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死の接吻  作者: 麻生あきら
Kiss of Death

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8/12

06 So Cold - 02 -

 ジーンのフラットはテムズ川の南、サザーク・パークのすぐ近くにあった。

 恐ろしく古い建物で階段は所々歪んでいる。

 塗料の()げた壁に沿ってギシギシと鳴る階段を登る。

 五階まで来てようやく足を止めた。


「ここだよ。散らかってるのは気にしないでくれ」


 小さなキッチンとバスルームが付いているだけの日本でいうワンルームだ。

 ベッドと特大のソファ、大きなトランクが二つばかり投げ出されていた。

 床には直にテレビとCDプレイヤーやターンテーブルが置かれ、CDもレコードもコード類も全部乱雑に散らばっている。


「散らかってるどころの騒ぎじゃないよ⋯⋯」


 ソファへ座れと言われたが、足の踏み場もない。仕方なしにアキは片付けながら先に進む。

 パンク、スカ、ヒップポップ、ヘヴィ・メタル、レゲエ、クラシック⋯⋯何でもありだ。


「あ、悪いな。片付けるの苦手でさ。ところで、エール? ウイスキー?」

 ジーンがキッチンから顔を出す。

「エールでいいよ」


 ジーンが二本用意する頃には、アキは何とかCDをいくつかの山に分けて積み上げることに成功した。

 ぐるりと改めて見回すとベッドの奥のコーナーに、小さなアンプとギターが二本立て掛けてあるのが見えた。


「君、ギタリストだったの?」

「ギター弾きながら歌ってる。リードが俺。リズムは別にいる。たまに歌うのに熱中してお飾り状態だな。ハハッ」

 アキにエールの瓶を渡し、そのまま床に座り込んだ。


「ふふっ。なんか、らしいね」

 こうして笑いあっていると、昨日の印象がまるで嘘のようだ。冷めた目をした彼はどこにもいない。




「片付けながら見てたけど、結構何でも聴くんだね」CDの山を指差し、アキは言う。

「ああ、手当たり次第だな。少しでも気になれば何でも聴くよ。でも、コレっていうのは出会ってないな。そこにあるのもクソったれのものばかりだ」


「そんなのは、さ。自分で作ればいいよ。簡単にはいかないけどね」

「ああ、自分でやるのが一番だ。⋯⋯難しいけどな。自分の力量と⋯⋯、アレックスさえ一緒にやってくれればな⋯⋯」


 ジーンの顔から表情が消えた。

 クラブのあの男と何があったのか。アキが気まずさを感じて話題を変えようと口を開きかけた時、ジーンが無感情に問いかけた。


「さっき逃避行とか言ってたけど、東京はそんなに嫌な所なのか? 写真くらいしか見た事ないし、知らないんだ」 

「⋯⋯ああ、東京ね。よく解らない所だな。俺は子供の頃ずっとこっちにたから、完全に異国だよ。空気がまるで違う」


「何だか今のあんたって、ひどくうんざりした様な顔つきだな。よっぽど嫌な目にあったんだな」

 アキは身を引き()らせた。ジーンはそれを見逃さなかった。


「⋯⋯こっちに来た理由、訊いていいか? 無理には訊かないけど、でも、今のあんたは危なっかしくて見てられないんだ」

「それは⋯⋯どういう意味? 昨日も⋯⋯」

「他の奴にはどう見えるか知らないけど、今すぐにでも死にそうなツラしてるよ。⋯⋯それって俺にとっては他人事じゃなくてさ。放っておけないんだ」


 アキにはジーンの瞳はとても真摯(しんし)に映った。

 まだ出会って間もないこの危な気な青年に、なぜか不思議と信頼を覚えていた。

 ──もしかしたらジーンは解ってくれる?

 そんな思いが浮かんだ。


「君は、誰かを憎んだ事が⋯⋯ある?」



挿絵(By みてみん)

ラフ画はアレックス40代。

リメイク前から若い頃は前髪で顔出ししていなかったキャラ。

後書きで前髪上げてる絵が残ってますが。

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