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第4話:食べ歩き合戦と海岸の砂

ここは、今の僕が本を読んでいる場所。普段の僕なら滅多に足を踏み入れない、学校の図書室だ。たまたま「天文部」のリサーチ課題が出てしまったせいで、時折九回ほど考え込んでしまうような難解な文字列と格闘している。


古い本の匂いと、棚を覆い始めた埃が図書室を満たしている。少し薄暗くなった照明を見る限り、図書委員はこの場所をあまり手入れしていないのだろう。多くの人が訪れるべき場所が、今では見捨てられた古道具屋のような有様だ。


それでも何人かの生徒はここを訪れる。彼らは僕と同じように、ただ義務的に課題をこなしているだけだ。ここは彼らにとって、単なる形式的な場所に過ぎない。しかし、その時、僕の背後で足音が響いた。僕は体を回し、その人物を見つめた。


「お前、志波だろ……覚えてるか? 浅見とは、その……仲が良いのか?」彼は尋ねた。


「……いや。ただのクラスメートだ」


数日前、武道場の前で待っていた時に声をかけてきた剣道部の生徒だった。彼が何の目的で僕に近づき、彼女のことを聞き出そうとしているのかは分からない。僕たちの関係は、彼らが考えているほど複雑なものではないというのに。


「……コホン。彼女が誰か特定の奴と親しいか、知ってるか?」


「……知らないな。僕の知ったことじゃない」


「やっぱり、彼氏とかいるのかな。お前はどう思う?」


「あんな個性的な子なら、寄ってくる男も多いだろ?」彼はしつこく問いかけてくる。


僕は再び前を向き、毎秒のように繰り返される不快な質問を受け流しながら、天文の本を探すことに集中した。


「……さあね。そんなに気になるなら、本人に聞けばいいだろ」


「そうか。……じゃあな、学校一の『陰キャ』さん」


彼の足音は次第に遠ざかり、図書室から消えていった。僕は本の探索を続け、一冊の興味深い背表紙に手をかけた。そして、おもむろにその一ページ目を開く。


『――思春期における、愛の解釈について』


僕は反射的に、その本を勢いよく閉じた。天文の本だと思ったのに、なぜこんなテーマの本がこの棚に紛れ込んでいるんだ。誰にも見られていないことを祈りながら、僕は慌ててその本を元の場所に戻した。


目的の本を見つけた後、僕は天文部の部室へと向かった。廊下を歩けば、部活動に励む生徒たちの叫び声が聞こえてくる。笑い合う彼らの姿を見ていると、心が少しだけ温かくなるのを感じた。このあまりにも短い人生の中で、現実という名の絵画を見つめているような気分だった。


ポケットの中でスマホが震えた。僕は階段の前で立ち止まり、画面を開く。


*「今、忙しい? — 浅見 美咲 — now」

*「いや、別に。どうしたの? — 志波 遥斗 — now」

*「願い事、もうしないの? それとも私から提案してあげようか (๑˃ᴗ˂๑) — 浅見 美咲 — now」

*「随分と気が早いね。……今日の放課後、出かけるのはどう? — 志波 遥斗 — now」

*「楽しみにしてるわ (≧ω≦) — 浅見 美咲 — now」


僕はスマホを閉じ、ポケットに滑り込ませた。そして、天文部の部室へと続く階段を上り始める。高くそびえる太陽と、それを包み込む美しい青空を見つめながら、僕はその時間を心待ちにしていた。



現在、僕は校門の前に立っている。下校する生徒たちの姿もまばらになり始めた頃だ。夕暮れの**金沢**の空には、家路を急ぐ鳥たちが羽ばたき始めている。


練習終わりの彼女がやってきた。制服の背中側は少し汗で湿り、顔にも汗の粒が浮かんでいる。その小さな手が僕に向かって振られ、口角にはかすかな、けれど確かな笑みが浮かんでいた。


彼女は僕に歩み寄ると、少し荒れて傷の残る指先で、手慣れた様子でスマートフォンに文字を打ち込んだ。


『――私への願いは何かしら、我が下僕よ。ははは』


合成音声が茶化すように響く。


「ははは! よし、僕の妖精さん。今日は二つの願いを聞いてほしいんだ」

「一つ目は、僕の歌を聴いてほしい。これからカラオケに行くよ」

「二つ目は……あとで教えるさ」


僕はクスクスと笑いながら答えた。


『――生意気ね。いいわ、付き合ってあげる』


音声が途切れた後の彼女の笑顔に、僕の心臓は一瞬跳ね上がった。彼女の手が僕のカバンの端を掴み、そのまま校門の外へと僕を連れ出した。


沈みゆく太陽が黄金色の光を街に降らせる中、雑踏を抜けてカラオケボックスへと向かった。一室を借り、僕は一人の男が自分自身を見失う、孤独な歌を選んだ。


「――また泣きたくなる。二人で笑い合っていたあの頃のように。もう一度会える時なんて、あるのだろうか。僕は失ってしまったんだ」


真剣に歌い始める。普段歌わないせいか、時折喉が痛んだ。けれど、彼女は僕の歌う姿を、じっと、ただ真っ直ぐに見つめていた。


「――夢の中でもいい、戻らせてほしい」

「――君の抱擁の温もりを感じたい。全ての時間を君と過ごし、僕のそばにいてほしい」

「――君が望む全てを証明したい。答えを出すための時間を、僕にください」


伴奏が終わると、隣の彼女がパチパチと拍手をしてくれた。彼女はスマホを握りしめ、こう打ち込んだ。


『――あなたの声、すごく素敵。好きだわ』

『――毎日、聴きたいくらい』


一瞬、思考が止まった。同年代の女の子の前で歌うのは初めてだった。調子に乗って、自分自身のルールを破ってしまいそうで怖くなる。


「……ありがとう」


照れ隠しに笑い、僕たちはそれから誰にも邪魔されない空間で、時間の限り歌い、笑い合った。僕が冗談を言い過ぎると、彼女は楽しそうに僕の肩を叩いた。彼女はその瞬間を忘れないようにと、スマホで動画や写真を撮り、僕たちの時間を電子の紙に刻んでいった。


カラオケを終えて外に出ると、散り始めた桜の花びらが、消えゆく夕日の光に溶けていた。


「次の願い、何だと思う?」


彼女はスマホを打つ。その顔には、まだ楽しげな余韻が残っていた。


『――街を案内してほしいとか、そんな感じかしら?』

『――でも、あなたの願いだもの。きっとまた、普通じゃない場所なんでしょうね』


「ははは! 正解。よく分かってるね」

「この辺りの小さな屋台を全部回るんだ」

「そして、売ってるものを全部食べる。レッツゴー!」


僕は勢いに任せて、反射的に彼女の手を引いた。今の僕には、燃えるような熱意があった。


街の雑踏を抜け、屋台から屋台へと渡り歩く。たこ焼きを二つ買って、路傍の木製ベンチに座って笑いながら食べた。少し休憩した後、彼女の足がある焼き鳥屋の前で止まった。香ばしい煙に誘われたようだ。


「おじさん、焼き鳥三本ちょうだい。大きめのやつで。この小さな女の子はタンパク質が必要なんだ、ははは!」


彼女は顔を赤くして、スマホの画面を突きつけてきた。


『――恥ずかしいこと言わないでよ、このバカ! o(>▽<)o』


「……ぷっ、分かったよ。もう恥ずかしいことは言わない」

「冗談だってば、ははは!」


彼女は顔を背けながら、僕の腹を力一杯つねったり、つっついたりした。その頬は、夕日よりも赤く染まっていた。


代金を支払い、僕たちは街を歩きながら、目についた軽食を次々と買い込んだ。人混みの中で追いかけっこをするように、賑やかな足音に紛れて、僕たちの笑い声だけが世界に響いていた。



遊び疲れた僕たちは、沈みゆく太陽が「ゴールデンアワー」の輝きを放つ海岸へと向かった。


僕たちは波打ち際で砂を投げ合って遊んだ。海風が彼女の解いた髪をなびかせ、その瞳は夕陽を反射してきらきらと輝いている。

僕が海水を手で弾いて彼女にいたずらを仕掛けると、彼女は瞳を鋭くさせ、唇を噛んで唸るような仕草を見せた。そして、僕の胸元に思い切り砂を投げつけてきた。怒りなんて微塵も感じない。僕はただ、お腹の底から声を上げて笑った。


砂投げ遊びを止め、僕たちは寄せては返す波と砂浜の境界に腰を下ろした。穏やかな時間が流れる。


「……楽しかった?」僕は尋ねた。


彼女は小さく頷くと、指先で僕の胸の、心臓があるあたりを指した。そして微笑む。まるで『あなたも楽しかった?』と問いかけているようだった。口数の少ない彼女のジェスチャーを、今の僕は少しだけ理解できる。


「ああ、僕も楽しかったよ」


僕たちは視線を合わせず、ただゆっくりと溶けていく夕陽を見つめていた。


「稽古はどう? 辛くない?」


彼女は首を振ると、ゆっくりと手を持ち上げた。過酷な練習で傷ついた自分の指先をじっと見つめ、それから僕の方を見た。

意図が掴めず、僕は少し慌ててしまう。


「……えっ! なに、僕に手を治してほしいの?」


彼女は首を振り、僕の手を指差した。そして、眉を寄せて『あんたも手を上げなさいよ、このバカ』と言わんばかりの表情を見せる。


「分かったよ。僕も手を上げればいいんだね?」


彼女は声にならない笑い声を上げながら、小さく頷いた。震える唇が上を向き、幸福な弧を描く。

僕がゆっくりと手をかざすと、僕たちの手のひらは空中で重なり合った。ゴールデンアワーの光の下、異なる二つの魂が、沈みゆく光の中で一つに溶け合っていくようだった。


やがて太陽は水平線の向こうへ消え、代わりに月が夜の帳を照らし始めた。なぜだろう、このまま帰らずに、ずっとここに立っていたいと思ってしまう。彼女もまた、この瞬間を惜しむように楽しんでいた。突然、彼女が僕の服の裾を引いた。


彼女は眉を上げ、海岸の端を指差してから、左手で自分の唇を指した。僕の思考は一瞬でパニックに陥る。

心臓がうるさいほどに脈打つ。まさか、そんなことを求めているのか……?

呆然とする僕の背中を、彼女はパシッと叩いた。そして、足で歩くジェスチャーを見せる。……そこでようやく理解した。彼女はただ、砂浜を散歩しながら話したいだけだったんだ。


彼女が前を歩き、僕はその後ろをゆっくりとついていく。すると突然、彼女がスマホを取り出し、無断で僕の写真を撮った。


「……ちょっと! 消してよ、恥ずかしいじゃないか」僕は顔を赤くして抗議した。


彼女は僕に歩み寄り、インカメラを起動した。そのまま、昇り始めた月明かりの下で、僕たちのツーショットを収める。そして、彼女は本当に楽しそうに、美しく笑った。


静寂に包まれているはずの彼女の世界が、その瞬間、とても賑やかに感じられた。写真の出来栄えを見て笑う彼女の隣で、僕はただ照れ臭さを隠すように、首を振って頭を抱えることしかできなかった。


彼女は再び僕を見つめ、スマホと僕を交互に指差すと、指を三本立ててカウントした。すぐに分かった。「三番目のルール」……僕たちの間に、決して証拠を残してはいけないというあの約束だ。

彼女は申し訳なさそうに、深く頭を下げた。


「……本当にいいの? 君のために決めたルールなんだよ」


彼女は小さく頷いた。


「……まあいいか。僕からのボーナスだと思ってよ。ははは!」


僕は両手を腰に当てて笑った。彼女も小さく頷き、僕たちはそれぞれの帰路につくため、荷物をまとめ始めた。


分かれ道で、僕たちは足を止める。家が反対方向だから、ここでお別れだ。

言葉も、声もない。ただ、静かな夜に溶けていくような「さよなら」の代わりに、僕たちは手を振り合った。

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