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武器は強気の証だった

 これは一体どう言うことだろうか。


 カジーナに呼ばれて店を訪れたのはいい、でもなんでいきなり巨大な樽に放り込まれてしまったんだろう?


 そして、何故その樽と足が鎖で繋がっているんだろう?


 あまりの早業に、直ぐに突っ込めなかったのが悔やましい。


「説明を要求する!」

「口噛み酒って、あるじゃん?」


 知らんがな。樽の縁から頭を覗かせ、俺の要求に質問で返すカジーナは割と鬼畜だと思う。


 それに口噛み酒ってなんだよ。


 言葉からすれば、噛んで造る酒かなんかか?


「巫女さんが造る、神事なんかに使うありがたいお酒らしいんだけどさ、逆に神様の体を漬け込んだお酒の方が御利益ありそうじゃない?」

「逆もくそもねぇよ!? 罰当たりだこの野郎!」


 くそっ! 早く出ないと、ホントに酒を流し込んできそうなにやけ面をしてやがる。


 と、とりあえず樽の縁まで行ってみよう。


 立ち上がり、必死に手を伸ばして縁を掴み体を持ち上げようとしてふと思う。


 持ち上げんねぇぇぇっ!?


 鎖は短いものじゃないから、足を引っ張ったりしないはずなのに、どんなに力を込めても体が持ち上がらない!


 くそっ! 俺は自分の体を持ち上げられないほどひ弱なのか!?


 当たり前だよなぁ、腕立てなんて一回でも出来ないのに、腕だけで体を持ち上げるなんて出来るはずもなかったんだ。


 静かに手を離し、体躯座りをしながら静かに落ち込む。


「燃え尽きたよ、真っ白に」

「濁り酒がお望み?」

「良いから早く出せ!」


 樽の底をバンバンと叩いて要求すれば、ぱっかりと樽が開き、何時の間にか消え失せる鎖。


 はぁ、結構焦ったよ。いくら酒には酔わない体でも、酒の風呂に入るのはなんだか気持ち悪いしな。


 ホント、なんでワイン風呂なんて物があるのかと常々疑問に思っていたよ。


 あ、ていうか飛べば良かったんだ。焦って唯一の特技を忘れるとか、もうね。


「しっかし、ホントにひ弱だねぇ。道理でリンリルが無茶な要求をする訳だ」

「無茶な要求?」


 リンリルの名が出てしまうと、これを仕組んだのが彼奴ではないかと勘ぐってしまうものだけど、今はその無茶な要求と言うのが気になる。


 いや、ワクワクしてくる。


 だってカジーナへの要求って事は、きっと武器のことだ。


 時間がかかりすぎて若干忘れていたけど、意外に優しいリンリルの事だし、きっと俺の為に素敵な武器を造るように頼んでくれていたに違いない。


「も、もしかしてさ、最強の武器でも造ってくれたのか!?」

「そだよ」


 いよっしゃぁぁぁっ!!


 思わず浮かれて踊り出し、疲れ果てて座り込むまでがお約束なのがこの体の不便なところだけど、それは置いといても喜ばしいことだ!


「これで俺もまともに戦えるんだな?」

「そう上手くいくかは分かんないけどね」


 なにやら不吉なことを言うカジーナだけど、そこは安心して欲しい。


 俺はどんな武器でも自由に扱う術がある。そう、手を使わずにな。


 それならどんなに重量があっても関係ない、寧ろそれが俺の飛ぶ以外にまともに使える魔法なのだから、其処に関しては並々ならぬ自負がある。


「早速見せてくれ」

「そこに立て掛けてあるよ」


 そう指を刺されたカウンターバーの脇には、鈍器と言えそうな先の尖ってない槍のような物が置かれていた。


 それを操るように浮かせて側まで持ってくると、その形はまるでシャープペンシルのよう。


 先端は尖った筒状で、其処から曲線もなく細い丸太のように一直線。


 これは本当に武器なのだろうか?


「それを、先端を突き刺すように振ってみ?」


 その言葉で何となく察したよ。危ないから、開け放たれた入り口の方に向けてやってみよう。


 するとどうだろう。先端から尖った棒が勢い良く現れ、それと同時に発生した衝撃波は、向かいの家どころか百メートルあまり先まで破壊の限りを尽くしている。


 若干震える体を抑えながら、この鈍器のような槍のようなパインバンカーを床に置き、恐る恐るカジーナの方に目を向ける。


「天井に向ければ良かったのにさ、ちゃんと皆に謝りなさいよ」

「はい、ごめんなさい」


 まさか、こんな破壊力があるとは思わなかった。こう言えば許して貰えるかな?


「でもさ、よくこんな凄いの造れたよな」

「私の魔法は、武器を造ることに特化しているからね。時間をかければこれくらい簡単なのよ」


 なる程、その所為で俺はこんな目に遭っている訳か。だが武器が貰えて嬉しいことには変わりない。


 あれ? 貰えるんだよな?


「追加費用はリンリルから貰ってるから、気にしなくてもいいよ」


 俺の表情から察してくれたのか、カジーナは嬉しいことを言ってくれた。


 これはリンリルに感謝してもしきれないな。一度くらいは、なんでも言うこと聞いてもあげるのも良いかもしれない。


 まぁ、それはリンリルに会ったときに考えよう。今の俺には真っ先にやりたいことがあるからな。


「ちょっとうり坊にリベンジしてくる」

「はいはい、戻ったらちゃんと謝りにいきなさいよ」


 それは勿論。でも、このはやる気持ちは抑えきれない。


 直ぐに椅子を取り出し、武器を乗せたら俺も飛び乗る。そして車をも追い越さん勢いでうり坊の下へ飛んでいく。


 そしてうり坊目掛けて突き進み、パイルバンカーを射出しようとしたその時。


 頭が爆ぜるくらいの突進を顔面に食らった。


「避けなければ、強い武器も宝の持ち腐れですね」

「仰るとおりです」


 死に戻った広場でリンリルにそう言われ、俺は本当に戦いに向いていないなぁ、と痛感する。


 と言うか、この状況を見越してあんな武器を造るように頼んだだろ。


「お、やっぱり此処にいたかヤータ。彼奴等、謝罪代わりに風呂で背中を流してくれってさ」


 直後にやってきた啓司により、俺はもう再起不能状態だよ。


 便利な機能なのか、傍らに置かれた椅子とパイルバンカーを見て少し考える。


 はぁ、この武器、インテリアとして部屋に飾っとこうかな。


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