06 So Cold - 02 -
ジーンのフラットはテムズ川の南、サザーク・パークのすぐ近くにあった。
恐ろしく古い建物で階段は所々歪んでいる。
塗料の剥げた壁に沿ってギシギシと鳴る階段を登る。
五階まで来てようやく足を止めた。
「ここだよ。散らかってるのは気にしないでくれ」
小さなキッチンとバスルームが付いているだけの日本でいうワンルームだ。
ベッドと特大のソファ、大きなトランクが二つばかり投げ出されていた。
床には直にテレビとCDプレイヤーやターンテーブルが置かれ、CDもレコードもコード類も全部乱雑に散らばっている。
「散らかってるどころの騒ぎじゃないよ⋯⋯」
ソファへ座れと言われたが、足の踏み場もない。仕方なしにアキは片付けながら先に進む。
パンク、スカ、ヒップポップ、ヘヴィ・メタル、レゲエ、クラシック⋯⋯何でもありだ。
「あ、悪いな。片付けるの苦手でさ。ところで、エール? ウイスキー?」
ジーンがキッチンから顔を出す。
「エールでいいよ」
ジーンが二本用意する頃には、アキは何とかCDをいくつかの山に分けて積み上げることに成功した。
ぐるりと改めて見回すとベッドの奥のコーナーに、小さなアンプとギターが二本立て掛けてあるのが見えた。
「君、ギタリストだったの?」
「ギター弾きながら歌ってる。リードが俺。リズムは別にいる。たまに歌うのに熱中してお飾り状態だな。ハハッ」
アキにエールの瓶を渡し、そのまま床に座り込んだ。
「ふふっ。なんか、らしいね」
こうして笑いあっていると、昨日の印象がまるで嘘のようだ。冷めた目をした彼はどこにもいない。
「片付けながら見てたけど、結構何でも聴くんだね」CDの山を指差し、アキは言う。
「ああ、手当たり次第だな。少しでも気になれば何でも聴くよ。でも、コレっていうのは出会ってないな。そこにあるのもクソったれのものばかりだ」
「そんなのは、さ。自分で作ればいいよ。簡単にはいかないけどね」
「ああ、自分でやるのが一番だ。⋯⋯難しいけどな。自分の力量と⋯⋯、アレックスさえ一緒にやってくれればな⋯⋯」
ジーンの顔から表情が消えた。
クラブのあの男と何があったのか。アキが気まずさを感じて話題を変えようと口を開きかけた時、ジーンが無感情に問いかけた。
「さっき逃避行とか言ってたけど、東京はそんなに嫌な所なのか? 写真くらいしか見た事ないし、知らないんだ」
「⋯⋯ああ、東京ね。よく解らない所だな。俺は子供の頃ずっとこっちにたから、完全に異国だよ。空気がまるで違う」
「何だか今のあんたって、ひどくうんざりした様な顔つきだな。よっぽど嫌な目にあったんだな」
アキは身を引き攣らせた。ジーンはそれを見逃さなかった。
「⋯⋯こっちに来た理由、訊いていいか? 無理には訊かないけど、でも、今のあんたは危なっかしくて見てられないんだ」
「それは⋯⋯どういう意味? 昨日も⋯⋯」
「他の奴にはどう見えるか知らないけど、今すぐにでも死にそうなツラしてるよ。⋯⋯それって俺にとっては他人事じゃなくてさ。放っておけないんだ」
アキにはジーンの瞳はとても真摯に映った。
まだ出会って間もないこの危な気な青年に、なぜか不思議と信頼を覚えていた。
──もしかしたらジーンは解ってくれる?
そんな思いが浮かんだ。
「君は、誰かを憎んだ事が⋯⋯ある?」
ラフ画はアレックス40代。
リメイク前から若い頃は前髪で顔出ししていなかったキャラ。
後書きで前髪上げてる絵が残ってますが。




