暗い道中
俺には行き先が解らない。この道中は、それに尽きるものだった。
土地勘もなく、生き残る術もない。そんな俺にできることと言えば、ただひたすらに前を歩くスッケルの後に続くと言うだけ。
足を挫きそうな木の根は蹴りの一振りで容易く粉砕され、小石は踏み潰され粉々に。元は獣道だろうその道とも言えないような場所は、俺が歩く頃には快適な道路となっていた。
こいつ、恐ろしく強い奴だった。
俺にとっては快適で、ただただ散歩のような道のりだとしても、スッケルにとっては息もつかせぬ戦闘の嵐。
先ず、突然の落とし穴である。
僅かに頭が下がったのは見えたが、気が付いたときには変わらずに歩いており、穴も塞がっていた。
何をしたのかも解らずに混乱していると、次に現れたのは行く手を阻むように現れた無数の振り子。
スッケルを目標に四方八方から放たれた振り子は、最早罠と呼ぶには大胆な攻撃だった。
しかし瞬きした僅かな時の間に、それらは全て消え去っていたのだ。俺は更に混乱した。しかし彼の歩みは止まらず、俺も遅れまいと進むしかない。
「気が付いているか?」
そうスッケルが問い掛けるが、俺には何のことか解らない。
攻撃されていることだろうか。それなら見れば解ることなのだから、一々質問するようなことではないだろう。ではなんだ。俺は、何かを見落としているとでも言うのか。
「先ず最初の落とし穴だが、あれはモグラの罠だ」
沈黙は否定の意思だと察してくれたのか、坦々と説明する声が辺りに響いていく。
「これに関しては飛行すれば避けられるものだが、お前のように勘が悪いと面白いように引っかかる」
あからさまにディスりやがった。そう悪態をつきたくなるが、その言葉にハッとする。
面白いように引っかかる、と言うことは、俺はそれを躱しているわけではないというではないか。
「解ったか? 俺が防いでいるのさ。俺は、透明にすることが出来る。自身の姿も、自身の行く道も」
一言で言えば、その魔法は分かり難い。しかしそれは言葉で聞いたからであって、体験するとかなり分かりやすい物で、シンプルであり強力なものだ。
透明にする。透けて、明らかにする。スッケルには、罠というもの、攻撃というものが透けて見えているのだろう。
そしてそれを明らかにしている。ここが分かり難い所だが、それが罠だと明らかになっている以上、罠に引っかかるという事象を避けることが出来ているのだ。
その恩恵は、同じ道を歩ませて貰っている俺にまでも及んでいる。だからこそ、俺は安全にこの道を歩んでいるのだろう。
木の根も、小石も。彼の行く道にとって邪魔であるから、あんなにも軽々と消えていく。
こんな事が出来るのか。こんな事まで出来てしまうのか。魔法というものは。
ここまで力の差を見せられてしまうと、空を飛んで、包丁を自在に操って喜んでいた俺のなんと小さいことか。
ふと、自分の胸元を見る。そこには、一見胸と見える空気の塊がくっついている。
ジュンが作り出した胸。最初見たときは呆れもしたが、これも使い方によれば恐ろしいものになる。なんせ、空気を自在に操っているのだ。それを強力と呼ばずになんと呼ぶのか。
俺の心を知ってか知らずか、未だ歩みは止まらない。何処に行くかも解らない。
こんなことを企画したリンリルは、俺にどうなって欲しいのか。このサバイバルで、それに気が付くことが出来るのだろうか。
安全な道のりのお陰か、余裕が出来た心に影が差す。木々の影がでは、リスやネズミが悔しそうに鳴いていた。