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戦場ブギウギ(一)

 どこかの国旗のデザインみたいな美しい三日月が出ていた。

 今にも音をたてて降ってきそうな満天の星空だ。

 密林のなかにいては到底こんなきれいな星空など望めないが、そこは視界をさえぎるものがない岩山のうえだった。


「いや絶景かな、絶景かな」

 ブルームーンが岩山の突端にあぐらをかいて、双眼鏡をのぞき込んでいる。

「砦を守るが一個中隊とは、小せえ小せえ。このわたしにかかっちゃ風前のともしび。すりゃ半日とは保つめえよ」


 芝居がかったセリフを吐くブルームーンのとなりで、やはり双眼鏡をのぞいていたライマーが感心して言った。

「それにしてもダーリェン丘陵の砦というのは、まさに不夜城という言葉がぴったりの場所ですな。見てください、あのコンクリートで固めた陣地を。まるで城塞のタレットみたいにいくつもの歩哨台が突き出して、サーチライトで縦横無尽にあたりを照らしておりますぞ」

「フン、にぎやかで結構だこと。今にも二十世紀フォックスのファンファーレが聞こえてきそうじゃないか」

「しかしこう暗くては、塹壕がどのように掘られているかよく分かりませんな」

「おそらく陣地を中心にして蜘蛛の巣状に張りめぐらせてあるはずだ。うかつに踏み込んだら、塹壕の敵に手間どっているあいだに包囲殲滅させられてしまう。ここは一点突破の電撃戦を仕掛けるしかないだろうな」


 ブルームーンは双眼鏡から目をはなすと、背後をふり返った。

「おいミキ・ミキ。運んできたカノン砲の組み立てはまだ終わらないのか」

 砲台の車輪によりかかっていたミキ・ミキは、ハヒィと情けない吐息を漏らした。彼もふくめ、傭兵たちは全員地面にぶっ倒れている。分解したとはいえ、総重量約三トンはある百五十ミリ軽カノン砲を人力でここまで引っ張ってきたのだ。


「……やいブルームーン、てめえひと使いが荒すぎるぞ。これじゃまるでピラミッドの建造に駆り出された奴隷じゃないか」

 ミキ・ミキは肩でゼイゼイ息をしながら、恨めしげにブルームーンをにらんだ。

「それに俺の名はミキ・ミキじゃない。ミッキー・三木だ。省略して呼ぶな」

「ぶつくさ言ってないで早く準備しろよ。もたもたしてると夜が明けちまうぞ。だてにおまいらを高い金出して雇ってるわけじゃないんだからな」

「ちくしょう、これだから小ブル資本主義の手先はいやなんだ」

「青くさい階級闘争ばかり夢見ていると、けっきょくなにも成し遂げられないまま老いて朽ち果てるぞ」

「うるせえよっ」


 ミキ・ミキがようやく重い腰をあげたので、ブルームーンは眼前に広がるダーリェン丘陵にふたたび目を凝らした。

「狗盗たちに探らせたところによると、詰めている兵士の数が一番少ないのは意外にも正面ゲートだそうだ。灯台もと暗しってやつかね」

 ライマーが眉間にしわを寄せて言った。

「まさか正面突破なさる気ではないでしょうな」

「ピンポーン。ひとつ菊水一号作戦といこうじゃないか」


「林道へつづく正面ゲートには重機関銃が二挺据えてあり、不審者に対しては問答無用で引き金をひいてくると聞いておりますぞ。陛下からお預かりした大切な兵です、むだに死なせるわけには参りません」

 ニターっと悪魔的な笑みを浮かべてブルームーンは、ライマーの鎧の肩をポンポンたたいた。

「いやあ、王国騎士団からおまいを引き抜いて本当に良かったよ。安心しろ、やばい橋を渡るのは、おまいとわたしの二人だけだ」


 ライマーは、コホンコホンとわざとらしく咳をしてみせた。

「よる年なみのせいですかな、近ごろやたらとこの鎧が重く感じられて……」

「泣く子もちびるといわれた黒騎士ライマーの名が泣くぞ」

「若気の至りというやつです」


「おうい、ブルームーン」

 くわえたばこで砲台を組み立てていたミキ・ミキが、レンチで砲身をコンコン叩きながら言った。

「せっかくこいつを完成させても、ボルガンから提供された尖鋭弾じゃ、あのコンクリートの陣地は撃ち抜けねえぞ。どうするつもりだ?」

「そいつは陽動に使うのさ。なるべくゲートから遠い場所へ撃ち込んでくれ。敵が動揺しているすきに騎士団で正面を突破する」

「機関銃はどうする? 毎分三千発で発射できるガトリング砲がゲートの左右に一挺ずつ、胸壁の狭間から侵入者へ狙いをつけてるって話だぜ」


 ブルームーンが、ライマーをあごでしゃくりながら言った。

「それは、こいつと二人でなんとかする」

 ライマーは星空をふり仰いでつぶやいた。

「……ああ、騎士道というは死ぬことと見つけたり」


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