだけどさ。
「もっとセクシーなのが似合うんじゃない?」
「女じゃないからな? 男でもないけど。それに、元男にはハードル高い」
あんたもそんな口か、とバンバンお尻を叩くレジーナの反応をみると、性別だったり種族を変えた人は結構居るみたいだ。
詳しく聞いてみると、中でも動物系は人気があるらしい。けれど、一部は深く関わると痛い目見ると忠告された。きっと欲望垂れ流し何だろう。
「それで、武器は決まった?」
「槍を頼む」
「あら、それは助かるわ。使う材料が少なくて済むもの。どうせなら、あなたに合うような物を造ってあげる」
それと、しばらく飲み代無料にしてあげるわ。そう耳元で囁かれ、内心テンションが上がってきた。生前はまだ酒が飲めてなかったからな、どんな味がするか楽しみだ。
「そうだ、気が向いたらこいつを此処でも使ってやってくれ。こいつ町に引きこもるってよ」
「良いわねそれ、給金は相談に乗るわ」
どうやら働き口にも困らなそうだ。何時でも待ってると言葉を受け、礼を言い店の外へ。既に人気も去った道を歩く啓司の後を浮いて進み、大通りに戻ると何やら奇妙な物体を見つけた。
それはカタツムリみたいな存在。みたいと言うのも、あんなヌメヌメしてそうな感じではなく、プロが可愛く書きましたって感じでデフォルメされている。
つまり相当可愛い。あの殻の上に乗ったら相当メルヘンだと思う。
「おう、マイマイじゃねぇか。成果はどうだったよ」
「やっほー、無理だったよ。転がって逃げるので精一杯」
クリクリした目が可愛いなぁ、と感じながら二人の会話を聞いてみると、どうやらマイマイというカタツムリはドラゴンの卵を食べに山へ行っていたらしい。結果は本人が言ったとおりで、ドラゴンが深追いしてこなくて助かったとも言っていた。
そろそろ紹介してくれと禿頭を小突くと、仕返しに頭を叩かれそのまま軽い感じで紹介。マイマイは神様が緩くなったぁ、と目をゆらゆらさせていた。
「マイマイの体って特典なのか?」
「そうだよぉ、可愛いでしょ?」
すっごく可愛い。どこから声が出てるのかとか謎が多いけど、この子は流石にカジーナが忠告してきた一部の奴じゃないはずだ。そう思っていると今度は啓司が忠告してきた。
「こいつ、服溶かしてくるから気を付けろよ」
もしかして粘液出すのか? いや、今まさに地面溶かしてるよ、服どころじゃないじゃん。聞いてみたら加減は効くそうだし、そこは安心だけどさ。
今の所、出会った中だと変な奴の方が多くなってきたんじゃないか? 大丈夫かな、この町でちゃんと暮らせるだろうか。……、探索に出ることも考えておこう。