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大丈夫!

作者: 剣人
掲載日:2016/01/11

「大丈夫!」


彼女はいつもそう言っていた。



僕は生きることに何の楽しみも無かった。


小学生のころは心の成長が早かったせいか、周りの子どもっぽい空気についていけなかった。


かといって孤立するのはイヤだったから、いつもリーダー格の後ろに着いてトラブルには巻き込まれないようにした。



中学生のときにサッカーに出会った。


みんなと違うことはしたくない、だから部員の多い部活に入ろう。


それがきっかけだったが、いつからかサッカーが楽しくなっていた。



中1の冬、僕は初恋というものを経験した。


マンガやアニメで、恋愛というものは知っていたが、自身で経験するのは初めてだった。


勇気を振り絞っての告白、相手の娘はオーケーをしてくれた。


それからは毎日が楽しかった。



中2の春、僕と彼女は初めてケンカをした。


そして別れることになってしまった。


彼女を嫌っている女子が、僕が二股をしていると言ったらしい。


それを問い詰められケンカになってしまった。


その時とっさに手を出してしまった。


軽く肩を叩いただけだったが、中学生の女子に対しては十分な攻撃だ。


彼女は別れたあと、クラス中に僕が二股していること、彼女に暴力を振るったことに尾ひれをつけて言いふらした。


クラスからの視線に僕は耐えられなかった。


以降僕は他人が信用できなくなった。


もうサッカーすら楽しくはなくなっていた。


ただ、何かしていないと気が狂いそうだからサッカーをやるだけだった。



そんな僕に声をかける娘がいた。


「大丈夫、気にしないで!君がそんなことしない子だって知ってるから!」



中2の夏、あれ以来サッカーに全てを捧げてきた僕は2年生ながら大会のスタメンに選ばれた。


その年のメンバーは過去最強と言われ、初の全国大会も夢じゃなかった。


地区予選の1回戦、相手は地区でも結果の出せていない弱小校だった。



1点リードのまま迎えた後半のロスタイム、相手に攻め込まれゴール前での混戦になった。


混戦から抜け出したボールを夢中で追った僕は無意識に自分たちのゴールにシュートを決めてしまった。


時間ギリギリでの同点オウンゴール。


延長戦では士気の上がった相手を止められず2点も取られ、僕たちは地区予選1回戦で敗退してしまった。



部員たちは陰で僕を非難するだけだった。



「大丈夫、気にしないで!君がスゴいのはみんな知ってるから、頑張って次挽回しよう!」


マネージャーである彼女は部員たちをなだめてくれたようで、それ以降僕を非難するやつはいなくなった。


そして、僕は次のキャプテンに選ばれた。



中3の夏、大会の2週間前、最後の調整として近くの学校と練習試合を行った。


開始すぐ、先制点を取るために僕は相手のゴール前まで切り込んでいた。


そんな僕を止めようとした相手との接触があった。


よくあることだと思って、僕はすぐに立ち上がろうとした。


だが、痛みで立ち上がることは出来なかった。



すぐに病院に運ばれ、診断の結果は靭帯の断裂だった。


2週間後の大会はもちろん、サッカーを続けるのも大変なリハビリが必要な上、もとのように動けるかは分からないとのことだった。



「大丈夫、何とかなるよ!みんな応援してるから、頑張って!」


彼女はみんなで作ったと千羽鶴を持ってきてくれた。


それからも時々リハビリしている僕を訪ねては「大丈夫!」と声を掛けてくれた。



高校生になって、部活には入らず地元で弓道を始めた。


リハビリは順調に進んでいたが、サッカーに戻る気は無かった。


弓道を始めたのも近所でできるというだけの理由だった。


友達もなるべく作らないようにし、ひっそりと生活していた。



それでも一緒に帰ってくれる、声を掛けてくれる娘がいた。


彼女にだけは僕は何でも話した。


そのほとんどは僕の愚痴だったが、その度に彼女はこう言った。


「大丈夫、気にしないで!私はずっと友達だよ!」


「大丈夫、気にしないで!頑張ってれば、いつかイイことあるよ!」



このまま何事もなく高校生活が終わると思っていた高3の冬、数少ない高校の知り合いからバンドに誘われた。


歌唱には密かに自信があり、大学も決まっていたのでやってみることにした。


もちろん僕はボーカルだった。



だがバンド活動はうまくいかず、半年で解散してしまった。


歌うことに魅了された僕は独学でギターの練習をし、路上ライブを繰り返すようになった。


その時、僕は人生で初めて他人に見られることを快感に感じた。



ある時、僕のライブを聴いてくれていたおじさんがプロを目指す気はないかと尋ねてきた。


レコーディング会社の偉い方だった彼のおかげでデビューすることまでできた。



あれから10年。


僕は今までのことを思い返してみた。


彼女はいつも声を掛けてくれた。


僕がどれだけひどい状況になっても、いつも支えてくれた。


もし彼女がいなければ僕は今ここにはいられなかっただろう。


もしかするとこの世にすらいないかもしれない。


彼女は僕の人生の恩人だ。



ステージ裏、ライブ直前。


僕に声を掛けてくれる娘がいる。


「大丈夫、緊張しないで!初めての武道館ライブ、思いっきり楽しんできて!」


左手の薬指のリングを輝かせて彼女は言う。



大好きな音楽、大好きな彼女、大好きなファンの人たち。


僕は今、最高に人生を楽しんでいる!




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