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水は大事!

 この島には川がない。


 そうリンリルが言っていたから飲み水はどうしているのかと、今更な疑問を胸にいだいていたのは、もしかしたら運命だったのかもしれない。


「おー、プールだ」


 その答えとも言えるものが、目の前に広がっているのだから。


 このプール。海から引っ張ってきた海水を溜めておくもので、ここから浄水して町へと引いていると此処に連れてきてくれたジュンが言っていたっけ。


 それで自身の疑問も解決したのだし、あとは此処で目一杯遊ぶだけ。……とはいかないのが、俺の仕事と言う訳なのだけど。


「いいねー、水から顔を出す姿マジ可愛い。次は髪をかきあげて?」


 その注文通りに、濡れて額に張り付く髪をかきあげる。


 オールバック、普段はしたことがないからどんな風になっているから分からないけど、シャッターを切る音が激しくなったと言うことは、なかなか良い具合だったのだろう。


 ふむ、前髪をゴムで縛って置くのも良いかもしれない。それで横の方に流してさ。そういう髪型好きなんだよなぁ。


「なら、私がしてあげても良いんですよ?」


 うん、唐突に背後に現れるのは止めようよリンリルさん。水の中でそう言うのは駄目。俺は浮くのが得意だから溺れることはないのだけど、気を抜くと直ぐに沈むからそう言うのは駄目。


 ……でもその髪型のリンリルはちょっと見てみたい。何時もはセミロングのフツーな感じの髪型だから、もっと遊んでも良いと思う。


 まぁ、そういう俺もロングのフツーのだけどさ。


「そうですね。今度お揃いの髪型にしてみましょうか」


 えー、それはちょっと面倒。


「私が全部やってあげますから」

「悪い、出来ればちゃんと会話してくれ。成立している感のある独り言はなんか怖ーよ」


 おっと、いやー、つい癖になっているからな。黙っているのに会話が成立することのなんと便利なことか。寝ているだけなのに料理が届くし飲み物も与えられる。


 うん、順調に調教は進んでいるらしい。


「すまんすまん。つい楽でなー。ジュンも読心くらい出来るようになってくれ」

「独身じゃなくなれば出来るかもな」


 いや、そういう駄洒落は要らねーし。伝われ、この思い。


「それよりジュンさん。やはり効果があるようですね。もう飲んでも平気なくらい上質な水、と言うより聖水ですよ、これ」

「へー、じゃあルーユが言っていたことは本当だったか」


 ……うん? いや、二人の方が通じ合ってんじゃんか。なに、なんなの。なんで俺の知らない会話を繰り広げちゃってんの? 俺は何かをさせられていたの?


 それに聖水って、……まさか俺が浸かっているこのプールの水か!?


「その通りですヤータさん。実は転生者が死に戻りする際に死体はその場に残るのですが、それは自然に返ったり魔物に食べられたりはしないんです」

「俺らの死体って、魔物にとってはヤベー毒らしいんだよな。流石神様のハンドメイドだよ」


 ごめん、急に説明から入らないでもらえませんかね? いや、一から説明して貰えるのはありがたいことなのだけど、そこからどうルーユと繋がるのかが分からない。


 ルーユってたしか、ギルドの受付の子だろ? 確か死体愛好家だとかなんとか……。あぁ、ちょっと繋がった。


「おっけー。つまりルーユがその死体を回収してるんだな」

「そう言うことです。ルーユは死体に関する魔術を行使するプロですからね。その縁でスカウトされたんです」

「ごく偶に、ギルドでゾンビが働いてるから見に行ってみろよ」


 いやいや、そんなの見たかねーっての。てかだいぶオープンに実験的なことをしているんだな。働けるゾンビとか、世の中の労働環境がガラリと変わるだろ。


 ……え、もしかして町にも居たりすんの?


「居ましたよ。町にゾンビ」

「そそ、ゾンビと言っても改造され尽くしていて人間と見た目に違いはないけどな。まぁ、最近は見なくなったけど」


 うーん、それは安心して良いのか悪いのか。てか見なくなったって、ルーユがなにかしたと言うことなのだろうか。


 ん? ……まさか、ここで話が繋がるのか?


「またまたその通りです。ヤータさんが無意識に放つオーラ、それが陰の要素が強いゾンビを全て浄化してしまっているんですよ」

「ついでに、それはヤータが死体になっても変わらない。ルーユが言うには、集めた死体はヤータの死体によって全て浄化されたそうだ」


 あー、えーっと。なんて言えば良いのだろうか。まぁ、ここはポジティブに考えるとして、だ。


「つまり、それをコントロールできたら魔物ですら消滅させることも?」

「可能でしょうね。なんせ、海水を飲める水にしてしまう位ですから」

「海の水は魔物の影響が強い水だからなぁ。浄化するのに苦労していたんだが、これで楽になる」


 はぁ、つまりその実験をするために俺は此処で撮影されていたと。はぁ、なんか本当に体だけはチートだよなぁ。体だけは。


 そんな遣る瀬なさを表すように、水面に体を預けて浮かんでみる。うん、この程度の体のコントロールは余裕で出来る。そして人に威圧感を与えるオーラとやら、そのコントロールも出来ている。


 ……いや、オーラのコントロールが出来ているってわけではないか。ただ単に抑えられているというだけ。そもそも、そのオーラがリンリルの言う陰の要素に作用しているものであるとも言えない。


 もっと別の何かが、あるんだろうなぁ。


 はぁ、そう言うのがちゃんと感じられるようになれば、コントロール出来るようになるのかもしれないな。


「お、いいねーその脱力感。色んな角度から撮っちゃうぞー」

「ヤータさん。人の魂ではその類いのコントロールは無理です。徳を積んで無を感じられるようになりましょう」


 え、徳を積んだらそこには積まれた徳があるんじゃないの? それともただの言葉遊び? いや、リンリルのことだからもしかしたら意味がある言葉なのかも……。


「いいねー、そういう表情。スクール水着を着て難しい顔をしながらプールに浮かぶ美女。これは絵になるねー」

「どうです? 適当なことを言ったら真剣に考えてくれるんです」

「なにそれ可愛い」


 ごめん、本当に心が無になりそうです。


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