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2. 目を付けられた

 ギルドへと続く道の途中、町の様子をキョロキョロと見回しながら歩いていると、人間以外の種族を見かけるとこに気が付いた。


 頭に動物の耳が生えていたりトカゲ人間だったりと様々で、もしかしたら道行く犬も実は転生者だったりするのかもしれない。


 そんな十人十色の住人模様とは反対に、住宅に関しては全てログハウスの様な、丸太を組み合わせた物で統一されているみたいだった。


 ただし、啓司の宿屋のように商売用の店舗場合はその限りでは無いようで、所々に現代建築を取り入れているところもある。


 これには何か意味があるんだろうか?


 そんな疑問にあーだこーだ自分なりの考えを出して楽しみながら、目的地へと足を運ぶ。


 ギルドの場所は島の端、海岸付近にある。啓司の宿屋からは一キロ程で、図書館を併設してるだけあってなかなか大きな建物だ。ギルドの入り口前にはカフェテラスも併設されていて、今の俺の状態には非常にありがたい。

 

 今の俺の状態。これは今後に関わる程の大事な案件だ。今俺は、非常に疲れている。百メートル程歩いた時には、もうすでに息が切れ始めていたという体の具合を疑いたくなるほど。


 はぁ、啓司の宿屋が広場の近くにあって助かったな。お陰で醜態を見せずに済んだ。だが、これではきっと探索どころじゃないし、戦闘なんて以ての外だろう。


 はぁ、神様どんだけ運動してないんだよ。


「こ、コーヒーを、一つ」

「は、はい! しょ、少々お待ちください」


 店員の女性が怯えるのも無理ないか。啓司が言っていたオーラの事もあるだろうし、そんな奴が息も絶え絶えにコーヒーを要求してきたら怖くもなる。


 この問題、早いとこどうにかしないといけないな。


「ど、どうぞ! お代は結構です!」


 どういう理由でそんな事を言ってるのかはこの際置いておて、ここはありがたく受けておこう。あまりのしんどさに忘れていたが、俺は今一文無しだ。ない袖はどうあっても振れないのだ。


 そんなジョークの一つも出ない有様の俺は無言でコーヒーを受け取り、重たい足取りで誰も座っていないテーブル目指し倒れるように椅子に腰掛ける。


 しかし、そこで力尽きてテーブルに向かいそのまま倒れ伏してしまう。駄目だ、飲む気力も残ってない。あぁ、コーヒー零さなくてよかった。


 そんな安堵からくるの溜息か、はたまた疲れからくるものなのか。そのどちらなのか自分でも判別できない息を吐き出し、しばらくそのままの体勢で身を休める。


 奇妙な物を見るような目を気にする余裕もなく、ただひたすらに目を閉じて呼吸を整え、十分程ゆっくり休んだところで漸くコーヒーに口を付ける余裕が出て来た。


 これは金稼ぎ以上に、体力向上と言うものが急務じゃないか? はぁ、面倒臭い。誰か養ってくれる奴は居ないものかなぁ。そんな諦めも頭をよぎるほど、この疲れ具合は厄介だった。


「あの、ギルドをご利用ですよね?」


 運に期待するか、と安易な自分の未来を想像していれば、さっきの店員さんが話しかけてきた。


 回復したのが目に見えたのだろう。その顔に携えた笑顔を見るに、なんとなく天使の様にも感じてしまう。


 てことは、立地的にも啓司の言っていた神様の部下の一人かもしれないな。お代の事もあるし、気を遣われちゃったか?


「ギルド長がお会いしたいそうです。もし、大丈夫なようならご案内致します」


 大丈夫ってのは体調の事だろう。ここまで気を遣ってくれると、なんだか嬉しくなってしまう。そんな気分のお陰か今は落ち着いてるし、直ぐに行くとしようか。


 しかしながら、先程とは違う機敏な動きで直ぐさま立ち上がり案内を頼んだものの、何故か後ろに控えてしまう店員さんに思わず困惑してしまう。


 案内すると言いながら後ろに回られる。いや、これどうすりゃ良いのさ。


 そんな呆れた気持ちが表情に出ていたのか、彼女は正気に戻り、慌てた様に小走りで前に立ちギルド内へ先導してくれる。


 大人しく着いて行きながら、先程と同じように周りをキョロキョロ。


 ギルドの中はまるで市役所や病院の受付のような清潔感があり、カウンターには獲物であろう動物の牙や骨なんかが置かれ、何やら職員と皮の鎧を着た男が話している様子も見て取れる。


 そんな状況を横目に階段を上り、廊下を奥に進めば一際豪華なドアが現れた。


 大きさは恐らく、一般的な住宅のドアと変わらないくらいの外開きのドア。しかし、装飾として施された彫刻がやたらと豪華なのが偉い人が居そうな雰囲気を醸し出している。


 その様を表現しようとするならば、三猿も目を見開いて耳を澄ませ、大きな口を開けてわっと驚くであろう。てか、目を見開いた猫が怖いよ。


 そして案の定、店員さんの目で語られる様に此処がそのギルド長の部屋らしく、店員さんがドアを叩いて到着を告げると、中から渋い声で入室の許可する声が聞こえてきた。


 店員さんを先頭に室内に入ると、先ず驚いたのは部屋の狭さだろう。入り口のドアと殆ど同じくらいの横幅で、人一人入るのがやっとな程だ。


 カラカラと何かが回る音が気になるが、店員さん越に見える机には誰も居ない。それどころかテーブルの上には回し車が一台あるだけ。


 その中で必死に走るハムスターはなかなか可愛いくて、思わず凝視してしまう。俺も今なら人の目を奪えるほどの美貌があるけど、やはり動物の愛らしさには敵わないんだろうなぁ。


 てか、ここのギルド長は仕事もせず、日がな一日ハムスターを眺めているんだろうか? まさかこのハムスターがギルド長なんて事は……。


「ギルド長、連れてきましたからいい加減止めてください」

「悪い悪い、悪いついでに止めてくれ」


 そのまさかだったか。


 そしてギャグのつもりなのか、店員さんが止めた回し車の中でそのまま走り続けるのはどうなんだろう。


 後ろからじゃ店員さんの顔は見えないが、肩の震え具合から相当怒っているように見えるんだが。


「ギルド長っ!!」


 怒声に反応して走るのを止めたものの、そのまま死んだふりをするあたり、このギルド長も相当面倒臭い奴な気がする。


「流石にこれ以上はいかんな。ははっ! すまんすまん。さぁ、そこの椅子に座ると良い」


 流石に空気を読んだであろうハムスターは、そう勧めてきたものの、声色からは緊迫感なんてものは一切感じない。


 何時ものことなんだろうなぁ、可愛い女の子に怒られるハムスター、か。……ごめん、癒される。


 そんな呑気なことを考えている俺を余所に、テキパキと壁に立て掛けられた折り畳み式のパイプ椅子を組み立てる店員さん。


 そして狭いながらも礼をして部屋から出て行く店員さんにこちらも礼を述べ、組み立てられたら椅子に座った。


 ギルド長自らという状況は、普通なら緊張してしまうものだろう。だが見た目がハムスターなら逆に和んでしまう。


 おうおう、口いっぱいになんか詰め込んじゃってさ、可愛いじゃん。


「私の事はハムスターとでも呼んでくれ」

「そのまんまじゃねーか」


 そして、ギャップを感じるくらいの適当さにより更に和んでしまう。これが作戦だとしたら、なかなかやり手なトップなんじゃないかな?


 そんな自己紹介と言って良いのか怪しいくらいの名前は置いといて、さっき付けたばかりの名を告げ直ぐに本題に移る。


 ハムスター、いや、ここはギルド長としておこうか。ギルド長に呼ばれた理由は真偽を確かめるためで、この人だけは神様に俺のことを聞いていたらしい。


 その聞いた話というのが、面白くなった奴を送った。とだけだった為に、わざわざ会うことにしたって訳だ。面白くしたのは神様だろうに。


 因みに真偽の程は、と問い掛けてみれば、今は保留と大人の対応をされてしまった。……あれ、これ試されてる?


「さて、では次に此処で生き抜く術だな」


 そう言って切り出したのは、神様が言っていた強い意志が力になるという意味について。


 ここの住人はそれのことを魔法と呼んでいるそうで、やり方はについては言葉にすれば簡単な事。つまり、そのままの事なんだそう。


「今一般的なのは、身体強化と回復、火を操る事だな」


 身体強化はこうでありたい、こう動きたいと言う思いから、回復はここに来る人が誰しも持つ、もうあんな思いはしたくないと言う思いから生まれる意志が元となって使えるようになるそうだ。


 うん、極めて簡単なことだな。意志を持って事をなす。でも実際それが起こるのならば、まさに魔法って訳だ。


 そして火に関しては、闘争心に火がつくなんて言うとおり、戦闘をこなせば自然と使えるようになるものらしい。


 どちらも使ってみないことには分からないことだけど、その話を聞いてどうもおかしいと思ってしまう。


 ここに来る間、もっと楽に歩きたいとは思っていた筈だ。なのに楽になったかと言えば、そんな事はない。


「心のどこかで神様の体はそんなものだ、と思っていなかったか? 思っていたならそれが原因だ。意識する事が強い意志に繋がる。そう思っておくと良い」


 気になって聞いてみれば、答えはいとも簡単にはじき出された。


 ならどうすればいいのか、きっと嘗ての自分を意識していれば良いんだろう。いや、それだけじゃ駄目なのか。もっと強くなるように、そう意識していかなきゃならないんだ。


「此処に図書館が併設されているのは転生後の為に知識を集める為だけではなく、意識を向けさせる言葉を覚える為でもある。それは方向性を強く決める物だからね」


 武器を振るうだけでは駄目、と言うことか。自分の心を動かせるような言葉を知る。それは自ずと行動にも出てくるだろう。そういった行動こそが、神様が求める魂の研磨なのかもしれないな。


 それに気が付いた俺の表情に満足いったのか、ギルド長は話しは終わりだ、と言ったように下の受付へと行くように告げる。


 どうやら支度金と武器を頂けるらしい。もう少し話しを聞きたい気がするが、後は自分より此処の住人に聞いた方が良いそうだ。


 見守る者と行動する者の違い。そんな理由から多くを語ることはしないと語る。その心は早く回し車で遊びたいだけだろうに。せめて視線を隠してから言えっての。


 ……可愛いなぁ。


 こほん。再び遊び始めたギルド長に別れを告げ、椅子から立ち上がりドアに向かって歩き出す。武器と支度金を頂いたら、早速戦闘でもしてみようか。


 そんな事を考えながらドアを開けてみれば、正面にさっき案内してくれた店員さんが立っていた。


 ずっと待っていたのかな? だとしたらなんとなく申し訳なく思ってしまう。スッキリするために、先手を取って理由でも聞いてみようか。  


「何か用でもあるのか?」

「ええ、こちらにどうぞ」


 そう言って先導するように歩き出せば、無言のまま使われていない会議室のような所に連れてこられた。


 此処で何をするのかと思えば、それは自分でも触れないようにしていた重要な事。


「下着を着けていないのは神様の事だから分かっています。一応女性用の下着を何枚かお持ちしました。いきなり買うのは抵抗があるかと思いまして」


 どうやらこの人には、中身がただの男であることがバレているらしい。


 何故かと聞けば、仕草からの推測だという。そもそも下着で守るようなものもないし、男性用でも買うから要らないと言っても、見た目が大事だと押し切られてしまう。


 その目はお前は私の着せかえ人形だ、と物語っているように見える。そのぐらい目が輝いている。最初の怯えた感じは何処へ行ってしまったのか。


 お願いします、あの時の目よ、早急に帰ってきて下さい。


「私はリンリルと言います。普段はカフェで店員なんかやってますが、本職はギルド長補佐です。何かありましたら、是非! ぜ、ひ! お声掛けください」


 そんな圧力を貰いながら、下着が詰まった袋を背負い、下半身の妙な密着感を感じながら受付へと向かう。


 服についてもあの全身を覆っているような布一枚だと動きにくいだろうからと、白いノースリーブのワンピースを貰ってしまった。


 これも戦闘となると動きにくいと思うが、貰った手前文句は言えないか。はぁ、こうして着々と外堀を埋められるんだろうなぁ。


 図書館がある以上、此処に来ないという手はないし。諦めるしかないか。はぁ。


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