第3話「勇者の末裔は末裔を呼ぶ」
「えっ」
放課後の屋上。モデル体型の彼女は直立不動のまま首を少し傾けた様はとてもじゃなく奇妙。
彼女が言うにはお母さんと同じく "勇者の末裔" だと安易に名乗ってはいけないということだった。
あたしだけでなく、この世界には異世界人の末裔が何人も居る事。
すらすらと詰まらず話す彼女は人を騙す詐欺師にように見えるくらいに簡潔で適当なものだった。
「待って。だけど勇者って英雄なわけだろ。どうして殺されなきゃいけないんだ!」
"声が大きいよ" と注意されてしまえば思わず ハッ と 声が詰まる。彼女はその仕草に笑みを浮かべて
「じゃあ、勇者に倒されそうになった悪人の末裔が居たら?その末裔が先祖代々勇者へ怨みを持っていたら?」
なるほど。そういうことか。そういうことなのだ。何も勇者を慕う人間ばかりが末裔ではない。
「 ま、 "に ん げ ん" だったら、まだ可愛いほうだけどね?」
…人間以外の末裔がこの世界に存在する?
あたしが意表を突かれたような顔をしてしまったものだから、彼女は "ウフフ" と笑い声を零した。
「人間とは違う末裔がいるって…」
「そうだよ?魔物の末裔だっているんだから
魔物の末裔。彼女ははっきりそう言った。居るんだ魔物って。
「魔物の末裔は生まれた時から魔物の力を受け継いでる。だから、君なんか簡単に殺されちゃうんだから。血は薄くとも魔物として目覚めてる。所謂、 "先祖還り" 」
冷静な視線で見つめて来る彼女からは
直立不動で見つめて来る彼女からはどうみても強キャラの風格。正気の沙汰無し。
「待てよ!あたしには剣がある!」
「剣が君に扱えるの?それも13歳になったばかりの君が大きな剣を。何にも鍛えてやしない君が大きな剣を扱えるのかな?」
「っ」
まさしくそのとおりだ。あたしは剣が扱えない。剣を飛び出すことくらいだ。
つまり、生まれつき魔物の力を受け継いでる末裔には勝てない。
彼女は "それが" 言いたかったんだろう
「異世界にレベルは存在するけどこの世界にはレベルが存在しない。つまり異世界へ渡れない末裔は現実世界の人間と変わらない」
「なら、お前は…!お前はどうなんだよ!」
「ボクも普通の人間と変わらないよ」
本当なんだろうか。こんな強キャラかましてるこいつが。
「お前が何者かはわかった。お前も何かの末裔なんだな?」
あたしはクールに名推理を披露してみせた。ここまで語らせておいて当たるのは当然なわけだが。
「フフフ。その通り。ボクは "遊び人" の末裔なのさ!」
「……え?」
遊び人?遊び人といえばあのふざけた格好している道化みたいなやつ?
嘘なのか本当なのかどっちかわからないけれど
こいつは人間だから…弱いに決まってる!いや弱いんだ!絶対弱い!
「くっくっく。そっちも異世界行けないなら、あたしと同じじゃねぇか?だったら…勇者という事を!これから黙ってもらおうか!」
あたしの抑えた感情は爆発した。空間が引き裂かれて剣が飛び出しかっこよく手に取る。
握り方なんてわからないし、意識してなかったけど案外重たい。構えてはみたけども漫画やアニメのようには安定しない。フラフラする。
「へぇ。君も "遊び人" 馬鹿にしちゃうんだ?」
余裕な笑みを浮かべる奴。だけど勇者とバレたからにはバラされる前にはやっつけておくべきだ。こんな怪しい強キャラが味方なわけがない。と思った矢先。
「ゆいちゃん!ずるいよ!私に隠して手品を披露するなんて!」
ドアが バタン! 開かればこんな戦いを知らない幼なじみがやってきた。
「え?あ…これは…えっと…ははは…」
「ではでは。ボクはそろそろ失礼しちゃうよ。」
「おい、待てい!」
「このボクが言うわけがないよ。ただ、もう披露しないことだね。 "それ" ね」
彼女はあたしの剣を指差してクククと人差し指を唇に添えてお上品に笑ってみせた。
剣を消したあたしに対して彼女は背中を向けて
「ボクの名前はね、紫崎遊花(しざきゆうか ゆうかたん で いいよ。 よろしくね」
「うっせ黙れ紫崎。」
「ボクは ゆ う か た ん だ よ」
「黙れ紫崎」
奴は、遊び人の末裔は、紫崎は、手の平をひらひらと適当に振って去っていった。
「ゆいちゃんの手品バカにするなんて許せないね…」
真央は知らない。あたしと紫崎の高度な頭脳戦を。
紫崎、一体奴は何者なんだろうか。敵か味方かはわからない。だけど勇者の末裔と知られた以上は警戒すべき人物だろう。
紫崎遊花。遊び人の末裔。一体奴は何を目的として、あたしに近づいてきたのだろうか。
真央は絶対に巻き込みやしない。この高度な頭脳戦を勝ち抜く為には真央を守り抜く為には手段は選ばない。大切な人を巻き込ませてたまるものか。
あたしは強く決心した。