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こんなものを食レポしてみようの会

「今日は新しく食レポコラムを企画してみた。ヤータちゃんにはその際に使う写真のモデルを務めて貰いたい」


 そう、ジュンに連れられてやってきたのは、啓司が営む酒場だった。


 この町にはラーメン屋や定食屋、洋食屋に甘味処と食に関する店は数多ある。それらはどれも道楽で営んでいるものが多く、それだけに味は一級品。


 てっきりそっちの方を食べさせてくれるのかなぁと思っていたら、蓋を開けてみたら馴染みの飲み屋とかさ。


「おい、俺はてっきり豪華な飯にありつけると思ったんだが? 此処は確かに美味いけどさ、馴染みの場所過ぎるだろ」

「おいおい、そういうのは追々、だろ? メインディッシュを初っ端に持ってきたら、胃もたれして後が続かねぇ」


 むぅ、そう言われると納得せざるを得ない。しかし、その駄洒落は飲み込むことは出来ない。なんだよ、追々って。おいおい、つまんねーよ。……移ってしまった。


 そんな自己嫌悪に頭を押さえていると、ジュンは早くも扉を開けて店の中へ入っていく。そして何時の間にか現れたらしいリンリルが、俺の背中を押して店の中へと導いていく。


 はぁ、これから俺は一体何を食べさせられるんだろうなぁ。メインディッシュは追々ってことは、今日は前菜とかそんなところだろうが、……居酒屋だからお通しか?


「よー、なんちゃって記者共。待ってたぜ。ご要望の茹で卵はバッチリだ」


 しかし待ち受けていた啓司から、予想外の台詞が投げかけられた。


「サンキュー! 殻は剥いてあんの?」

「勿論だ。これから直ぐに玉子サラダも作るし煮卵やおでん、スコッチエッグなんかも作るからな」

「有り難いですね。第五回くらいまでは埋められそうです」


 ……こいつら、卵で数を稼ぐ気かよ!?


「よし、それなら茹で卵は三つくらい残して、啓司は早速調理に移ってくれ」

「あいよ。とりあえず、ほらヤータ! ぼーっとしてねーで受け取れよ」

「ほわ? おわっ!?」


 まったく予想外な展開にぼーっとしていたらしい俺は、啓司の声に驚き、そしてポンと投げられた茹で卵を慌ててキャッチする。


 既に後ろ姿を見せて店の奥へと入っていく啓司の元いた場所、その傍らのテーブルの上には皿に載った二つの茹で卵。艶やかなその表面は美しく、美味しそうと素直に感じてしまう。


 そして手元にあるこの茹で卵も、見た目、そして香りからして食欲を注いでくれる。俺としては、先ずは普通に齧り付いて、その後に現れた黄身に醤油を垂らす。そんな食べ方が大好きだ。


 チラリと背後に視線を向ける。リンリルの手には醤油差しが握られている。チラリと正面に視線を向ける。ジュンがカメラを構えて待ち構えている。


 これは、普通に食べても良いというわけだな。それでは早速一口目。半分に割るような感覚で口に含み、齧って奥歯で噛み締める。


 白身のサッパリとしたプリプリ感と、黄身のネットリとした濃厚さ。二つの食感は混じり合うことはないけれど、その味わいは混ざって舌を楽しませてくれる。


 熱々の茹で卵を口いっぱいに頬張れば、味わうことなく飲み込まなければ口の中が地獄へと変わってしまう。だからそこ、茹で卵は冷ました方が美味しく頂ける。


 白身のプリプリ感も際立ち、黄身のしっとり感も落ち着いたものになる。もしかしたら、これは素人的な考え方かもしれない。まぁ、そこはきっと、どんな料理に使うか次第なのだろう。


 さて、お次はお待ちかねの醤油タイムだ。何時の間にか隣にいたリンリルから差し出される醤油差しを受け取り、黄身の上にほんの少しの醤油をポタポタと垂らしていく。


 黄身の色が濁って見栄えが悪くなってしまうが、口に入れてしまえばなんの問題もない。だけど、入れるときは慎重に。醤油を垂らした面を舌に乗せるようにすれば、先ず感じるのは口に残る卵の濃厚さを吹き飛ばすほどの確かな塩味。


 白身のプリプリ感は変わらない。そこは絶対に変わらない不変なものなのに、醤油を加えただけで味わいに奥行きが生まれた。


 変わらない白身という平面の地平に、天高く濃厚さを伝える黄身という天空。それに宇宙の如く漆黒の奥行きを与える醤油が混じり合い、口の中はまさにビッグバン。新たな世界が脳に広がるぅ。


「はい、オッケーです。文章の方は完成ですね。ジュンのほうはどうです?」

「こっちも良い表情採れたぜ。これなら購買数も増えそうだ」


 ……その雑誌、絶対に俺には見せないでくれよ?


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