寝る前の攻防
「今日も一日お疲れさん」
そう独り言を言いながら、部屋の明かりを消してベッドに腰掛ける。
月の明かりは優しく部屋の中を照らし、心地良い眠りに誘ってくれそうな魔力すら感じてしまう。
外から聞こえる心地良い虫の音も、心を穏やかにしてくれるようだ。
「ギシャァァァッ!?」
「グジュアァァァッ!?」
若干、変な鳴き声も聞こえるけど気にしない。
いつものことだしなぁ、島の魔物の鳴き声なんてさ。襲撃があった際は五月蝿いなんて思う余裕もないし、これもまた平和の響きとも言えるだろう。
「マイマイてめぇぇぇっ! 食材をつまみ食いすんなって言ってんだろうが! カタツムリなら草でも食ってろよ、肉を食うんじゃねぇよ!」
「えー、落ちてたのを食べただけですー! つまみ食いじゃないもんねー!」
「置いておいたっつーんだよ! 余熱で火を通すために置いておいたに決まってんだろうが! お前の目は節穴か!」
「あ、そう言えばカタツムリに寄生するなんか居たよね? あのカラフルなの」
「調理場でグロいこと言ってんじゃねぇぇぇっ!」
うん、こちらもいつものことである。マイマイも小さくなったり出来るからさ、どこにでも侵入したりするんだよな。
それに逐一突っ込みを入れる啓司も、毎度毎度飽きないことで。
……てかさ、余熱で火を通す調理法を使う肉料理とお洒落じゃない? なんかちょっと興奮してきたな。でもあの修羅場に参戦する気にはならないし、ここは一つ、部屋にあるもので小腹を満たそうか。
部屋に何があったかなー。バナナは常備しているけど、肉と聞いたからには肉を食いたい。
サラミとかビーフジャーキーとか、その手のものはジュンに貰った気もするのだけど……。
「ヤータさん、お腹が空いたのならこの太いサラミでも如何ですか? さぁ、私が持っていてあげますから、どうぞエロくしゃぶってください」
目の前には現れた一本丸ごとのサラミは、とてもじゃないけど食べる気はしないかな。
リンリル、悪いけど俺はさ、薄く切られたサラミをちびちび食べるのが好きなんだ。豪快に丸かじりする趣味はないんだよなー。
「やだ。ソーセージなら食ってたけど」
「ありますよ? ボローニャソーセージなら」
いや、それめっちゃ太いやつだろうが! サラミより太いよ、難易度爆上がりすぎだって!
「いやいや、それこそ薄切りにしてくれよ」
「なる程。薄く切ってヤータさんの大事なところに乗せて隠すんですね? 貝殻ビキニならぬボローニャ水着。……なんだかあっさりボロボロになりそうですね!」
なんて言うかさ、なんかもう発想がド変態過ぎるよ。そもそもソーセージを水着にしようなんて思わないでくれない? 貝殻は食べ物ではないから水着に使えるんだよ。食べ物を粗末にしてはいけないんだよ。
「美味しく召し上がりますよ?」
心を読んだ上での返答がそれかよ!? いくら夜だからって、飛ばしすぎじゃありません? 俺もう寝たいんだけど。お腹はなんだかいっぱいになってきたから、ぐっすりおやすみしたいんだけど。
「寝たいだなんて、そんな……」
どう勘違いしたんだか知らないけど、心を読んだ上で照れないでくれませんかね!?
てか、読むならしっかりと最後まで読んでくれないかな? 俺は確かに、ぐっすりおやすみしたいと思ったんだよ。そんな今夜は寝かせねーぜ? 的なことは思ってないんだよ。
「マイマイてめぇぇぇっ! 勝手に肉を振る舞ってんじゃねーよ! それ明日の分だぞ!」
「お集まりのみんなー! じゃんじゃん焼き肉食べてってね! 魔法で焼き放題だからー!」
「ここぞとばかりに触手で配膳すんなーっ!?」
……もしかして、今下の酒場へ行けば、ただで焼き肉が食べられるのか!?
「行きます?」
「いくいく!」
こうして、俺の眠れぬ夜は過ぎていく。落ちついて眠れる日なんて、週に何回あったかなぁ。




