第4話「ドラゴンの末裔はいろいろと危ない」
紫崎はこう言った。"勇者の末裔を仇にしている末裔が存在する" と。
そして魔物の末裔が存在することを。
夜中、お母さんに話を切り出そうとするも言葉が詰まった。娘の危機なんて知れば悲しむだろう。それに、バレてしまうリスクがある。どうにもならないのだ。
こうなれば隠し通すのみ。きっと隠し通せるはず。
紫崎の存在が気になるも、あたしは幼なじみの真央と共に教室へ入った。入ろうとした。
「唯ちゅん、たいへーんな事になったよ」
昨日聞いた声、首根っこを捕まれてはその相手を見遣れば紫崎だった。
「唯ちゅん言うな!」
「唯ちゅん少し借りていいかな?」
紫崎はそう真央へ目線送れば幼なじみの握りこぶしが凄く気になるが笑顔で頷き答えては彼女を聞き入れた。
「話の続きでもあるのか。なんだ?」
教室から出てざわめくクラスメート達が溢れる中で切り出してみる。
「"先祖還り" 話したよね?」
嗚呼、聞いたな。魔物の末裔は人間と交配していけば血は薄まるものの、魔物の力は受け継いでる。中には魔物の姿が残る人間が現れると。
紫崎が言うには、先天的もあれば後天的もあるらしい。
「だから、なに?」
「フフフ。ボクは見つけたんだよ。"ドラゴンの末裔" をね」
「…ドラゴン!?」
「ほら、あれを見てごらん」
紫崎の目線の元へ確認すればそこには全く見慣れない奇抜な緑色の髪をした女の子。
「あれ?あんな子居たっけ?つかめちゃくちゃアタフタしてない?」
緑髪なんて奇抜。普通なら同じクラスならば初日で解るはずだ。
「フフフ。そらそうでしょう。よく見てごらん」
緑髪のドラゴンの末裔を観察する。その末裔と呼ばれる子は挙動不審でキョロキョロとしている。何か助けを求めてるような気がしてさえする。
そんな時、奇抜な彼女に異変が起きたのだ。奇抜な彼女は喚いた。あたしはそれにびっくりした。
「ふえぇぇぇっ!?あわわわわわわ」
「な!は、は、羽!?」
「フフフ。静かに静かに」
クラスメートはまだ気づいていない。真央も黒板の方を向いている。だけどその女の子にはアニメで見る蝙蝠の翼が小さく背中にあった。
ドラゴンの末裔という決定的な証拠がある彼女とあたしは目線が合う。
「あ、あ、あ、ああああああ!!」
「ちょ、ま!?」
「フフフ」
すると羽を見られたからか大急ぎで廊下を駆け出して行ったドラゴン。
「まずい!あれではあの子が危ない!」
「君、勇者の末裔を隠す事に精一杯じゃないんだ?ずいぶん余裕だね?あの子にバレたらどうすんの?」
「んなこと言ってられっか!」
あたしはドラゴンを追い掛けてまだ人気のいない階段で彼女を引き止めた。
「やだやだ!見ないで!羽を見ないで!バレちゃう!ドラゴンの末裔だなんてバレちゃう!」
「…え?」
自分から公開してきただと?それも簡単に。
「は、は、はい?」
「うわああああどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう見ないで…」
必死に小さな翼を折り畳みながら涙目で訴える彼女。というか、気が動転しているのかこの子は。
「ドラゴンがぁっ!ドラゴンがぁっ!」
「ドラゴンはもう分かったから!もう分かったから!」
ドラゴンドラゴンうっせぇ!というかドラゴンの末裔隠す気あるのか!?
「えっ……?まさか……」
ドラゴンの末裔は涙を溜めた大きな瞳でじっくり見つめて問い掛けてきた。
ま、さ、か、だ、と?
まさかこいつ、誘ってるのか?誘ってたのか?
整理しよう。あたしは昨日、自己紹介の時に真央に勇者の末裔のヒントである "剣を飛び出す" について触れられた。
その小さなヒントから紫崎はたどり着いた。このドラゴンがバカだとしても、ドラゴンだとあたしが知っているのならば彼女は確実にあたしを勇者の末裔だと疑う可能性が出てくる。
いや、完全にハメられた可能性だって出てくる。手品をヒントにあたしが勇者の末裔だという "核心" を持つ為の罠かもしれない。
そう。これはもう始まっている。高度な頭脳戦…!
切り返せ。覆せ。この状況を。
「ドラゴンってなに?羽がどうしたの?全くわからないんだけどどうかしたのかな?はははは…」
見てないアピールをしてみる。いや、見ていないわけではない。だけど目線が合っただけで完全には見てないと苦し紛れの解答を提出する。
分かってる。バレそうなことくらい…!だってこいつ羽見えまくりだし…!
「あ、そうなんだー!よかったー!ドラゴンの末裔かなんかと思われてるかと思ったー!えっへへー!」
「はははは…」
こいつ、このドラゴン…。想像以上にバカ過ぎる…!
「えっへへー!あたい、緑地竜子っていうのー!」
羽をパタパタさせて爬虫類の尻尾がにゅるりと生えてくるドラゴンの末裔
「あわわわ!?また羽が!?尻尾まで!?って、見てないよね!?これ!?羽と尻尾じゃないからねこれ!?ましてやドラゴンじゃないからね!?」
こいつ。隠す気あんのか。
緑地竜子。バカでアホで間抜けな事はよくよく理解した。
だけど、この子と深く関わるわけにはいかない。あたしはあたしで隠す事に精一杯なのだ。
あたしは普通の女の子としてこの三年間、いや、その先も生きたい。
だからドラゴンとして生まれたこの子までは庇えない。
と、思うや矢先に両手を握られてじっくり見つめてくる彼女。
「あの、よかったら!あたいと、友達になってくれませんか?」
「えぇえええええええええええ」
非常にまずい。断れない。
その矢先--------------。
「あら良いじゃないお似合いじゃないの」
「紫崎…!」
ニヤニヤしてるこいつ、紫崎が凄くムカつく。余計な真似を。
「竜子ちゃんと唯ちゅん。仲良くなりそうでいいじゃないの〜」
「はぁあぁあぁあぁあ!?唯ちゅん言うな!」
ふざけるな、こいつ。掻き回す気か。こいつ一人で翻弄されてるというのに、こんなドラゴンまで。
「やったー!仲良くなろう!唯ちゃんさん!」
「フフフ、よかったわね唯ちゅん楽しいお友達が出来て」
「くっ…唯ちゅん言うな」
はしゃぐドラゴンに、不気味な笑いを零す紫崎。あたしはこの戦いで、生き残るだろうか。