第六章 手に入れたもの(4)
白い天井が視界いっぱいに広がった部屋で目を覚ます。
「…………」
少し視線をずらすと、白いカーテンが見えた。
鼻から息を吸い込むと、医薬品などが混じりあった独特のにおい。
どうやらここは保健室のようだった。
「……目が覚めたのですね。星見くん」
淡々とした声が響き、オレがカーテンに向けていた視線を逆側に移す。
そこには、キュートな担任、真木名先生の姿があった。
「…放課後、中庭で倒れているキミと御影さんを発見し、ここに運びました。天川先生がもういらっしゃらなかったので、ワタシがついていたんです。訊ねたいことは沢山ありますが、まずは…………大丈夫ですか?」
真木名先生は無感情に状況説明をしてくれたが、最後の問いかけだけは、オレの目を見て訊いてきた。
「……大丈夫ですよ、ご心配をおかけしました、真木名先生。それより、ナハ……御影さんは?」
「彼女はすぐに目を覚ましたので、先に帰らせました。アナタが目を覚ますまで待つと言っていたのですが、もう遅いですからね」
「……そうですか……。よかった」
どうやらナハトも無事のようだ。
…と、そう言えば。
「オレ、どこかケガとかしてませんでした?」
「…? いえ、念入りに確認しましたが、意識を失っている以外はなんの問題もない健康体だったので、保健室で休ませることにしたんです」
「そうですか…」
まぁ、意識不明のオレがどこかケガしてるんだったら、真っ先に救急車を呼ぶだろうしな。
ホントはケガがなくても呼ぶべきだったのかもしれないが、学校側の体面もあるだろうし、オレとしてもそっちのほうがありがたい。
ケガのことは……まぁ、深く考えないでおこう。
勝手に治ったかもしれないし。
…ボロボロになった制服が修繕されていたのには驚いたが。
「どこかケガをしているんですか?」
「い、いえ! そんなことは」
真木名先生に心配されて、慌てて取り繕う。
目が覚めたばかりでまだ頭がしっかり働かないな。
とりあえず、ミカエルが立ち去ったあと、オレとナハトは先生に回収されて、ナハトはもう家に帰ったと。
アヌビスはきっとどうにか逃げたか、もしくは魔力を失っていない悪魔だから真木名先生には見えなかったか。
どちらにしろおそらく死んではいないだろう。
「あ、あと……校舎が壊れてたりとかは…?」
「特にそんなことはありませんでしたね。……壊したんですか…?」
「ま、まさか! あははは…」
やっぱりか。
一週間前のミミズ野郎の騒動のときもそうだった。
すべて終わってから、校舎は何事もなかったかのように修復されていた。
ジルいわく退魔士の仕事らしいけど。
オレのケガも退魔士が治してくれたのかな?
「あの、あとひとつ訊きたいんですけど…」
「……いいですよ」
「生徒会長をその場で見かけませんでした?」
「……………。彼女が何か?」
真木名先生の目つきが鋭くなったような気がした。
ほとんど無表情ではあるんだが。
「い、いえ。ただ補習が終わったあとに少し話をしてたんで、もしかしたらと…」
「……下校時刻を過ぎても校内に残っていたのはそのためだったんですね。天座さんは見かけていませんよ。生徒会室にもいませんでした」
「そうですか。だったらいいんです。ありがとうございました」
「……では、次はワタシから質問しましょう」
げ。それはちょっと困る。
いや、非常に困る。
「…と、言いたいところですが。星見くんも何かしら疲れが溜まっているのでしょう。今日のところは家に帰ってゆっくりと心身を休めてください。話はまた今度訊かせてもらいます」
「先生………!」
あんたホントいいひとだ!!
「では、帰りましょう。立てますか? 車で送りますよ」
「先生………!」
あんた天使みたいなひとだ!!
いや、一般的に知られている天使みたいなひとだ!
ホントの天使はクソだからな!
そうしてオレは、先生の優しさに終始感動しつつ、先生に送ってもらい家路につくのだった。




