年寄り爺さん
柵に乗っかる居眠り老爺。
右に左に、私は揺らす。
左に右に、老爺を揺らす。
老爺の顔はすっかり真っ青。
私は叫ぶ。
「さあ、議案の在りかを教えておくれ。何処に隠した、何処やった」
私は叫ぶ。
「さあ、教えておくれ。爺さん、アンタいったい何するつもりさ?」
老爺は呟く。
「探しておるのよ、嘲笑とピンを。そいつでチクリと一突き、主教の子牛」
老爺は呟く。
「捜しておるのよ、王立委員を。大事なことを決めるには、安全弁が無けりゃならんさ」
[1901年5月14日の貴族院議会における禁酒法に関する議事録を参照されたし※1]
【脚注】
※1 この議案が出るとソールズベリー侯は主教らをからかい、「それでは、その議案を通過させるためには、我々とは別の王立委員会が必要であるな」と提案した。それに対して、ローズベリー伯からは威勢の良い反論が飛び出したのである。
(※ Westminster Gazette誌の編集長J. A. Spender (1862~1942) による注釈)
【備考】
原題:『The Aged Man』
初出:Westminster Gazette 1901/5/16
ルイス・キャロル『Through the Looking-Glass, and What Alice Found There』(It's My Own Invention)のパロディ
挿絵は諷刺画家 Francis Carruthers Gould (1844-1925)の作品(Public domain)
【訳者の解釈】
英国の貴族院には庶民院のような選挙は無かった。世襲貴族や一代貴族、法服貴族、聖職貴族などが貴族院の議席を獲得してきたわけだが、当時はまだ庶民院の優越などは無かった。政治事に絡んでこない主教なども貴族院議員として禁酒法案などを打ち出てしまうのだから、法案を精査する認可委員(王立委員)が重要となるのは当然であろう。
首相のソールズベリー侯が現行の王立委員会について文句を垂れると、ローズベリー伯は野党の政治家らしく与党のソルーズベリー侯を責め立てるのであった。
そんな貴族院議会の一場面。
【風刺モデル】
〇私(I)
自由党員:ローズベリー伯アーチボルト・P・プリムローズ。元・首相、貴族院議員。
〇老爺(The Aged Man)
保守党員:ソールズベリー侯ロバート・A・T・ガスコイン=セシル。首相、貴族院議員




