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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

みよりとみよ

作者: 鈴月Haimu

「この子を守るんだよ… 。」



部屋の外からチチチチって、小鳥の声がしてほんの少し目を開く。

眩しい光が目に入って朝だと知らせてくれる。

「んー、今日もいい天気だなぁ。」

自然と口許が緩んでしまりのない表情を浮かべるのが自分でわかる。

まぁ幸せなのはほんとだけどね。

ベッドの近くに置いてある櫛をとって髪をとかして身支度をして、1階にいるお母さんに挨拶をする。

「おはよぉ。」

声に締まりがないのは仕方ない…。

「ふふっおはよう。みより」

お母さんは綺麗な人だと思う。

綺麗な緑がかった黒髪に黒い瞳はまさしく大和撫子!!。

そんな人の娘である私は黒髪に黒目でおかっぱ、いわゆる市松人形を想像すれば分かりやすいだろう。

「夏休みなのに早いのね。」

ふふふ、当然だ、せっかくの夏休みだしたくさん遊びたい子がいる。

「うん、また蔵にいきたいから。」

「本当に蔵が好きねぇ。」

「うん まぁ…。」

流石に本当のこと言えないから、ごまかす。

けどお母さんはゆるいから大丈夫だ。

「まぁいってらっしゃい。ご飯は蔵の前に置いておけばいいのよね。」

「お願いね。んじゃいってきます」

言いつつ敷地内だしすぐに着くけど。

玄関から外に出て家の裏側に蔵はある。

そしてここが私の友達がいるところだ。

「おはよう!元気だった?」

私が声をかけたのは、大きなパッチリとした黒い目と薄茶色の髪の毛をしたかわいらしい子だ。

「なかなかあんたが来てくれないからお腹が空いて死にそうだったわ!」


「ごめんごめん、だけどこっちも忙しかったの、でも夏休みに入ったからもう大丈夫」

この子は私がこっそり蔵に入ったときに見つけた女の子。

見つけた時、とてもお腹を空かせてて給食の残りのパンをあげたらとても喜んでいた。


「まぁいいわ、あんたが来てくれなかったらきっと死んでしまってたもの

ふと瞳を伏せて「みんなに…お母さんたちに見えないのは悲しいけど」



「大丈夫、絶対私が美代ちゃんに呪いをかけた悪い呪術師を倒すからね」



美代ちゃんがみんなに見えなくなってるのは、悪い呪術師がやって来て美代ちゃんに呪いをかけたかららしい。

そう美代ちゃんに教えてもらった。

普通は信じないだろう。

けど何故か 美代ちゃんが教えてくれたときスッと言葉が落ちてきて納得できた。

それで美代ちゃんを守らなきゃって思ったんだ。


「っ、みより。ありがとう。」

美代ちゃんは涙もろいなぁ。昔と変わらない。

あれ?昔なんだっけ。

思い出せないや、まぁいいか。


「そうだ、美代ちゃん何して遊ぶ!。」


「もう、人が泣いてるときにあんたは。」


「えへへ、美代ちゃん泣きやんだぁ。」


「もう、仕方ないわね。」


そのあと、だるまさんが転んだとか、鬼ごっことかかくれんぼとか、小学校五年生がやるには少し子供ぽい遊びをした。


「あっもう夕方だわ、みよりは帰りなさい。」


「えーまだ、あそぶ!」


「ほら、帰るのじゃないと母さん心配するでしょ。」


「ううーわかった」


私はもっと一杯、遊びたいのにな。


蔵を出ると、お母さんが「みより~ご飯よー」って呼んでたから急いで玄関抜けて洗面所でうがいと手洗いをしてから台所へ。


「ただいまぁ、お母さん、お父さん、お兄ちゃん、お婆ちゃん、お爺ちゃん、それにりえこさん」


そしたら、愛する家族がいて美味しいご飯があって一杯食べる!こんな幸せが長く続けばいいなぁって思いながら眠るそれが私の日常。




───────────

「んー」

何だか寝苦しくて起きてしまった。

そしてこんなとき考えるのは同じこと。


私の家は五人家族だ、だけど私が生まれるより前から、りえこさんはいるしりえこさんも数えると六人家族。

といってもお爺ちゃんやお婆ちゃんは別宅に住んでるけど。

あっ美代ちゃんも入れなきゃ。!


だけど、美代ちゃんを覚えてる人はいなくて、でも確かめたくて聞く、けど最近じゃ少し口をとんがらせてまたその話って言われる。

美代ちゃんはいるのに。


そんなことを思いながらぼんやりと水を取りに行く。



─────しんで…いな…だ



「ん?あれ電気ついて、」


──なぜだおかしい、なぜ美代は死んでないんだ。


しわがれた老人の声が聞こえる。



─まぁいい、宝珠に力を込めて術の力を強めればぼろい人形になって、捨てられしぬだろう。




「っ!」


「誰だ!!」


っ逃げなきゃ。


なるべく足音を殺して早く立ち去る。


「気のせいか?話を聞かれたかと思ったが。」


しわがれた声は、まるで地獄の奥深くから響いてくるが、如く低くて冷たい。


なのに、とても悲しそうでこっちまで胸が苦しくなるような、泣いてるみたいな声だった。



「話を聞かれて万が一宝珠を壊されたら計画がぱぁだからな。」



そう言うと老人は姿を消した。





「さっきのっ…はぁ、呪術師だよね。」


ドクドクという音が聞こえる、目に汗が滲みていたい。


「何、あれ人間だよね?」


「怖いのになんで…」



宝珠を壊せば………美代ちゃんは助かる。



「だけど、少し怖い」



多分、宝珠を壊したらわたしは 。






───────────────


ううっ、考えてたらもう朝だ。


そもそも宝珠はどこにあるんだろう、今までは美代ちゃんを助けるとは決めててもどうやってとかはわかんなかった。

今は宝珠を壊せばいいってわかったけどそもそも宝珠はどこにあるんだろう。


「うう、八方塞がりか。」


こんなとき、どうしたらいいんだろう。

うーん、調べものかぁ。

インターネットは、駄目だよね。

なんか一杯引っ掛かりそうだしそれがほんとかわかんないって学校でも言ってたし。


だったら本だよね。

たしか蔵なら沢山本があるし、まずはそこを調べよう。

美代ちゃんにも手伝ってもらえばすぐに見つかるはず。



いつもの道を通って、蔵に向かう。


やっぱり美代ちゃんに会いに行くってなると、どんなときでも楽しくなる。


「あっ、お母さん。」


「あら、みより。」


「何してるの?」


「あぁ、掃除してたら古くなってきた物があったから纏めて捨ててるのよ。」


ちょっと胸がチクってした。


「そっか」


「ん?みよりどうしたの。」


「何でもないよ。」


「そう?あぁそういえば、みよりの部屋にあったお人形もう捨てたいんだけどいいかしら?。

もうそろそろ古いでしょ、新しいの買ってあげるから。」


「だめ!、あれは大事なのだから。」



「でも。」


私が急に大きな声を出した所為だろう。


お母さんは少し目を見開いたけど、すぐに目尻を下げて困ったように笑った。



「じゃあ、また蔵に行ってくるね。」


「ええ、いってらっしゃい。」





捨てられたら困るだってあれは───だもの。




何時ものように裏にまわって蔵の戸をあける。


「美代ちゃーん、あのね良いことが分かったんだよ! 」



「あれ?美代ちゃん?」


何時も呼んだらうるさいわよとか、ちょっと文句言いながら笑って来てくれてありがとうって言って出てくるのになんで?。

なんで居ないんだろう。


「お嬢ちゃんや、美代ちゃんならあんたの人形になっちまってるよ。」


「だれ!?」


肩をとんとんと叩かれてふりかえったら、昨日の底冷えのする悪魔みたいな笑顔じゃなくて、あったかい人好きのする笑みを浮かべた呪術師がいた。


「え?」


昨日と違いすぎてちょっと混乱する、これじゃぁまるで好好爺みたいじゃないか。


混乱する私を他所に呪術師は勝手にしゃべりだす。


「いいかい一度しか言わないからよくお聞き。」


「まってよ。おじいさんそもそもあなたは誰なの?」


「儂はとある本の精霊じゃよ。それも含めて話すからよく聞きなさい。」


「う、うん。」


「はて、まずはどこから話すかの。ふむ。」



おじいさんの話してくれた話はこうだった。


おじいさんはもともと悪い呪術師が宝珠を使って公家のお姫様をお人形に変えて連れ去るけれど、お人形になったお姫様といるうちに絆されてだんだんと仲良くなっていくっていう内容の絵本だったらしい。

美代ちゃんがもっと小さかった頃、呪術師の絵本が大好きでそれはそれは大切にしていた、けれど大きくなって行く中で美代ちゃんは段々絵本のことを忘れていった。

そしてついに絵本(おじいさん)は捨てられて、美代ちゃんも忘れてしまった。

それがとても悲しくて悲しくて、思い出してほしくて、気がついたらおじいさんの中にもう一人、悪い呪術師が生まれていたらしい。


「本当は儂が止めねばならぬのじゃろう、じゃが儂には呪術師を止めることはできなんだ。

宝珠は呪術師が常に持っておる。

お願いじゃ、みよりの嬢ちゃんどうか宝珠を割ってもう一人の儂を止めておくれ。」


「それは私がやりたいことだからやるよ!だけど宝珠どうやったら割れるの?」


「それは……っうう」


「おじいさん!?」


「すまぬ、これ以上は無理じゃ、頼む儂を止めておくれ恐らく美代は嬢ちゃんの人形になっておる。そばにおれば自ずと儂は現れるじゃろう。」


そう言うとおじいさんの体が段々もやにつつまれて最後には蒸発して消えてしまった。


「取り敢えず、私の部屋に戻らなきゃ。だけど宝珠はどうしたらいいの。」



それから一週間、私は常に人形をもって過ごしていた。

それこそ食べる時も一緒だった、その所為か、りえこさんはともかくいつもはちょっとゆるいお母さんでさえ眉をひそめるようになっていった。


だけど美代ちゃんを離すわけにはいかないのだからしかたない。


そう思って美代ちゃんを抱いてたら部屋にお母さんがきた。


「ねぇみより、食事中までお人形をもって来るなんておかしいわよ。

大丈夫なの?お父さんも心配してたわ。」


「美代ちゃんは私の友達なんだから一緒に、いなきゃなの。」



「またそんなこと言って、どうしちゃったのよ。」


「なにもないもん」


「何もないなら食事中までお人形を持ってくるのはやめなさいじゃなきゃ捨てるわよ。」


「嫌だ、なんでわかってくれないの!?」


「わかってないのはみよりよ。」


それだけ言ってお母さんはさっさと家事に戻っていた。




ぽたりと一滴だけ雫が人形にかかる。



「どうしよう、美代ちゃん。」


美代ちゃんだとおじいさんに言われた黒髪黒目の和服を着た私にとてもよく似た人形に顔を埋める。



もう私はどうしたらいいか分かんなかった。




明くる朝。


「うぅん、ん!?美代ちゃん」


「どこ、昨日はちゃんとあったのに」



────捨てるわよ。


お母さんに言われたことが頭によぎる。


もしかして!!



バタバタと音を立てて一階におりる。


立てる音の分だけ私がどんなに焦ってるかがわかるだろう。


「ねぇお母さん、人形がないの!!」



「あらそれなら捨てたわよ」


一瞥もせずにバッサリと切り捨てられる。

足下ががらがらと崩れていくような私が私じゃなくなるみたいだ。


悲しくて悔しいあのときより酷いかも知れない。


「探さなきゃ。」


「なにいってるの、みより。あれは捨てたのよもうそろそろごみ回収車がもっててるわよ。」


「間に合うかも知れないじゃない!!」


「あっこら、みより!」


玄関に走って行く、途中でりえこさんに止められたけど今は無視だ。



「確かごみ捨て場はこっちだよね。」



「何を急いどるんじゃ?」


裏に回ろうとした時に、しわがれた底冷えするような声に止められる。呪術師だった。


ニヤニヤとした意地の悪い笑顔を浮かべている。


「もう美代はゴミ回収車がつれててってしまったよ。

諦めなさい。それに美代がいなくなればお前も今のままでいられるいいことじゃろう?」


びくりとする、確かに呪術師の言ってることは私のとって、とてもとても甘い誘惑だ。



正直、私はまだここにいたい、美代ちゃんのことさえ見逃せば、お母さんやお父さんといられる。


私にとってはじめての家族ずっとずっと欲しかったもの…………だけど。









「私はみより(身代り)よ、大切な人を守るために身代りになるのが私なの!」


それに美代ちゃんは捨てられそうな私を貰ってくれた命の恩人だものだから。



私は全身全霊で呪術師に体当

っ…あっ宝珠が。」



呪術師の懐からころりと青緑色の宝珠がでてくる。


自然と割れる気がしたから、おもっきり足で踏みつけた。



パリンッそんな音と共に宝珠は砕けた。


悔しそうな声で呪術師が言う「っ後悔するぞ!これが砕けたと言うことはお前は───。


けれど最後まで聞く前に視界が暗転して次にいたのは据えた臭いのする真っ暗な空間、わたしは沢山あるゴミの中に埋もれている。


多分ゴミ収集車の中だよね。


私ってバカだよね、あのままほっとけば一緒にいられたのに今更、後悔してる。


呪術師の言った通りだった、だけどあのやさしい家族はもともと美代ちゃんので私のじゃない。


人形の私より美代ちゃんの方がふさわしいんだ。


だからこれでいい。


私の体の中は空虚な筈なのにしくしく胸の辺りがいたんで目頭が熱い気がする。




悲しみと後悔そして、ほんの少しだけでも物の私が家族を持てた喜びと守れたことへの満足感、そんな感情も含めて生まれてよかったと思えた。


それからしばらくして私の体は炎につつまれて、私はただの灰になった。



(神様次生まれるときは美代ちゃん達のところに生まれてきたいです。

どうかどうか、来世では本当の家族になれますように。)





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