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オレ、つかれました。  作者: みかぐらはやと
第一部
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エピローグ


 

     エピローグ



  


 ぐ〜ぎゅるるるるるるるる…。


「…あ、やばいマジでやばい…おなかと背中がくっつくどころか開通する……上半身と下半身がちぎれる……」


 オレはげっそりやつれた顔でよろよろと自分の部屋にたどりつく。

 もう時刻は明日にさしかかる半時前だ。

 ちなみにもう空腹の敵であるお風呂は済ませてある。

 今日はべつにラッキースケベも気絶するようなアクシデントもなかったよ。

 残念だったな諸兄。


「あーもうダメもうムリ……もうコレ寝ないとやばいよな。てか寝れんのコレ? 仮に眠れたとして明日無事に朝を迎えられんの? 寝てる間に胴体なくなったりするんじゃないコレ? そうなってもおかしくないほどに今のオレは空腹ですけどそこのところ大丈夫なのかどうなのか、その答えは神のみぞ知るセ◯イ…」


 なんか空腹すぎてなに言ってるのか自分でもよくわかんなくなってきたな…。

 もうなにもかんがえないようにしよう。

 特に『魔』からはじまる系のことは意地でも考えないようにしよう。

 もう寝よう、はやく寝よう!


 オレが死力を尽くして現実逃避にいそしんでいると、珍しくオレの部屋のドアがノックされた。


「……わたし、だけど。…いる…かしら…?」

「ジル…? あぁ、ちょっとまって今開けるから」

「い、いいわよ! そ、そのまま聞いて…」

「え? でも会って話したほうが…」

「もう! いいって言ってるんだから黙って聞きなさいよあなた!」

「ご、ごめん…」


 そんな怒らなくてもいいじゃん…。

 オレはちょっとヘソを曲げつつ扉を背にしてあぐらをかく。


「で、用件は?」

「…………」


 ジルはドアの向こうで押し黙る。

 もうわりと慣れてきたしガマンだ。


「…その…暫定魔王決定、おめでとう…」

「うれしくねーよ!!」


 考えないようにしてたのに!

 おまえオレをいじめにきたの?!


「べ、べつに悪気があるわけじゃないわよ…! その、アレよ…あなたにすこし言っておかなきゃならないコトがあって…」

「え? なに…?」


 なんかまだ不吉な報告あんの?!

 カンベンしてよもうおなかいっぱいですって!

 いや、たしかにすごい空腹みたいなこと言いましたけどおなかいっぱいですから!

 だから……あーもうややこしい!


「…あなた、わたしを支えたいって、言ったこと…覚えてる…?」

「え……それはまぁ、何回も言ったし…」

「そう……」


 ジルはそう返すとまた黙ってしまった。


 え?

 まさかコレ聞くためだけに来たとかないよね。


「…で、でもアレよね…」


 よかった、まだ続きがあったみたいだ。

 ところでアレってなに?


「あ、あなたが逆に魔王になっちゃったじゃない?」

「…うん……すげー不本意だけどそうみたいだね…」

「つ、つまり支えるアレも逆になったとも言えなくもないわけよ…!」

「んー、まぁそうなのかも?」


 だからアレってなにさ。


「そう、そうなのよ、…で、わたしとしてはその…アレなのよね…」

「……もうアレ禁止にしない?」

「う…、わ、わかったわ! ちゃんと言うわよ!」


 ジルはようやくなにか言う決心がついたらしく、その気概がドア越しにも伝わってきた。


「その…! あの……。…ディアがさっき言ってたコトは、わ、わたしの本心としては……あながち間違いでも…な、ない…わ…」

「え? なに? ガイコツ? てか、さっきっていつ?」

「さ、さっきはさっきよ…! その、あなたが暫定魔王に決まった……アレのとき」

「また来ちゃったよアレ! わかんないって、はっきり言ってくれないと!」

「ほ! ほかにも言うことがあるの!」

「えぇ?! オレひとつめまだちゃんと聞いてないよ?!」

「う、うるさいわね! ページもどって勝手に確認しなさいよ!」

「おまえそーいうコト言うのやめろよ!?」


 とりあえずもうひとつめは諦めるしかないみたいだ。

 仕方ない、ふたつめは聞き逃さないようにしよう。


「…で、ふたつめっていうのは?」

「……い、一回しか言わないから、ちゃんと聞きなさいよ?」

「…わかってるよ」


 オレは、扉に耳をあてて聞く体勢をととのえる。

 扉の向こうでは、少女が息をととのえる音が聞こえた。


「………よし…」



 そして、少女は言葉をつむぐ。


「…あなたには、ホントに言葉ではあらわせないくらいに感謝してるの。でも、だからこそ、ちゃんと言葉で伝えたい…」


 思わず聞き入ってしまうような、やさしい声音。


「…こんなわたしを何度も助けてくれて――」




「――ありがとう、ルイ」




「…………」


 不意をつかれ、オレは言葉をなくす。

 その言葉を聞き届けた瞬間、空腹もけだるさも忘れてしまった。


 オレはゆっくりと少女の言葉をかみしめ、理解し、そして、笑みをこぼしてしまう。


「…どういたしまして、ジル」

「………っ」



 それからオレたちは、一枚の扉を隔てて、どちらも無言のまま、心地よい静寂に身を委ねた。



 でもそんなしあわせタイムが長く続くはずもなかった。



「…おー、お嬢。部屋にいねーと思ったらなにしてんだ? んなトコで」

「………!!」


 びくーん!

 とジルが跳ねあがる音が聞こえた。


「ん? そこはたしかルイの……」

「な! なんでもないわよッ!!」

「うぉああぁぁぁぁぁでぶぅッッ!!?」


 ガチャーン!

 びたーん! 


 …ジルが勢いよく扉を開け放ち、ドアにくっついてたオレは一緒に部屋のほうへ押し込まれ、扉と壁にはさまれた。


「ほ、ほらだれもいないじゃない! へ、変な勘ぐりはよしなさい、ディア!」

「…オレ様まだなにも言ってねーよ…」

「わ、わたし急に眠くなってきたわ! お、おやすみなさいディア!」

「…おー…」


 ばたばたばたばたガチャ、ばたーん!


「…なにあんなに焦ってんだ…? お嬢のヤツ…」

「………はぁ……」


 ジルの照れ隠し行動を不審に思うガイコツの前に、縦方向にペチャンコになった男がひらひらとはみ出てきた。


「お? ルイじゃねーか……って、あー…。オレ様としたことが間がわりーコトしたもんだぜ。馬に蹴られても文句言えねーわな」


 一瞬で事情を察したガイコツが珍しく申しわけなさそうにする。


「まー、そんな落ち込むなよ、ルイ。これから先もなにかしらチャンスはあんだろ」

「…おまえにはオレが落ち込んでるように見えんのか……」

「ケケケ! どっちかってーと、つかれてるよーに見えるぜ?」

「…ハハ、ご名答…」

「まー元気だせよ。明日になりゃいつもどーりになるだろ。じゃ、また明日会おうぜ、ルイ」


 ガイコツは陽気にけたけたやりながら、ジルの部屋へと消えていった。



「………はぁ…」


 オレは深い溜息とともにベッドにもぐりこむ。

 今日だけでいろいろなコトがありすぎた気がする。


 とりあえず今は寝ないとダメだな。



「…………」



 布団にくるまったまま、オレはさっきの言葉を思い出す。



「…ったく、今日は最悪の一日だったぜ…。もうマジでつかれた……」





 グチをこぼすオレの口元には、どうやっても元に戻せない笑みが浮かんでいた。






 …はやく来いよな、明日。


 そして、存分にオレをつかれさせてくれよ。





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