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蒼い空、白い壁。  作者: 黒樫
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第4章

キインキインキイイン!!!

刃物同士がぶつかり合う音がする道場の中、二人の剣士が立っていた。片方は大柄な大人で、かなりの速度で少年を切り付けている。だが、少年はそれを刃で押し返すように_____否。刃で水平に受け流すようにして剣撃をしのいでいた。

「ほう。なかなかに面白い技を使うね。君の師匠はよほどの使い手だったとみるよ。おそらく、本気の私でも

一太刀当てるのが精いっぱいだろう。君はいい師匠に恵まれたようだね。」

「ええ。確かにその人は殺人鬼急に強かったですよ。その気になれば軍隊相手に剣一本で立ち向かえるぐらいには。」

「となると、その直弟子である君も相当に強いということになりそうだね。とても楽しみだ。血がうずくよ。」

あーっと。少しばかり調子に乗ってしゃべりすぎた。この人におびえてもらって引いてもらう作戦だったのに。てか、玲音さん、バーサーカーすぎるだろ。少年漫画の熱血系主人公か。

「いやあ。それにしても、ぜひとも私が若い時に会いたかったね。これでも私は学生の頃地域の中ではかなりの実力者だったんだよ。」

「はい、何となくそんな気がしていました。」

むしろ生真面目で堅気の人だったといわれてもイメージがわきにくい。

「それでだね。私は市外や県外に出てさらなる強敵を求めていたのだよ。それがこうして今の館椿組の人材発掘に役立ったわけだ。」

「なるほど、昔からあなたはそういう人だったわけですね。」

「そうなんだよ。それに、私は昔から加減というものが苦手でね。ついうっかり、ろっ骨を折るつもりが脛骨に行ってしまったりしていてね。昔は制御不能オーバーリミットと呼ばれていたりしたんだよ。いやあ。あの時は若かったなあ。」

「.........」

こ、この人やばい人だ。どうやったら肋骨のはずが脛骨に行くんだよ。どうやらこの人に手加減は期待しないほうがよさそうだ。

しかし困ったなあ。これでは決着がつかない。こちらとしてはなるべくお互いが木津つかないように穏便に終わらせたいのだが。この調子だと本当にどちらかが死ぬまで終わらなさそうだ。それにこちらとしても長引くと知れだけ不利に追いやられる。ここは防御に徹して何とか相手のスキを作ってそこを畳みかけるしかなさそうだ。

「ところで怜音さん。館_玲於奈さんは家ではどんな風なんですか?」

すると怜音さんは少し眉を吊り上げた。

「どうしてこのタイミングでそれを聞くんだい?」

「え、えっと~... 怜音さんに話が聞けるうちに玲於奈さんのことを聞いておこうと思いまして。ほら、どっちかが死ぬまで決闘を続けるんでしょう?だったら今聞いとかないとまずいじゃないですか。」

「ふむ...それもそうだな。いいだろう。もし私に勝てたら、子供に話を聞かせる際に親目線が必須だしな。」

少し黙考してとんでもないことを口走ってきやがった。

「ちょっ!?今子供がどうとかは早すぎるんじゃあ?俺たちはまだ子供ですし。」

「しかし、玲於奈はもう16歳だ。十分に結婚できる年齢だぞ。それに、最少の出産年齢は一ケタ台というし。」

「いや、そういう問題じゃないでしょう!?てかなんか内容が生々しいんでやめてください!ほら、みんなこまったかおしてるでしょう!」

周りを見渡すと館椿が赤い顔して顔を覆っていた。まあ、父親から結婚や子供がどうこう言われたら普通そうなるよなあ...

「おや、黒淵君。少し集中が切れ始めてるぞ。しっかりしなさい。」

「いや、誰のせいだと思ってんだ!」

思わず相手が組長だということも忘れて叫んでしまった。というか、逆にこっちのペースが崩されつつある。恐るべし、親のセクハラ。

「ははは。では、玲於奈を取られないようにように頑張らなければならないな。」

「あんたが勝手に言い始めてそれはないだろう!てか、付き合ってないって言っただろうに!」

あまりに勝手な怜音さんのペースを意識的に無視って行こうと心に誓った。というか、今後この人と話す機会があっても会いたくないな。精神的に疲労しそうだ。下手したらこの立ち合いをするより疲れることになりそうで怖い。

「それにしても、君の集中力はすごいね。先ほど一瞬だけ揺らいだが、それでも突破できなかった。この技はなんて言うんだい?」

「蒼乱流一之技『風流』です。師匠は俺にはこの技の適性を見出したようですね。」

これぐらいしか使えそうになかったともいうが。

「さて、では、そろそろ私も本気を見せなければ失礼に当たるようだね。」

「いえ、けっこうです。」

「はは。また冗談がうまい。決闘でこのセリフは必須じゃないか。最後に本気を出して相手の絶対な守りを打ち破って倒す。王道じゃないか。」

「今はっきりわかりました。さてはあなた中二病ですね。」

「みんなそう言ってくるんだよ。どうしてなんだろうね。」

「あんたのそのマンガ好きとそれに影響された言動が原因でしょうね。」

こういった無自覚中二病ほど厄介なやつはいないだろう。というか、こんな人が組長で今までよく成り立っていたよな。この組。

「では、小手調べと行こうか。」

「本気なのかそうじゃないのかはっきりしろ。」

「いや、これは敵キャラのよく使う代表的なセリフで...」

「知ってます。もう何でもいいからとっとと終わらせてください。こちっとしても早く帰らないと妹が心配するので。」

「心配なのではなく心配されるか。妹さんを信頼しているんだね。強いのかい?」

「あんたそればっかりか。というか、戦わせませんよ?あいつに戦いなんて血なまぐさいことを教えたくないですし。」

「私も一つ分かったことがある。黒淵君。君、さてはシスコンだね?」

「みんなそう言ってくるんですよね。どうしてなんでしょう?」

「君のその過保護さが原因だろうね。君のような無自覚シスコンが一番厄介なんだよ。」

「.........」

「.........」

「「天誅ー!!!」」

それを合図にお互いの刃が交差した。

「館椿流奥義『百華繚濫』!」

「ちっ。刺突だと!?」

「そう。君の技では刺突に対応しきれないんじゃないのかな?

そしてもう一つ。君は『風流』以外の技が使えないんじゃないのかい?今まで君は何も攻撃をかけてこなかった。ただに一回もだ。これはもう確定だろう。違うかい?」

「っっっ!?」

「やはりか。しかしだとしたら残念だ。」

「...何が、だ。」

「今の君では玲於奈も妹も守り切れないだろうと思ってね。なんなら、今から君の妹さんを殺しに行ってあげようか。そうすれば君も少しは本気になってくれるかな。」

その言葉を聞いたとき、俺の中で何かが切れた。

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!!!!!!!!!!!」

「ほう。やっと本気になってくれ_____」

ゴウッッッッ!!!!!

俺が無造作に一閃してそれを黙らせる。

そのまま突進していき斬りつけて肉が切り裂け血しぶきが飛び散り骨が砕け散りながらも俺はひたすらに怜音さんへ攻撃をかけ続けていた。

「マモルマモルマモルマモルマモルマモルマモルマモルマモルマモルマモルマモルマモルマモルマモルマモルマモル何があっても絶対に確実に微塵も欠片も一滴もまったくもってこれっぽっちも傷一つ付けずにあいつらを守る守り切るだからまずはお前を殺して町中全員殺してこの街から逃げ切ってやるだからまずは死にやがれエエエエエエ!!!」

右に左に上に下に斜めに袈裟斬りに回転させて刺突して抉って切り刻んで肉片にして粉々にミキサーしてやるよぎゃははハハハハハは!!!どうしたどうした手が止まっているぞよく見れば腕から血が出てるじゃないかそんなんだと殺しちまうぞもっとも動けたところで結局殺すんだがなハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!

「もう止めてよ!お父さん求めも止めてもう戦えないでしょ!そんな腕じゃあ今は治療できるかもわかんないんだからもうこれ以上はやめてお願いだからっっっ!!!」

あれ、何かが飛び出してきたなだけど邪魔だからこいつもまとめて殺しちまうか結局は町中全員殺すんだし今何人殺してもおんなじだよなああああああああ!

「きゃ、きゃあああああああああっっっっっっ!」

「っっっっっっ!?玲於奈っっっっ!」

我に返った俺が慌てて刀を止めようとするが、間に合わない。だめだ、当たるっっっっ_____

俺の頬に生温かいものが飛び散った。恐る恐る目を開けると、そこには館椿をかばうようにして立つ怜音さんがいた。

怜音さんの胸からは真っ赤な血がどくどくと流れ出て床を赤く染めていった。そして俺にも怜音さんの血が髪を伝いぽたぽたと零れ落ち、赤い波紋を広げていく。

「お、父さん?」

「怜音さん...!」

胸から大量の血を流して倒れる怜音さんを見て皆が駆けつけてきた。

「黒淵君...君は本当に強いね...約束通り、玲於奈との同居を許そう。皆も、それには従うように。そして、彼のことを恨まないように。これが私の最後の命令だ...」

「「「了解しやした、組長!!!」」」

「それから玲於奈、ちゃんと、黒淵君の世話をするんだよ。黒淵君もよろしく頼むよ。」

「おとうさん!最後だなんて言わないで、もっと一緒に見ていてよ、一緒にいてよ!こんなところでお別れなんて嫌だよ!」

「玲於奈...すまない。でも、これが決闘だから...」

「お父さんのばかっ!それで死んでいたら意味ないじゃない!黒淵君だって最初はちゃんと平和的に終わらせようとしていたのに、なのに...」

「ごめんよ。またお前を一人きりにさせてしまうことは本当に済まなく思っている。でも、これからは代わりに黒淵君が守ってくれるよ。そうだろう?」

「...ええ。俺なんかでもよければ。」

「だ、そうだよ。だから安心になさい。私は少し先に行っているから。あとからゆっくり来なさい。」

「うん...!」

「よしよしいい子だ。黒淵君、娘を頼むよ。私を倒した君ならきっと大丈夫だろう。後は、任せた。」

「わかりました。命に代えても玲於奈は守り切ります。」

俺の宣言にうなずくと、怜音さんは安心したようで少しふらついて口から血が少しこぼれた。

「最後に一つだけ聞いときたいんだが、君に蒼乱流を教えてくれた人の名前を教えてくれるかな?」

「いいですよ。俺の師匠の名は白黒無色びゃっこくむじき。『殺人鬼』と近い存在らしいですよ。

もっとも、警察に捕まって死刑にされましたが。」

「そうか、道理で。そんな人に稽古をつけてもらえたなんて君は運がいい。」

「もっとも、捕まった時にかなり厳しく疑われましたけどね。」

そう愚痴ると、怜音さんも笑ってうなずいた。

「じゃあ、私は、これでさよならだ。最後にいいことを聞かせてもらったよ。」

そして、怜音さんは静かに目を閉じた。

周囲からすすり泣く声がする中、遅れて医者がやってきた。

「...今さっき、怜音さんは...」

俺がそういう暇もなく、医者は一喝した。

「これ、いつまで死んだふりをしておる!今の状況からして不謹慎だとは思わんのか!」

俺があっけにとられていると、死んだはずの怜音さんがむくっと起き上がった。

俺が声も出せずに驚いていると、怜音さんは不満げな顔で医者を睨んだ。

「爺さん。今せっかくいいところだったんだから邪魔をしないでくれよ。ほら、さっきまであんなに感動的な場を演出してたのに...」

「馬鹿もん!死闘を演じておいてあれほどの大ウソをついておきながらその態度はなんじゃ!ほれ、お前さんからも何か言ってやれ。」

突然話を振られて混乱していると、怜音さんは頭を掻きながら謝った。

「ごめんよ。ついその場のノリでやってしまった。許してくれ。」

「とりあえず百発ぐらい殴らせろ、あと俺の決意と涙を返せ中二病末期患者。」

一瞬のためらいもなく殴り掛かり、皆に止められるまで俺は蹴る殴るの暴行を続けただが公開はない。それに見合うだけの罪を犯したと思うし、100人に聞けば100人が正しいと答えるだろうことを下までだからだつまり何が言いたいかというと、

「放せまだあと63発ほど残ってんだよ。だから放せはーなせってば!」

「黒淵君、落ち着いて、お父さんも悪気があってやったわけじゃ...」

「なんだ、これのどこが悪気がなかったと?途中でセクハラはするしっこうしてわざわざ手の込んだいたずらまでして。どこかに悪気のなさが見えるんだい?」

「.........やっぱ殴っていいよ。セクハラの件思い出したら腹が立ってきたし。一度お父さんには教育が必要だと思ってたし。いい機会だからやっちゃって。」

「了解。」

「ちょっ!?玲於奈!?今ここで子供とか結婚とか言ったことは謝るからさ!だから許し______ぐぼあっ!?ま、待ってよ、話をしよう?そう、話せばわかるから...」

「誰か、チャカ持ってきてください。銃殺がご希望のようなんで。」

「いや、今のは振りとかじゃなくてただのお約束というか____」

「「「持って来やした!!!」」」

「こういう時に限ってみんな仕事早い!?なんでうわちょっとやめてたすけてーーーーーー!!!!」

ご近所一帯に、怜音さんの情けない悲鳴が響き渡った。


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