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雨降る決闘!

 視界を遮るほどの強い雨が、人通りのない路地に降り注ぐ。此処に居るのは二人だけ。無謀なことを言い出した俺と、それに付き合ってくれているリンリルだ。


 無謀、無謀か。いや、基本的には、と言うより俺のイメージでは無謀という言葉は今回に限っては適切ではない。無謀というのは、今の俺が門番のような存在であるうり坊に勝負を挑むことを言う。


 では、こうして俺とリンリルが向かい合って佇む光景はなんなのか。理由は単純だ。俺が、雨の降る中での戦闘というものをやってみたかったから。


 リンリルの戦闘力は未知数なものの、相談してみたらあれよあれよと雨が降り出し今に至る。


 あぁ、きっと急に降り出した豪雨はリンリルの仕業なのだろう。……ならば、やはりこれは無謀だったのか。相談する相手を間違えたのか。


 これが啓司だったのなら、きっとぶっきらぼうを装いながらも適度に俺に合わせて動いてくれただろう。だが目の前のリンリルは、未知なる力を扱う彼女は、いつでも俺を仕留められると言いたげに、額にそっとキスをした。


 いつ目の前に現れたのかは、一切わからない。額に何かが触れる感覚の後、目の前には既にリンリルが居た。そう、順序が逆なんだ。


 目の前に現れたリンリルが俺の額にキスをしたのではなく、キスをされてから目の前にリンリルが現れた。


「ほら、槍を振らないのですか?」


 そっと頬を撫でながら、その柔らかな唇から言葉が紡がれる。それに操られるように、俺は右手に携えた特製の槍を薙ぐように振るう。


 構えも何もない大振り、そもそも間合いが適切ではないため当たることはないその槍は、勿論一瞬の雨を切り取るだけに過ぎない。


 それは解っていたことだった。それだけは解っていた。なのに、それでも触れはするはずだった俺の腕にはなんの感触もなく、感じるのは背後で首筋を撫でる柔らかい指先。


 背筋を襲うゾクゾクとした悪寒は、首筋を撫でられたからだろうか。それとも、理解が追いつかない恐怖からだろうか。


 移動した瞬間は見えなかった。背後に居る気配も感じなかった。だけど背後には確かにリンリルがおり、今度は俺の長い髪を一房掴み、撫でるように梳かしている。


「すみません。ヤータさんのその槍は、突くものでしたね」


 再び紡がれる声にまたも従うように、浮遊させた槍を背後に向け突き立てる。やや上空へ向けて突き立てたそれは、天に向かい衝撃波を放つ。


 しかし、それすらも当たった気はしない。避けられた感覚もない。何故なら、背後にリンリルは居なかったのだから。


 ならばどこに居るのだろう。目の前には居ない。横にも居ない。首を振り、体を動かして周囲を探るも、その姿は見られない。気配すらない。


 どこから襲われる。どこから手が伸びる。そんな恐怖が心を満たそうとしたその時。ある最悪の展開が頭に過った。


 それが嘘だと思いたくて、現実には起きえないと思いたくて。周囲に聞こえるように、雨音に掻き消されないように叫びを上げた。


「リンリル、お前飽きて帰っただろっ!?」


 それが正解だと言わんばかりに、激しく降り注いでいた雨は止み雲は散り晴れ渡る空。それを眺め、俺は小さく溜息を吐き出す。


 アクション映画の様な決闘をやってみたかったのに、能力バトル的な展開に持って行かれるとは、全くもって思わなかったなぁ。


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