洞窟でどう寛ぐ?
お宝が眠る洞窟とやらは、深い森を突き進んだ先にあった。
この島は中央にドラゴンが根城としている巨大な山があり、その裾野にドーナツ状となって様々なエリアが広がっている。
洞窟は、この森林エリアと隣り合う場所、壁のように聳え立つ氷壁とも言える氷山の裏側にあった。
「へぇ、滝みたいになってんのか」
その場所を一言で表すのなら、そう表現できるだろう。上空から流れ落ちてきた水が冷え固まったような形。そして裏側へと回ることが出来るのを見れば、誰しもそう思うだろう。
「此処を登れば氷山エリアに行けるんだが、裏側に洞窟があるなんて初めて知ったぞ」
そう首を傾げながら、洞窟の入り口をまじまじと見つめるスッケル。森を中心に活動してきたこいつなら、境目である此処にもよく来ていたのだろう。
それにも関わらず知らないと言うことは、最近急に現れたと言うことか? もしくは、俺達が出現する要素を満たしたか。
……いや、ドラゴンが然り気無く教えてくれたことを考えるに、リンリルが用意したものと考えるのが妥当か。
黒幕は何らかの要素のために作ってみたが、本人が来られないため本来の順序通りに進まなかった。どうせ、そんなところだろう。
「散々森を彷徨った挙げ句、辿り着いた此処で洞窟を発見し一夜を明かす。そんなシナリオだったんじゃねーの?」
「あぁ、なる程な。それなら筋が通るか」
納得できたのなら、洞窟内に入るとするか。ポンポンと跨がる白い虎の背を叩くと、のしのしと薄暗いその中へと進んでいく。
中は、一面が氷に覆われていた。と言うよりも氷そのものだろう。しかし寒さを感じることはなく、空気も潤い快適な環境だと言える。
「おかしいな。あの氷瀑を越えたら途端に気温が下がる筈なんだが。……中ならまだ影響の範囲外なのか?」
隣を歩くスッケルが、再び疑問を呈する。リンリルは、どこまで準備していたのだろうか。島の仕様だろうか。筋立てには納得できるものがある。しかし、疑問点を挙げればキリがない。
スッケルのように島をよく知るものならば、そう感じてしまうのかもしれない。
「この洞窟、どこまで続いているんだろうな」
そう愚痴を零してしまうくらい、視線の先は暗く見通すことが出来ない。しかし、風が吹き抜けているのを肌で感じることが出来る。つまり出口は確実にあると言うことだ。
「正直、未知の場所だから分からん。その虎は知らねーの?」
試しに、虎の背中をポンポンと叩いてみる。フルフルと、首が横に振られた。
虎は、この洞窟の存在は知っていた。けれどその洞窟がなんなのかを知らない可能性があるのか。
となると、リンリルが用意しているのを見たから在処は知っている。しかし中に入ったことはないから詳しくは知らない。そう筋立てに肉付けをすることが出来るだろう。
「リンリルの仕業なのか?」
少し悩んだような沈黙の後、虎はゆっくりと、悩むように首を横に振った。
「リンリルが関係しているのは確かだけど、この洞窟を用意したのはリンリルではない、と?」
今度ははっきりと、首を縦に振って頷いた。
リンリルはこの洞窟を用意したのではなく、ただ単に利用しようとしていた? それならば、何故この洞窟は現れたのだろう。
……魔物と、リンリルはその存在を知っていた。スッケルはその存在を知らなかった。
「冷えてきたな。ヤータ、もう少し手前でベースキャンプを作るぞ。この洞窟、しっかり調べた方が良い」
その意見に、頷いて同意を示す。此処にリンリルが居ればはっきりしたのであろうが、居ないのならば自分達で調べるしかない。
気温が下がってきたことも考えると、次のエリアに入ってしまったのだろう。寝床を作るのなら、寒さを避けるのは当然か。
「ドラゴンがお宝があると言ったのなら、転生者では知り得ない何かがあると考えられる。ギルド職員のリンリルも関わっているのなら、怪しさも増す」
もう一度頷き、同意を示す。それを見たスッケルは、神妙な顔つきで口を開いた。
「とりあえず、カキ氷一杯食おうな」
「お前本当に現状理解してんの!?」
「だってお前なら味付きの氷に出来るかもしれないんだろ!? 茄子味じゃないカキ氷の良さを知らんのか!?」
知っているけど、知っているけどさぁ。茄子味を熱く語っていたお前にそんなことを言われると、なんかなー。
そう遣る瀬なさを感じながらも、ポケットの中で期待を表すように暴れるリスとネズミの存在を感じながら、俺はチョコバナナ味のカキ氷が食べたいと強く望むのであった。




