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【短編小説】眼科

掲載日:2025/12/30

職員Mちゃん様主催のディスコードサーバ「ワンライ」参加作品です!!

 電子カルテになったとは言え、こうもモニターを眺めていると目が疲れし肩首も凝る。

 背もたれに身を預け、ゆっくりと首を回して考えるのは、休むことだ。

 きょうは帰りに銭湯へ行こう。

 あの大きな浴槽で手足を伸ばして……

「先生、次の患者さんがお待ちです」

 助手が無遠慮に言うので、湯冷めした思いで身を起こした。


 ドアを開けて入ってきたのは泣き顔の小柄な老人だった。

 老人は申し訳なさそうにしながら「いや、大した事じゃないのですが……」と言って灰色の診療椅子に座る。


「今日はどうされましたか?」

「いえ、やはりウチの婆さんの砂が目に入ってしまって痛くて……」

「あまり擦らないで下さいね」

 泣き顔の老人の目を診て目薬を処方する。

 まったく、砂かけババアと言うのは四六時中に砂を出すものなのか。日中はゴーグルで済むらしいが、話を聞くと寝相が悪くて砂をかけてくると言う。

 家の掃除もさぞ大変だろう。

 まぁ子泣きジジイだって重くなって床を抜かしたりするんだろうから、大変さで比べるのは良くないなと思った。


 子泣きジジイと入れ違いに入ってきたのは学ランを着た坊主頭の少年で、おでこに大きな絆創膏を貼っている。


「あの、ここで合ってますか?」

 少年はやたらキョロキョロと部屋を伺っていた。

 まるで小さな子どもだが、問診票には16歳とあり高校生だと言うことだ。

「今日はどうされました?」

 なるべく穏やかに訊くと、少年は「いや、そのヮトさんが……」とゴニョゴニョ言う。


 よく分からないが、額にある目が痒い時があるので目薬が欲しい、しかし絆創膏を剥がすと酷い目に合うので何とかして欲しいとの事だった。

 剥がすな、と言う事なのだろう。

 剥がさないで何とかしろとは無茶な話だ。

「じゃあとりあえず痒み止めを出しておきますね」

 それを聞いた少年は「もう帰っていい?消毒液の匂いが苦手なの」と言って診察室を飛び出して行った。

 適当で良いのだろうか。やれやれ。


 やれやれ、と息つく暇もなく入ってきたのは全身をすっぽりとコートで覆った男だった。

「おかけ下さい」

 椅子を勧めたが、男は断った。無理に座らせる事も無いのでそのままにしておいた。

「今日はどうされましたか?」

「いや、どうにも目の調子がおかしいのですが、どの目が悪いのか分からなくて……」

 男がコートを広げると、男の身体中にある目が一斉にこちらを見た。


 百目小僧か。


 一瞬だけ怯んだものの、何とか動揺を表に出さずに「それじゃあ一つずつ確認しましょうか」と言って診察を始めた。

 顔にあるメインの2つ目はやや近視、他は乱視と老眼が出つつある。身体にある目は機能が弱くなっているが病気では無い。

 問題は手足で、やはり使う回数が多いと病気にもなり易そうだ。


 一つずつ目を確認しながら「お仕事は何をされてますか?」と訊くと、百目小僧(小僧と言うにはすでに中年だが)は「警備室でモニターを注視しております」と答えた。

 なるほど、複数のモニターを監視するのにこれ以上ないほど最適な人材だ。

 恐らく疲れが溜まっているのだろう。

 もう少し妖怪連中の労働環境が改善されないとどうにもならない。


「あっ」

 思わず声を上げると百目小僧は「えっ」と不安そうな声を出した。

「いえ、ちょっと白内障の初期症状が出てますね。目薬出しておくんで、忘れずに点眼して下さい」

 こことここ、あとここですと幾つかの目を指して確認した。

 百目小僧は言われた箇所に自分で印をつけた。


「ありがとうございます」

「あまりお仕事も無理なさらないでくださいね」

「気をつけます。先生も目が一つなんですから、働きすぎないで下さいね」

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