それはよくある落ちだった。
森林エリアと氷山エリアを繋ぐトンネルの中、俺達は薄い壁で隠されていた横穴を見つけることが出来た。
中は大型バスがすれ違えるほど広く、更に奥深くへと続いていた。
俺達は奥へと進んでいった。
それがどんな結果に繋がるかも分からずに。
「うぉぉぉっ!? マジか、マジかよ!?」
そう叫びながら全力で走り、来た道を引き返すのは、心強い助っ人だとばかり思っていたスッケルさんです。
それがどうだろう。情けない声を上げ、がむしゃらに走る姿は声だけじゃなく情けない。
しかし、その理由も解らなくはない。そりゃ、どんな攻撃、どんな能力も効かない壁、回転しながら迫ってくる壁を背にすれば、情けなくも逃げるしかないか。
それなら俺はどうなのかって? 虎に抱き付いてりゃ勝手に逃げられますもん。虎も余裕そうに尻尾をユラユラと振っているし、その頭の上ではリスとネズミが寛いでいる。
……はい、虎の威を借る狐状態です。
「スッケルがんばれー」
「気分を乗せるなら虎に乗せてくんねーかな!?」
上手いこと言ってんのなら、まだまだ余裕はありそうだな。
そうしている間にも隠し通路を抜け、元いた通路との境まで辿り着いた。
片足に力を入れ、横に滑りながら振り返るスッケルと、勢いそのままに跳び上がり、壁に足を着けて三角飛びで着地をする我らが虎。
かっこよさのレベルが違ぇ、なんて感心しながらも隠し通路に視線を向ける。すると先程まで逼っていた壁のようなものは、通路を塞ぐように入り口に填まり、溶け込むように質感が変わり、元のような壁となっていった。
「押し出された、感じなのか?」
そう呟く俺に。
「倒せなさそうってことは、進むには条件があるのかもな」
そう答えるスッケル。
確かにスッケルの攻撃も虎の攻撃も、ネズミやリスの攻撃も一切効かなかったあの壁は、倒すことは出来ないだろう。
しかし、そう決めつけてしまうのも、考えを狭める要因となってしまう筈。
「本当に、倒せないかな? 滅茶苦茶強い攻撃力を持った魔物とかいねーの?」
「あー、お前なら仲間に出来るのか。そうだな、ドラゴンは、……此処には入れないし朝居なかったから除くとして――」
ドラゴン、ドラゴンねぇ。あいつあれのこと知ってたんかな? 知ってたんなら攻略法くらい教えてくれたって良いだろうに。
「近場にいるとしたら、ユニコーンくらいか」
……いやいやいや。
「ユニコーンってさ、たしか処女の前にしか出ないんだろ?」
「そうだぞ」
「いんの? 処女」
「昔はいた」
今は居ないんじゃねーか! ちくしょう、娯楽が少ないって破廉恥だな! つーか居たとしても、今更街に戻るのは面倒だっつーの!
そう思わず頭を抱えてしまう俺に対し、ポフポフと背中を撫でるような感触が広がる。
虎よ、慰めてくれるのか。そう手を伸ばして頭を撫でようとすると、そこに居たネズミとリスが何やら俺を小さな手で指さし、何かをアピールしているようだった。
俺を指さし、虎が背中を撫でる。スッケルを指さし、虎が背中を叩く。
俺は、よしよし? スッケルは、……痛い。痛、あ、罰。バツ?
あ! そうか、もしかしてそう言うことなのか。そういう、ことなのかぁ。
「なぁ、スッケル。あれって特定の人物には反応しないんじゃないのか? お前、此処のこと知らなかっただろ」
「……あ」
結果、俺一人だけなら先に進むことが出来ましたとさ。よくある落ちだけど、実際に体験すると心臓に悪いよなー。……被害者が。




