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序章

異形の乙女の物語。

世界の覇者になるのは・・・。

異形の乙女は命を狙われる。

世界が戦乱に陥る時、異形の乙女が現れる。

奇妙で美しい異形の乙女は、戦乙女とも呼ばれ、

世界を混沌から和平へと導く。

しかし、戦乙女の道が誤れば、世界は戦いのみの混沌に還る。


ここは、大陸がつながった異世界。

人間の欲望で戦が起きれば、瘴気が漂い、世界は混沌と化す。

しかし、異形の乙女がこれを救い給う。


「ふん。本当に”戦乙女”ってのがいるんだろうか?」

長机に肘をついた、男性が声を発する。


長い漆黒の艶やかな髪に、透けるような肌色の、深く蒼い瞳と、しっかりした体躯の男性。

一目見て高貴な人物とわかる、所作に服装。


彼はそばに立つ、眉目秀麗な右腕に問いかける。

「この、戦乙女を手に入れねば、和平や安寧も難しいと・・?」

「そのように書物や伝説では言われていますね。」


小鳥がピュイイーと鳴き、風が室内に吹き込む。


ここは、高い高い塔の上の、御簾のような幕を下ろした一室。

彼はこの国の第二王子。

そう、王位継承者だ。だが、その才能ゆえに、また、不遇の人生の始まりゆえに、幽閉されていた。


一方、変わってここは水源も豊かな清い水面をたたえる湖面。

「・・っは!行くぞ、雀!」

年は7,8歳ころの可愛らしくも変わった女の子が、妖魔に向かって舞う。

目は違い目、髪も半分からは黒、半分からは眩いほどの銀髪。

左右の瞳の色は、金と黒。

幼い体躯にもかかわらず、その覇気と妖艶さがにじみ出ている。


雀、と呼ばれた妖魔・聖獣は答えることもなく彼女に牙をむく。

切迫した刃や術のやり取りが行われている。

「く・・っ」少女が態勢を崩すと同時に、雀が一撃を放つ。


少女の頬を一撃が掠める前に、優美な扇が空を裂き、雀に一打を与える。


「!・・すざ・・雀、大丈夫か?」少女が駆け寄る。

雀と呼ばれたものは、姿を若い男性に変える。

赤い髪に、赤い瞳、すらっとした体躯に、一点、蒼い布が首に巻かれている。

「大丈夫ですよ、姫様。それより・・・」

雀は自分に一撃を与えた存在に警戒する。


ー同時期ー

かの高貴な男は森を散策していた。


「あーあ。なんなんだ、戦姫とは。宮廷が騒がしくなるし、俺の身も危ういんだろ?」

側近に聞く先ほどの王子。

彼は何気なく視線を遠くへと移した。


清い湖面、水面を波立たせずにその上に立ち、妖艶に舞う「少女」。

瞳の色が、左右で違い、金と黒。髪の色も銀と黒、幼いながらも妖艶さと崇高さを放つ表情に

舞うように戦う姿・・・。

彼は目を奪われる、だが・・

その向こうには妖魔がいる。

妖魔が牙をむき少女に襲い掛かる。

王子はとっさに彼女を守るために魔力を風の形で放ち、妖魔に襲い掛かったのだ。


「雀・・!大丈夫?」

見ているとなんと少女は妖魔に駆け寄るではないか。

「おい。危ないぞ、妖魔に食われて・・」


ぱしん。

静かな森の奥の湖面に、扇を投げつける音がする。

「これは私の物だ。傷つけたりしない」

キッっとにらむ少女の瞳は、両方が黒かった。


「………。」

「………。」

両者とも見つめあい言葉がない。


「…雀、こいつの記憶を消して」

「待て待て待て待て!一体何事?

俺、君を助けたはず…だが?」


むぅっと少女は王子を睨むと、

「私はただ、稽古をつけていただけ。この、スザ…否、雀は私の親しい者なの。私を傷つけたりしないわ。…稽古でも…無い限り。」

語尾がもにょもにょと、不安定になり少女の目が泳ぐ。


「それより!あなた、何者?雀に傷を与えられるなんて…。小さな小さな力ですがっ!」と、牙を向く。


「いや、俺は君が妖魔に…」

説明しようとする王子ー翠明すいめいに、彼女ーせいが遮り話す。


「おま…いや、あなた。呪がかけられているわ。…それに…腐敗した匂い…死者でも仕えさせてるの?」

王子の、青年の、翠明の顔が青ざめた。


遡る事、十年前。

宮の奥に、怪しげな紫煙けむる一室。

世にも美しい妃が、その指先に卵を掴む。


「ふむ。…生まれたか。生まれ変わりは…どんな、異形かの?大敵になる前に喰らうかの。…消息を調べ、我がもとに捕らえよ。」

彼女は卵を飲む。すると…

世にも美しい顔が、目は細くなり虹彩は小さくなり口は横に避け、牙が見える。長い赤い舌が笑う…。

蛇だ。


「妃様、皇帝がお越しになります。ご支度を」侍女の声で彼女は人間に戻り、鏡を前に紅をさし直す。

しかし、鏡に顔は映らなかった。


翠明は、乳母の最期の言葉を思い出す。

“あの妃様には、秘密があります。王子様の呪とも母君とも関係が…。”


過去を振り払い、翠明は平静を保ち話し出す。


「腐敗した匂い…?死者など使役しておらんが…。呪術の匂い…か。たしかに、それはある。俺には呪がかけられている。…しかし…それがわかるとは…。お前は何者だ?違い目だし…」

しかし翠明が見た彗の瞳は両方黒く、髪も漆黒だった。


「わ、わたしは…ただの…ヘイミンデス。」

空気が白ける。

「姫様、嘘をつくならもっと堂々と…。」雀と呼ばれた美青年が突っ込む。


「ふーーーん…」

翠明の長い長い疑いと白けた台詞にいたたまれなくなり、彗は言った。


「む…もー。ここだけの話ね。もう、聞いたら忘れてね?私…私は…戦乙女です…」


しばらくの沈黙が、森閑な空気に飲み込まれる。


「…っふ…」

「吹き出すな。吹き出すとは無礼な。…まあ…身を隠す姫様だし…しかたないが…しかし、貴様こそ何者?」

雀がスラリと光る剣を翠明の首筋にヒタリと当てた。


剣呑な空気の中、互いが何者であるかを、日が暮れる頃にようやく、打ち明けた。

「第二王子?」

「戦乙女?」


これが、後に世界を手中に治める男と異形姫の出会いだった。


それから…幾く刻か過ぎ…。

「だったら、身元を隠して俺の宮で下働きをしたらどうだ?機により、宮内も探りやすかろう。」

「下働き?…、は、まあいいが…。匂い…がね…。」

異形の戦乙女は、生まれた時、生まれ変わった時から、命を狙われる。

手中にすれば、手中にした者は意のままに世を操れるが、誤れば破滅。手中にいれられなくても、他の誰かの手に渡ると破滅。

そんな存在の、彗だから、匂いで戦乙女とわかる。異形には匂いでわかるのだ。


「すると、彗様は宮中に異形が居ると?」

翠明の右腕、佐良さらが問う。


「その、腐敗した臭いは、死者を使役する者、また、異形でも道を外れた者しかしないはず…。または、それらを呼び、使役する者か。」


「彗様も、命を狙われる…?」

「も?」

すかさず、彗が聞き返す。

佐良は、はっとし、パタパタと扇をあおぎ、知らぬふり。


「………。」

また、彗がむぅっと、目を細める。

「なんだ、それは。こっちは秘密も明かしたというのに…」


「俺が命を狙われてんの。俺には予知のような才があり、また、この痣が…人を惑わし従わせると、言われてもいる。予知のような感覚はあるがな。他はない。」

と、翠明が襟をはだけて、鍛えられた身体の、胸あたりを見せる。


「わっ。破廉恥な…。」彗が顔を赤らめる。

「えー・・、反応………。」


ピュイイーと小鳥が鳴いた。


「とにかく。戦乙女とやらを、他の奴に渡せない。自分で言うのもなんだが…。他は危ない奴だからな。」


「……側に置いたからと、やすやすと覇者にはなれんがな。」

ボソッと彗が呟く。

「しかし、捜し物が宮中にあるのだろう?異形も使役者も、自らそうとは口に出来ないだろう?なら、いっそ宮中にいる方が、俺も佐良も居るし、一応、第二王子だから色々盾になれると思うが?」


確かに、と、彗は内心で頷く。命を狙われるのは、最初からついて回る話だ。今更な感もある。

ただ…今までより、数が増えて面倒なだけ…それに。


それに、捜し物は必ず、出来る限り早く手にしなければならないのだ。

ちらりと、雀を伺うと、彼も同じ考えのようだ。


「では…世話になる。…それで…建前はどうすれば?…ほら、婚約者とか、親戚?は無理か…。」

「こんな小さい子を、婚約者とはできん。」


“どんな即答なんだ”と、内心で突っ込むが、致し方ない。

“今”は、せいぜい十歳程度にしか見えない。


「なら、なんでもいい。異形関係に戦乙女とバレても、他には知られないほうがいい。設定は任せた。」


こうして、戦乙女は宮中に住む事になる。






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