11 Wake Up - 02 -
“Wake Up” 覚醒
本稿には、死生観に関するセンシティブな表現が含まれております。あらかじめ冒頭にてお断りさせていただきますが、ご了承いただけますようお願い申し上げます。
「ジーン、君はディーに似てると言われる事に喜びを感じているの? 憧れている人と同一化したい? ⋯⋯それとも苛立ちを感じてるの? 俺が血縁ゆえに京也に似ていると言われるのが嫌なように?」
「⋯⋯!!」
「俺は今君の話を聞いて何だかわかった気がする。⋯⋯君は言ったね、他人事じゃないって。俺もずっと思ってたんだ。放っておけないって」
ほんの僅かに、アキには糸口が見えた気がした。
それは言葉にする事で、より明確になりそうだった。
アキは優しく微笑む。
──伝わってくれ。君を前に進ませたい。
ジーンの焦燥感が少しずつ薄れゆく。
「俺はあの日、スティーヴ⋯⋯ギタリストと衝突したんだ。俺のやり方について。どうかしてるって言われたんだ。それで、気落ちしてて⋯⋯、ウォータールーからテムズ川の川べりを上ってた。無意識に。そうしたらあんたが橋の上に立ってた」
ジーンの瞳がアキをとらえる。
「しばらく俺、橋のたもとで見てたんだぜ。東洋人があんな所で一体何してるんだろうって。興味本位で近づいたら、⋯⋯あんた死にたそうな顔してた」
「⋯⋯それで君は俺に声を掛けたんだね」
「ああ、見ていられなかった」
ジーンは蹲り、膝を抱えた。まるで幼い子供のように。
「どうして?」
「⋯⋯それは、⋯⋯まるで俺を見てるみたいだったから⋯⋯」
アキは解放への糸口を掴んだ。
──これを逃しては駄目だ。
「君は死を求めてると言ったね。でも、それが本当なら、俺を引き留めようとしなかったんじゃない?」
「⋯⋯?」
ジーンは顔を上げ、眉を顰める。
「君は言ったじゃない。自分を見ているようだって」
ジーンはようやくアキが何を言いたいのか理解した。
だが、それは彼の心中とはまったく食い違うものだった。
それは違う、とばかりにジーンは力無くに首を振る。
「君は死ねなかったんじゃなくて、死にたくないんだよ」
「⋯⋯それは、違う⋯⋯」
弱々しく震える手でアキを掴む。
「違わない。ジーン。死は解放と浄化を意味するかもしれないけれど、それと同時に逃げを意味する。君は、逃げるのが嫌だったんだよ。⋯⋯言ったよね? 俺がルアードに加入しないのは、逃げる事だって」
ジーンはアキの言葉を飲み込もうとしたが、受け入れられないでいる。
アキは畳みかけるようにさらに言い募る。
「俺は京也と比較されるのが堪らなかった。似てるだの似てないだのって。俺は俺だ。影でもコピーでもないって。⋯⋯でも今解ったよ。俺は京也になりたかったんだ。きっと憧れてたんだよ。心のどこかで」
「俺は違う! 俺はディーになりたかった。あんなすごい奴に!」
「そう、確かに君と俺の違いはそこだ。でもね、そうやって押し込められた君自身が反抗していたんだ。アレックス氏が言っていただろう? ジーンはディーじゃないって」
これはアキにとって一つの賭けだった。
ジーンのとらえ方によっては、さらに深みにはまる危険もあった。
だが、アキには漠然とした自信があった。
──頼む。この手を取ってくれ。
そうすれば、二人とも救われるかも知れない。
「そうだ。アレックスはそう言った。俺は⋯⋯、俺は悔しかった。あの時程ディーになりたいと思った事はなかった」
ジーンの頬を一雫、涙がつたった。
きつく目を閉じ、両手で顔を覆う。
「でも、自分自身が認められなかったのは、腹が立ったろう?」
アキはそうであって欲しいと願った。
ジーンの存在感の強さは、誰かの写しではなく本人から生み出されたものだと。
ジーンはゆるゆると顔を上げる。
少しずつ彼の中にも掴むべき何かが見てきた。
驚きと納得。
恐る恐る手を伸ばす。
「そう、⋯⋯かも知れない。俺がディーになりたかったのは、俺の中のディーの幻想をアレックスが求めたからだ。⋯⋯俺はアレックスのギターが、メロディが好きだ。だから一緒にプレイしたかった。なのに彼はディー以外の人間を拒み続けてる」
ジーンの口ぶりは重く、ひとつひとつ確かめるように紡がれた。
「だから俺は、⋯⋯ディーを演じたんだ。俺自身を見てもらいたかったのに⋯⋯!」
アキは立ち上がり、戸棚からタオルを取り出した。
今もなお、ジーンの頬に伝う涙を拭う。
ジーンは気恥ずかしそうにタオルを受け取り、目に押し当てた。
「君は今でもアレックス氏のギターが好き?」
「ああ、今でも。一緒にプレイしたい」
目にタオルを当てたまま、はにかむように口元が緩んだ。
「それならやる事はひとつだ。ディーを超える。幻影じゃない。君の持つ全てを形にするんだ。⋯⋯致死遺伝子という名を捨ててね」
「⋯⋯ジーン・ブロードに戻る時が来たんだな。⋯⋯俺の本名だ」
「そうだよ。彼らを超えるのも、自分を見付けて打ち出すのもそう簡単にはいかないかも知れないだろうけど。でも、ジーンはジーンで、俺は俺だ。誰のコピーでもない。ジーン・ブロードであり、清水暁人なんだ」
少しずつ、二人に笑みが浮かぶ。
満ち足りた、穏やかな笑顔が。
ラフ画はディー。
昔は美形至上主義でこんな表情は一切描かなかったんですが、年を取るのも悪くないですね。
今ならもっと崩して描きたくなりますね(笑)。




