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河童が求める不思議玉

 普通にしているとリンリルは可愛いく、カップで紅茶を飲む様はとても絵になる。でも、喋る度にその姿が残念なものに変わっていくのは、けして気のせいではないはず。


「喋らなければ完璧なのになぁ」

「行動も可愛いですか?」


 あぁ、全てにおいて変態だった。


 そんな感想も出てくる深夜の時間。寝るときまで一緒に居る彼女との、深夜に繰り広げられるお茶会にも慣れてきた今日この頃。


 最初の頃は何が楽しいんだ、なんて思っていたけど、毎日続く色んな神様のおもしろ話が思いの外楽しいお陰で、最近じゃあそんなに苦には感じられなくなってきた。


「それでですね。その神様が転成させまくったお陰で、人口の九割が転成者になって食糧難に陥ってしまったんです」


 今日の話はとある星での魔王討伐劇。神にまで影響を与える力を手に入れた魔王、そいつを倒す為、そこの神様は違う世界の星一つ分の人数を転成させたそうだ。


「アホすぎない?」

「まぁ、今は転成ブームですからね。本人も調子に乗ったって、反省してましたよ」


 嫌なブームだなって思いつつ、反省で済むのかぁと神様の存在の大きさを痛感。いやいや、しないって。お茶目な感じで言っているけど、神様ってそんなんばっかなのか?


「あの子はマシな部類です」


 俺の体の元の神様か。それって安心して良いのか悪いのか。


「それで? その星はどうなったんだ」

「ひとまず全員、石化させたそうですよ」


 それって、魔王を石化させれば良かっただけじゃん。回りくどいことしなくたってさ。


「勇者を望んだのはその星の住人達です」


 不幸すぎる。


「それはそうと、ヤータさんのその服、ダサすぎないですか?」


 突然の話題転換に戸惑うけど、彼女にそう言われて改めて自分の服を見てみる。勿論、今の服はリンリルプロデュースのモッズコートではない。もしそうだったらリンリルがおかしな奴になってしまう。


 そう、今の服は自分で選んだものだ。勿論スク水は脱げないからそのままだけど、コートとニーソは脱ぎ去り、代わりに白いティーシャツを着ている。


 五臓六腑イン! と前面に書かれた、俺一押しの最高ティーシャツだ。最近、服屋で見つけてから、部屋に居るときは大抵これを着ている。魔法を使えば簡単に清潔を維持できるし、ホント最高!


「ダサくねーよ、格好いいよ」

「本人が良いなら、それで良いですけど。ま、まぁ私はそんな所も愛せます」


 その愛は重そうだから遠慮したい。


「あの、そろそろ俺の話も聞いてくれないっすか」


 そんな、俺とリンリルの時間に割って入る勇者が一人。リンリルの額に分かりやすく青筋が浮かぶ。


 それ漫画みたいになっていて本当に分かりやすいけど、どうやってんの? 出来るなら俺もやってみたい。


「面白い話題を提供できるなら、やってみなさい」


 怒気をはらんだその言葉。しかし勇者は怯むことはない。だって、このやりとりは三度目だから。


「尻子玉が欲しいっす!」

「そんな物はありません。それでですね、ヤータさん」


 三度目も華麗に終わってしまったこの話題。何故この勇者はそんな事を何度も聞いているのかと言えば、単純に河童だからだ。


 最初、部屋にやって来たときは自己紹介まではさせて貰えていたけど、その自己紹介によると、尻子玉を見たいが為に河童として転成したらしい。


 名前もそのまま河童と言うから、その拘りは半端ではなさそう。


 それにしても、だ。リンリルはないと言っているのに、なんでこの河童はここまで食い下がるんだろうか?


「リンリルがないって言ってるなら、ないんじゃないか?」


 段々と可哀想になってきた為、少しアシストしてみることにした。リンリルは溜め息をついているけど、逆に河童は顔を綻ばせて嬉しそうだ。


「ギルドの図書館にもあったんすよ! 河童が好きな美味なる珍味、尻子玉って。だから俺、ホントに必死に探し回ったっす。スカートの中を」


 ド変態だった。


「皆笑って許して貰えたんすけど、リンリルさんだけは殺されたっす! 怪しいっす。そして一緒に居るヤータさんも怪しいっす。だから、こうして直撃してみたっす!」

「すっす、すっすってうるせーよ」

「酷いっす!」


 変態だと分かれば、扱いなんてぞんざいでも良い筈だよな。にしてもさ、よくスカートの中見られても笑って許せるよな。やっぱり此処の住人はおかしいのか?


「単に哀れに思われていただけですよ」


 可哀想な奴に思えてきた。


「そんな事より! 早く尻子玉について教えるっすよ!」


 これ、どうすれば良いんだ? 


 リンリルなんて無視して紅茶に口付けてるし、俺の尻にはそもそも穴なんてないから何も取り出すことは出来ない。いや、そもそも好き好んで尻なんて見せるかっての。


 そんな若干困り果ててきた時、もうひとりの来客者が現れた。


「よう、ヤータにリンリル! お、河童も居たか。丁度良い、新鮮な尻子玉が手には入ったから振る舞ってやるぜ!」


 来客は女性モードの啓司だった。だけど、その啓司が放った言葉に呆然とする河童。そして、俺も事態を上手く飲み込めない。


「尻子玉は、魔物にだけ存在する部位です。基本的に、其処を狙えば魔物を一撃で倒せますが、肛門の中程にあるためなかなか難しいんです。ですが、その部位は本にあるとおりとても美味な為、傷つけずに魔物を倒し、回収するのが一般的です」


 解説どーもです。リンリルさん。


「尻子玉は旨いぜ? まるで……そうだな、絶妙なゆで卵の黄身だな。固まってはいるがオレンジ色をしていて、ねっとりしたやつな」


 なにそれ、すげー旨そう。


「なんで誰も教えてくれなかったんすか……」

「普通は独り占めするような物なんですから、当たり前です。でも、おかしいですね。振る舞ってくれるだなんて。珍しく、気前の良い人でも居たんですか?」


 草臥れたように膝を着いた河童の呟き。それに対してのリンリルの回答に、俺もなんだか不信感を抱いてしまう。独り占めするような物を振る舞うって確かにおかしい。


 疑惑の目で啓司を見つめると、彼女は笑いながらこう言った。


「お前に恋する、結婚野郎からの差し入れだ」


 それを聞いてしまったら、食べたくなくなってきた。いくら美味だと言ってもさ、念かなんか込められてそうだよ。


「何が込められていたとしても、食べなきゃ損ですよ? ヤータさんでは入手出来ないでしょうし」


 はぁ、覚悟を決めるか。もしもの時はリンリル頼みだ。今は素直に味わおう。……まぁ、楽しみではあるのだけどさ!


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