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実質一話ですねハイ
その日も、動きたくなくなる程の暑さが部屋に篭っていた。
部屋の窓とカーテンは何故か全て閉め切ってある。が、部屋の熱気は窓を開放していないせいでは無く、単にエアコンのスイッチが切れていただけだ。そもそも窓を開けたところで、清清しい風が入ってくるわけでも、耳を劈く蝉の大合唱が部屋に響き渡るわけでもない。それ程に自然が無いのだ、この街は。
「うぅ……っ」と篠川亜紀は大きく伸びをした。
何時間我を忘れていたのだろうか。身につけているTシャツとハーフパンツは大量の汗を吸い、ところどころでは潮さえ吹いている。腰や肩は悲鳴を上げる程に痛み、キーを打ち続けていた指の何本かはは赤く腫れていた。
何秒か目を閉じて、再びモニターに目を向けた。画面に映し出されているのは、数千行に及ぶプログラムのコード。
「ひひ……へへっ」
不自然な笑みが自然に漏れてしまう。正に頬の筋肉が緩む、といった状態だ。夏休みに入ってからというもの、睡眠と食事以外はずっとパソコンの前に座りろくに風呂にさえ入ろうとしなかったが、そんな程度の不快感は今の亜紀の持つ達成感には到底敵う訳が無かった。何しろ自分の全てと投入して完成させたといっても過言ではない作品なのだ、このプログラムは。
「あとは見直しして……名前をつけるだけ……だね」
立ち上がって数分体のあちこちを動かしていた亜紀はそう一人で呟くと、自分の汗が染みた椅子に座りなおした。