触手の防具は甘くない!
「ふんふんふーん。早く着てみてーなー」
そんなウキウキした心を素直に口に出しながら、服屋の店主の笑顔に見送られて店を出る。
今日買った服は、ある意味コレクションと言っても良いほどに集めている文字入りのティーシャツ。今回のは目が合った瞬間から、その魅力に取り付かれてしまったのだよ。
……いや、文字しか入っていないから目なんかないんだけどさ。
それよりも、『死したウミウシの屍を拾う者とかさぁ』なんて、凄い言葉だよな。この、そんな奴いねーだろ的な存在をディスりにいく姿勢、そこにどうしても惹かれてしまうんだよ。
てか、ウミウシって死んだら屍が残んの? なんか死んだら溶けていきそうなフォルムなんだけど。
なんて、どうでも良いことを考えながらフラフラと歩いていたのがいけなかったのか、直ぐに宙に浮く椅子を出さなかったのがいけなかったのか。
「耳こちょ!」
「うわぁぁぁっ!?」
いきなり耳を触手に襲われるという、とんでもない悲劇に巻き込まれてしまったのでしたとさ。
つーか、俺はエルフじゃないんだから、耳が弱点とかそんなことないんだぞ? 急にそんなことされたら驚くだけで、嫌悪感しか感じないんだぞ?
「止めろマイマイ! 塩かけるぞ!」
「ヤータちゃんのしおならだいかんげいー。あ、ごめん本当に持ってたの? かけないで、溶けるからかけないで」
そんな謝罪の言葉を聞きながら、念の為にとコートのポケットにしまっていた塩の瓶を元に戻す。
物分かりが良いのは助かるのだけど、こうなることが解っているだろうに余計なことをしてくるんだから、本当にこのカタツムリは質が悪い。
はぁ、折角のウキウキ気分が台無しじゃねーか。なんか耳もべたついて気持ち悪いし、早く風呂にでも入りてー。
そして、手に入れたばかりの新たなティーシャツを着るのだ。ふっ、すさんだ心にまたウキウキな幸せが戻ってきたぜ。
「はー、溶けるところだった。お詫びにヤータちゃん、触手製の防具とか着てみない?」
……え、それってお詫びなの? 拷問とかじゃなく? いや、もしかしたらデメリットもないとても良い装備である可能性も?
「それを着て、俺になんかメリットがあんの?」
「気持ち良くなる。ボクの触手だからね! バックパックみたいに背中にお邪魔するよ」
デメリットじゃねーか。あとなんだ? それで、こいつ動くぞ! とかって言って欲しいわけ?
「悪いな。俺の体ってそんな快感とか感じねーんだわ」
「気持ち良い振りしてくれれば良いからさぁ。お願い、先っぽだけ!」
そんな防具に何の意味があるというのか。あと防具の意味をほっぽり出すなよ。売りは防御力とかだろ? 使用者の防御力を削ぎにかかるなっての。
「俺にはリンリルの水着があるし、他を当たってくれ」
「他には塩をかけられたから」
俺もかけようとしたのですが? つーか失敗したなら素直に諦めようぜ? 塩を振って始めるのは相撲だけで充分だっての。
「うぅ、このままじゃ、塩じゃなくて味噌がついてしまう!」
……なにを上手いこと言ってんだよ。塩より座布団あげたくなるじゃねーか。
「こうなったら強制的に着けさせ、……あ! あっちにも良い感じの人が! ふっふっふっ、そこの美人なおねーさん! クイーン様! 素敵な触手の防具でも如何ですぎゃぁぁぁっ!? 目が、塩が、目がーっ!」
「ヤータ。あんたに懐いているんだから、ちゃんと手綱を握っておきなさい。じゃなきゃあんたは粗塩よ」
……俺は服を買った筈なのに、なんの福も訪れない。なんとも言えないこの気持ちは、今度あの服屋でティーシャツにして貰おうか。




