04 IGNITE - 02 -
本稿には、死生観に関するセンシティブな表現が含まれております。あらかじめ冒頭にてお断りさせていただきますが、ご了承いただけますようお願い申し上げます。
「あんた、テムズ川に身を沈める気か?」
突然左側からかけられた声に肩が跳ね上がる。
アキは我に返り、自分の状況を把握した。
気づかないうちに橋の欄干に手を置き、テムズ川を眺めていたようだ。
慌てて声の方を見ると、そこには二十歳を少し過ぎたくらいの青年が気怠そうにアキの顔を覗き込んでいた。
「何もこんな川で死ぬことないんじゃない?」
青年は顎を軽く持ち上げ、片方だけ眉を上げて皮肉めいた笑みを浮かべた。
意志の強そうな吊り上がった眉、青みがかったブラウンアイズはアイラインで真っ黒に縁取られていた。
ダークブラウンの髪はどうかすると乱雑にカットされているように見えるが、彼の風貌をより印象的に見せている。
背はアキより心持ち高い。六フィート程か。
グレーと黒のストライプのジャケットに黒のレザーパンツが、スタイルの良さを引き立てている。
一度見たら忘れない。
そんな圧倒的な存在感。
青年はアキから何か反応があるか窺っていたが、何も言わないのを見て取ると肩を竦めてみせた。
それからおもむろにバターシーパークへ向けて歩き出した。
去り際にこう残して。
「そんな顔してたぜ。⋯⋯あんただけじゃないけどね」
翌日の夜、アキは地下鉄を乗り継ぎ、レスター・スクエア駅に降り立った。
ロンドン随一の歓楽街、ソーホーへと向かう。
どこでもいい、クラブかライブハウスに入るつもりだった。
有名ではなく、小さくてもいい、ちょっと変わったところに。
しばらく通りを歩く。
『DAMASK ROSE』
これといって変わり映えのない店。だが、なぜか引き寄せられた。
ドア横のスタンド看板に、数枚のポスターが貼り付けられていた。
ぼんやりと見ていると、そのうちの一枚に焦点が定まる。
『D-FLOWER』
雑な印刷の写真の中に、昨日の青年がいた。
強烈な印象は何一つ削がれていなかった。
アキは顎に軽く指先を乗せ、写真の中の青年を見る。
「ねえ、あなた。この男、好きなの?」
透き通るように白い、形の良い指先が青年を指さした。
「何を言って⋯⋯」
「ふふふっ。違うの?」
アキが指の先を追うと、小柄で華奢な女性がいたずらっぽく笑っていた。
淡いグリーンの瞳。薄い唇にははみ出す程大きく口紅が塗られている。
肌は病的なほど青白いが、彼女の纏うエナメルの黒いスーツと相まって美しいコントラストを作り出していた。
何より見事なのは、トップとサイドにふんだんにシャギーが入れられ、腰まで流れる銀の髪だ。
二日続けてこんなに印象的な顔を見せられて、アキは自分が猿にでもなったような気分だった。
「別に好きなわけじゃないよ?」
「ふーん、そう? だって、穴が開くほどジーンの事見てるんだもの」
「⋯⋯ジーンって彼?」アキはポスターを指さす。
「そうよ。さっきのあなたの目つき、普通じゃなかったわよ。まあ、いいわ。好きでも好きじゃなくても、ジーンには関わらない事ね」
女性はアキの胸に人差し指を向け、グイと顔を上げてからかうようにアキを見つめた。
「あいつは死に取り憑かれた男なのよ。⋯⋯ジーン・リーサルだから」
──リーサル ジーン? 致死遺伝子?
「本名じゃない、よね?」
「ふふ、まあ、それでもいいならもうじき来るわよ。今日はギグの日じゃないけど、常連だから」
忠告というよりも、まだからかっているような口ぶり。
「じゃ、またね」そう言ってひらひらと手を振りながらドアに足を向けた。
それから思い直したように振り返り、表情を消してアキに告げた。
「ひとつだけ言っておくわ。ジーンに惚れるのは勝手だけど、彼は誰も愛さない。⋯⋯男でも、女でも。自分さえもね」
彼女はアキの答えを待つ事無く、ドアボーイに促されするりとドアの向こうに消えた。
アキは再びポスターに目をやる。
──死に取り憑かれた、誰一人愛さない男。
「危な気だな」
アキの唇からひとりでに零れ落ちた。
「何が?」
──え?
「何が危ないって?」
アキの右の耳元に影が落ちた。
振り返るとそこには、アーモンド形の大きなブラウンアイズ。
「⋯⋯ジーン⋯⋯?」
ラフ画はジーン
リメイク前の設定によると、アキ180センチ、ジーン182センチ。京也が177センチ。
ルアードの他の3人も同じくらい。身長高すぎ…。




