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オレ、つかれました。  作者: みかぐらはやと
第二部
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第三章 学長と会長(1)

9ヶ月ぶりの更新です。

こんなていたらくですが細々とやっていこうと思っております。




「ぅわぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁッッッ!!!」



 オレが大魔導士のせいで大人の階段をスタントマンよろしく転がり落ちたその翌日。

 オレの安眠を妨げたのは、最近の恒例となったジルによる悪質な悪戯ではなく、ある少女の慟哭だった。


「…………!? !? ?!」


 ただ事ではない様子に命の危険を感じ反射的に起き上がるが、いまだ寝ぼけているオレの脳みそは事態を把握できていない。

 唯一すぐに理解できたのは、その叫びを上げた少女が昨日から我が家に居候することになったナハトだということだけだった。

 それ以外はなにもわからなかった。

 わからないことだらけだった。


「そんな、何故、私の…」


 その赤髪の少女がなぜ、オレの部屋にいるのかわからない。

 なぜ、オレを見てショックを受けているのかわからない。


「それでは、私は、もう…」


 なぜ、その綺麗な髪と同じ赤い色の寝間着がはだけているのか、なぜ、絶望にうちひしがれたようにその場にくずおれたのか、わからない。


 …ただなんとなく、厄介事の気配だけは察知できた。



 なぜか落ち込んでいるナハトにオレがなんて声をかけようか悩んでいると、オレの部屋のドアが勢いよく開け放たれた。

 入ってきたのは案の定というか、ここでくずおれている少女のご主人様である。


「………!」


 そのご主人様たるジルは、寝間着をはだけさせ消沈しているナハトを見て目を見開く。

 オレはこの状況が端から見てどのように映るのか冷静かつ迅速に想像した上でジルに声をかけた。


「ジル、ひとつ断っておくけど…ちがうから。誤解だから」

「あなた…ナハトに何をしたの…?」


 その件について今断ったじゃん。

 先回りした意味皆無じゃん。


「仲良くしてほしいとは言ったけれど、そういう意味で言ったわけではないのよ。ひとの話はしっかり聞いてほしいわね」


 ジルは冷たい視線をオレに浴びせつつ、お前が言うなスレが乱立しそうな説教をしてくれる。


「…最後の言葉はオレの代弁だよな?」

「そうね。代弁よ」

「ホントに代弁かよ!! 斬新な切り返ししてくれたところ悪いけどただの二度手間だって理解してね!」

「ちょっと意地悪してみただけよ。わたしだってあなたがそんな品性のない輩だとは思っていないわ。…これでも少しは、…信頼してるのよ」

「お…おぅふ…」


 ジルさんがいきなりブッこんできたデレ発言(?)に戸惑いを隠せないオレ。

 こいつはたまにこういうコト言うからホント…なんかこう、アレだよな…。


 オレが心中に渦巻く非常にモヤモヤしたものの整理をつけられないでいる間に、元凶となったジルさんは未だにへたりこんだままのナハトへと近づいた。


「それで、ナハト。一体何があったの? いつまでも黙り込んでいてはわからないわ」

「…ぅ………ジル…っさま……」


 敬愛する主の呼びかけに、少女はようやく顔を上げる。

 その瞳は涙で濡れており、その悲哀の表情は彼女から命を奪われかけたオレですら哀れに思うほど同情を誘うものだった。

 ジルとオレが心配そうに見つめる中、ナハトは震える手をゆっくりと持ち上げ、力なくオレを指差しこう言った。



「…その男に、私の大切なものを………奪われました……ッ」



 場が凍りついた。



「…………ナハト? それはいったいどういう…」


 混乱しつつも希望的観測を捨てなかったのは意外にもジルだった。

 しかし、


「…これ以上は、わ、私の口からは……ッ!!」


 そう言ってナハトは両手で顔を覆ってオレの部屋から飛び出していってしまった。


 ジルは再度固まった後、首から上だけゆっくりとオレのほうに向き直り、この場以上に凍てつく視線でオレを見据えた。


「待てジル、ちがう。きっとなにか悲しい行き違いがあったんだよコレは」

「………………………………………………………………………………最低」


 オレへの信頼はどこへいった。



「むー、なんだか朝からさわがしーなー」


 ジルがオレに対して抱いていた僅かばかりの信頼の所在をオレが確認していると、更に場を混乱に陥れそうなヤツが非常に眠そうな顔でベッドから起き上がってきた。

 …オレのベッドから。


「………………なんで大魔導士があなたのベッドで一緒に寝ているのかしら」

「いや、これは大魔導士ちゃんが勝手に…!」

「そうなの? 大魔導士」


 ジルさんはオレの証言なんて全く聞こうとしてくれない。

 信じられないなら最初から訊かないでほしい。

 悲しくなる。


「やや、なんの話かなー」

「なぜあなたがルイと寝所を共にしているのかという話よ」


 語弊があるんじゃないかな、その言い方。

 大魔導士はああそのことかとでも言いたげに大きく欠伸をしながら、


「それはー、ボクが…(ルイ殿といっしょに)…寝ようとしたらルイ殿が…(抵抗するからボクが)…むりやりベッドに…」


 大事な部分だけが器用に欠伸で掻き消えた証言をしてくれた。

 もう驚きを通り越して笑えてくる。


「そう。どこまでも見下げ果てた男ね」

「…もう弁明するのにも疲れてきたけど、オレは潔白だからね?」


 むしろ何もしてないのにここまで状況証拠が揃うことにびっくりしたわ。


 元凶のひとつである大魔導士は未だ眠たそうにゆっくりと瞬きして、オレの部屋を見渡した後とある疑問を口にした。


「やや、なんだかナハト殿の叫び声も聞こえた気がしたんだけどなー」

「あなたと同じようにこの男の毒牙にかかって、ショックで飛び出していったわ」

「毒牙? ………や、なるほどー」


 ジルの発言に違和感を覚えた大魔導士が、少しの間考え込んでようやく状況を把握した。


「まったくルイ殿は、おかしな状況に引きずり込まれるコトにかけては天才的だねー」

「そんな天賦の才こっちからお断りだ」

「ふふー。こっちは楽しいからもっとその才能を発揮してほしーけどねー。ま、ここはボクがきちんと説明してあげるよ」

「そうしてくれると助かる。半分キミのせいだしね」

「…ふたりとも何の話をしているの?」


 オレたちの会話にジルが怪訝そうな顔で割り込んでくる。


「ちょっとした苦労話だよー姫様。とりあえず、ボクの話を聞いてくれるかな?」

「………?」


 まだオレの身に起きた不幸を理解できていない様子のジルに対し、いつものニヤニヤ顔を貼付けた大魔導士が話を始めた。




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