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オレ、つかれました。  作者: みかぐらはやと
第二部
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第六章 手に入れたもの(7)




 ふたりの少女が抱き合う光景を、端から見守るオレと大魔導士。

 その隣に、ガイコツが静かに姿を現した。


「…ルイ。…ホントにありがとうな…」

「オレは特に何もしてないよ。アイツらが少しだけ、正直になっただけだ」


 お互いがずっと想いあっていた。

 こうなってしかるべきことが、今起きただけ。

 ホントにそれだけのことだと思った。


「オメーは、オレ様にはできねーコトをやってくれたんだ。ちっとは誇ってくれねーと、オレ様がヘコまなきゃいけなくなるぜ」

「おまえにしかできないことだって、きっとたくさんあったと思うぞ。…おまえがいたから、今のあのふたりがいるんだ。お互い様だと思ってよーぜ」


 オレがそう言って笑いかけると、ガイコツはしばし呆気にとられたあと、いつもの笑いを浮かべた。


「…ケケ、ルイには頭があがんねーぜ。ますます惚れこんじまいそーだ」

「やめろ気持ち悪い」


 宙に浮く頭蓋骨に惚れられたって、オレがやることはお祓いくらいしかない。

 多少気が滅入りながらふと大魔導士のほうを見る。


「…………」


 すると、大魔導士は珍しく、神妙な面持ちで涙ながらに抱き合う少女たちを見つめていた。


「……たの……は、き………ないよ、………ナ……」


 何かを呟くその横顔には、いつもの皮肉めいた笑みではなく、とてもやさしげな微笑が浮かんでいた。


「…どうしたんだ、大魔導士ちゃん?」

「……。…やールイ殿、ちょっとした考えごとさー。…それより、こんな雰囲気じゃこれ以上辛気くさいお話をするのはヤボだろーね。今日はもうお開きにしちゃおーよ」

「……そうだな…」


 なんだかうまくごまかされてしまったが、大魔導士の言うことももっともである。

 オレたちはふたりの少女が落ち着くのを待ってから、当面の問題を保留にして解散した。


 これから何が起こるかはわからない。

 でもきっと、乗り越えられないことはないと思う。

 …だって、ナハトが言ったんだ、『大丈夫』だって。

 『力を合わせれば、どんな強大な敵にも立ち向かえる』って。

 新しくできた友達がそう言ってくれたことを、オレは信じたい気分だった。





 いろいろなことを考えながら、オレは自分のベッドに入る。

 そしてオレは、自分のベッドに先客がいることを察知した。



「…………!」


 すごくびっくりしながらベッドから飛び出し、オレは急いで毛布をひっぺがす。


「………やや、なんで毛布を取るのさルイ殿ー。さすがにすこし寒いよー」

「またてめーか!! 出ていけ!!」


 ベビードール姿の大魔導士を怒鳴りつけ、マットレスごとひっくり返す。


「あーれー。お代官さま、おたわむれをー」

「ぐへへ、よいではない……ってなにもよくねーよ!! 去れ!」

「むー、ルイ殿はノリが悪いなー」

「オレはつかれてんだよ! 別の場所で寝ろ!」

「つかれてるなら、ボクがいろいろ労ってあげるよー」


 そう言いながら自らの指を色っぽく舐める大魔導士。

 オレは生唾を飲み込みながらも鋼の意思をつらぬく。


「…その誘いには乗らねーぞ! はやくどっか行け!」

「むー、どっか行けって言われたって、ボクの部屋がないじゃないか」

「…ジルたちの部屋に行けばいいだろ?」

「今日はさすがにおジャマできないよー」

「むぅ…」


 たしかに、大魔導士の言い分も一理ある。

 リビングで寝かせる手もあるが、サヤちゃんが逆に気を遣ってしまうだろう。


「だからボクとルイ殿がいっしょに寝れば、すべてまるく収まるんだよー」

「むむぅ…」


 なんだか悪魔の甘言に惑わされている気がするが、筋が通っている気もする。


「……しょうがない、オレの部屋で寝ることを許してやる」

「さすがルイ殿ー。器が違うねー」

「ただし!」

「?」


 オレはそう前置きをして、押し入れからキャンプで使ったことのある寝袋を取り出す。


「まさかー、ボクにこれで寝ろってゆーの?」

「まさか。仮にも女子であるおまえにそんなことは言わない。オレがこれで寝る。おまえはオレのベッドで寝ろ」

「やったー」


 …あれ?

 てっきりそれは忍びないみたいなことを言われると思ったんだけど、大魔導士は嬉しそうにベッドにダイブして普通に眠り始めた。


「え? あれ、ちょ…? 大魔導士さん…?」

「なにー?」

「いや、良心の呵責とかないんですかね? オレの部屋でオレが寝袋使ってんのに、なんでオレのベッドでそんな平気で眠れるの?」

「だってルイ殿がそーしろって言ったんじゃないかー」

「いやそうだけども」

「………ZZZ」

「もう寝やがった?! おい大魔導士! おい!」

「…うーん、むにゃむにゃ…もー食べられなーい…」

「おまえ起きてるだろ!!」


 オレは怒りに任せて大魔導士の体を揺らすが、浅緑ショートヘアのベビードール少女は一向に目を開けようとしない。


「野郎、そっちがその気ならこっちにも考えがあるぞ…!」


 オレは頑として起きない大魔導士を寝袋に押し込み、地べたに寝かせる。

 紳士としてあるまじき行為かもしれないが、オレの安眠のためだ。


「…うーん、むにゃむにゃ…」


 大魔導士は寝にくそうに地べたをゴロゴロしている。


「……悪く思うなよ」


 オレが多少心苦しく思いながらもベッドに戻ろうとすると、地べたをゴロゴロしていた大魔導士が、「うにゃー」とか言いながら寝転がったまま器用にバウンドしてオレのベッドに収まった。


「事態が悪化した!!!」


 マジかよ!!

 とうとう寝袋まで取られてしまった!

 なんなんだコイツのベッドに対する執念は!


「おい! 大魔導士! 起きろ! 起きてください! 起きろーーーーーーッッ!!」

「兄さんうるさい!! はやく寝ないとまた学校で寝込んじゃうよ!!」

「ごめんなさい!!」


 ついにサヤちゃんに怒られてしまい、オレはベッド奪還作戦を諦める。

 大魔導士をベッドから追いやってもまた同じ方法で戻ってきそうだったので、オレは泣く泣く地べたでの就寝を余儀なくされた。



 そうして、本当に色々なことがあった一日が終わった。

 



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