第2話「勇者の末裔はさっそくバレる」
あたしは13歳の誕生日に知らされた事実、それはこの世界の人間ではない勇者の末裔である事と、興奮状態になると剣が飛び出してしまう事だ。
勇者の末裔であることを絶対話してはいけない、とお母さんと約束をした。
あたしのお父さんは勇者の子息だ。
あたしが産まれる前に "時が来た" から異世界へ旅だったらしい。
お父さんは何も話さず旅だった。だからお母さんは詳しくは知らない。勇者の役目を。ただただ "他に話さない" と約束させられた。
恐らく学校でイジメの対象になるからだろう。それに誰が勇者の末裔だなんて信じるんだろうか。幼なじみの真央はなんとか隠し通せた。意外と簡単だなって思った。
そんなこんなで気づけば集会が終わり教室へ戻る。
「ゆいちゃん!またあの手品見せてね!剣を ばびゅーん って飛び出すの!」
「お、そうだな…ははは…」
そんな簡単に見せていいものではない。 それにあの時はたまたま剣を飛び出しただけなんだから。
ホームルーム。皆がそれぞれ簡単に自己紹介していく。1番最初だった真央は緊張で噛み噛みの自己紹介だった。
真央は少し人見知りで恥ずかしがり屋だ。あがり症ですぐに顔が真っ赤になって昇天してしまう程だ。
彼女の苗字の赤木の「あ」だから1番なのは仕方がない。
真央に新しい友達が出来たらいいなと思っていればすぐにあたしの番がやってきた。
「えっと、あたしの名前は橙ヵ原唯子。趣味はえっと、えっと、えっと、特にありません!特技も特に…」
「ゆいちゃん!特技あるよ!手品!剣を出すやつ!」
「…っ!」
教室が静まり返る。あたしは唾が喉が通らない。 "うっ" と口をすぼめて言葉が詰まった。
この状況はまずい。剣を飛び出すわけにはいかない。冷静になるんだ。冷静にならないと剣は飛び出る。
むしろ手品という理由で見せるのもアリかもしれない。だけど皆が真央のような単純ではない。トリックの答えを執拗に聞いてくるクラスメートが現れるかもしれない。
そうなればあたしは勇者だという事を隠し通せる自信がない。それならもうあの "手品" は最初で最後だ。
「手品、できるのですか?」
担任の若い女先生がニコニコ聞いてくる。…やめろ…!
「いえ、まだ手品は練習中です!だから、特技じゃないです!」
…よし、言い切った!あたしは頭を皆に下げて席へ着いた。勝った。勝ったのだ。隠し通せたのだ。あたしは勝利に酔いしれるよう席へ着いた。
「ゆいちゃん、あれはたまたまだったんだね!早く手品出来たらいいね!」
「う、うん、そうだな…ははは…」
この幼なじみは純粋でいい子だ。いい子なんだ。あたしが勇者だと彼女は知らない。だけど、あれは間一髪だった。まさに紙一重で交わした気分。首の根を刈り取るつもりかと思った。
ホームルームが終わる。さっそく席を立ち帰る準備をするわけだが
「橙ヵ原唯子さん?」
後ろから知らない声を掛けられた。
振り向けば身長が高く胸元しか見えない。見上げれば鼻が高く、眼は釣り目で、上から下まで見ればさらさらの腰までの長いツインテール。とても外国の人にしか見えない。モデル体型という言葉が正しい。
そんな彼女が話し掛けてきた。
「話があるんだけど、ちょっといい?」
「え?あたし!?なら、真央も」
「二人で話したいの」
どうやら二人で話したいらしい。初対面の彼女が二人で話す理由はなんだろうか。
「ゆいちゃん行ってきていいよ!」
申し訳なく真央のほうを向けると、あたしらに笑顔を向ける彼女。あたしは頷いて二人きりの話を了承した。真央の怒りの篭った握りこぶしをよそ目にして。
「何かな?」
屋上に呼び出されたあたしは彼女に理由を聞く。正直、早く聞いて早く帰りたい。部活の勧誘ならばすぐに断りたい。
「君、勇者の末裔でしょ?」
「っ…!!」
馬鹿なっ…!どうしてバレた?どうやってバレた?あたしは剣を飛び出した事はないし、それっぽい事はしなかった。ごく普通の中学生を演じていたはず。というかどうしてバレた?それもストレートに。
「勇者の末裔ってなに?」
「惚けても無駄だよ?君は勇者の末裔だよね?」
っ!こいつ、できる…!まさかあの自己紹介で見破ってきたというのかっ…!いや、待てよ。
そもそも勇者の末裔を隠す理由はなんだ?意味はなんだ?それを知っている彼女にも隠し通す必要があるわけか?
勇者って英雄なわけでヒーローだろう。それをそもそも隠し通す理由はなんだろうか。わからない。
お母さんも "わからない" と言っていた。でもでも隠し通す必要があるみたいで。
だとしても、勇者の末裔だと知っている彼女には告白してもいいんじゃないのか?そもそも彼女自身も勇者の末裔に関係する "誰か" である可能性もある。仲間を探しているのかもしれない。
「そうさ…あたしが…勇者の末裔さ…」
あたしは勇者の末裔なんだから勇者らしくかっこよく言い放った。クールに、目覚めたかのように。
「あーあ。言っちゃった。ボクでよかったね?こ ろ さ れ な く て 」
…え?全く意味がわからなかった。だけど、その言葉に心臓はバクバクした。
彼女は "ウフフ" とお上品に笑みを零せば公開してはいけない理由を明かしてくれた。それは、衝撃的な事だった。