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魅惑のチョコバナナ

 金がない。


 自業自得なのは分かっている。でも、止められなかったんだ。


 今は四月の中旬、給料が貰えるのは月末だと言って前借りさえ許してくれないリンリルに絶望した。


 てか俺が死んだのって一月なのに、今は四月なんだよな。リンリルによれば、死んでから此処にくるまでにある程度時間がかかるらしいし。


 いや、何で今まで気付かなかったのか。スマホの表示だって四月だったのに、海水浴の話だって出ていたのに。


 きっと、全ては金がないのがいけないはずだ。


「デカい椅子で屋台の前に居座るのは止めてくれ」

「すまん」


 ちっ、このままいけば根負けして恵んでくれるんじゃないかと思っていたが、この全身タイツはそこまで甘くはなかったか。


 流石に怒らせてしまっては、今後売ってくれない可能性もある。ここは大人しく椅子を仕舞って、屋台に並べられたチョコバナナを眺めて満足しておこうか。


「もっと計画的に使えば月末までもっただろうよ」

「チョコバナナの誘惑には抗えないし」


 通い詰めたお陰で、すっかり顔見知りになったチョコバナナ屋台の店主、全身タイツ。


 話してみて分かったけど、見た目と股間のもっこり以外は大分普通な印象だ。寧ろ一番の常識人かと思うほど。


「今更だけど、なんで全身タイツなんて着ているんだ? しかも黄色で顔まで隠して」

「ヒーローを目指すなら全身タイツだろ? カレーも好きだし」


 鉄板過ぎる理由に笑いが出そう。でもさ、それならヒーローらしい名前を付けた方がいいと思う。


 だって此奴、黄タイツって名乗っているんだぜ? 芸人かなんかかよって、名前を聞いた時は突っ込んだりしたっけ。


 でもさ、お面くらい着けたら多少はヒーロー感が出るんじゃないかと思う。此奴、ホントに全身がタイツに覆われているだけだからなぁ。


 ぶっちゃけ気味悪い。


「お面着けなきゃ変質者だろ」

「これはオフだから良いんだよ。戦闘するときにはちゃんと着けるさ」


 オフならタイツ自体を脱ごうぜ? 


 まぁ、拘りでもあるだろうから深くは聞かないけどさ。こういう奴に深く聞いちゃうと、どつぼにはまるんだよな。


 絶対に話が長くなる。


 いや待てよ、ここは話を聞きつつおだてつつ、機嫌を良くすれば恵んでくれるんじゃないか?


 名案過ぎる。自分で自分を褒めておこう。


「なぁなぁ、どんなヒーローが好きなんだ?」

「一撃で敵を倒すような奴」


 なら素顔を出そうぜ。


 はぁ、早くもピンチだ。おだてようとしても突っ込みしか出てこない。てかカレーはどこに行ったんだよ。全身タイツはどうなったんだよ。


「じゃあ、逆に聞くが。お前はどんなヒーローが好きなんだ? 会話が合わなきゃ、機嫌なんて良くはならんだろうなぁ?」


 ちっ、此奴俺の考えを読んでいやがる。


 でもそんな事を言うって事は、上手く行けば恵んでくれるはずだ。


 だが、どう返せばいい? 正直ヒーローって詳しくないんだよなぁ。だってロボット派だし。若さ故の過ちだし。


「えーと、あんこが肝心」

「よし、なら美味いパン屋を紹介してやろう」


 盛大にミスった。


 そうだよ、チョコバナナの食べたいのに、なんで別の食べ物のヒーローを言ってしまうのか。


 ちょっと考えれば、きっと良いヒーローが出てくる筈なんだけどなぁ。……はっ! 閃いた!


「イー!」

「俺のマグナムで退治してやろう」


 ヒーローさせれば良いかと思ったら、とんでもない返しが返ってきた。


 え? 待って、デカくなってるから! タイツを突き破って出て来てるから!


「あれ? 砲身? 大砲か?」

「俺の魔法は股間を武器にする事だ」


 前言撤回。こいつもおかしい奴だった。


 砲丸でも撃ち出すのかってくらい、大きな砲身だけど、明らかに上を向いていて此方には飛んでこなさそう。


 本当に武器になんのか?


「それって、ちゃんと撃てんの?」

「ああ、ホーミングビームだからな」


 無駄に高性能だな。


「でもそっか、そのもっこりはその為なんだな」

「いやいや、このもっこりは女性を喜ばす為だ。人を喜ばすのが、ヒーローの役目だからな」


 喜ぶどころか目に毒だと思う。それにさ、正直人には過ぎた大きさだと思うぞ。


 そんな大きさじゃ、どうせ誰も相手をしてくれないだろうなぁ。深くは聞かないけど。


「相手をしてくれたらチョコバナナやるぞ?」

「助けてリンリル!」

「ちょんぎりますか?」


 流石にそうまでして恵んで貰いたくはないので、急遽助けを呼んでみる。


 直ぐに来てくれるあたり、やっぱリンリルさんは天使だった。


「チョコバナナくらい、あげたら良いじゃないですか。どうせ道楽でやってるだけでしょう?」

「道楽だからこそ、金を貰うんだ。そこに触れ合いがあるから」


 随分、欲望だらけな店主だ事で。なんて言うか、常識人でもどっかのネジは外れているんだな。


 はぁ、他にチョコバナナを売っている店があったら、そっちに行きたくなってきた。でもこの屋台だけなんだよなぁ。


 くそう、こんな事なら深く会話するなんて事せずに、軽い世間話するだけの関係でいれば良かった!


「なぁなぁ、なんで此奴しかチョコバナナ売ってないんだ?」

「チョコが高いからですよ。百グラム百万円です」


 えぇ、高いどころじゃねぇよ。俺には到底、手が出せないっての。


 てか、此奴凄くない? だってチョコバナナ一本五百円だぞ? 道楽にしては行き過ぎだろ。


「道楽だけでよくやれるな」

「店先でチョコバナナ頬張っている女の子って、なんかエロいだろ?」


 うん、この店に通いたくない。


 よし、ジュンにバナナとチョコを買って貰おう。そうして自分でチョコバナナを作ろう。


「それでは家に乗り込みましょう」


 全く、話が早いリンリルで助かるよ。

 

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