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No.9 第2章 その1

<カンパラでの事前テスト>

今日は4月24日、月曜日16時半、伴はハルツームからの約2時間のフライトを経てウガンダのエンテベ国際空港のターミナルに着いた。首都カンパラまでは35㎞なので車で1時間くらいのところだ。このような旅行の場合、フライトやホテルの予約などは伴が自分で行うのだが、今回は宇宙エレベーター関係だから、ということでDavidのEU Space Development Corp.が手配を行いDavidから渡されたものはこの社名が入った青色のICカードだけで、その時に言われたのは13時までにハルツーム国際空港のEU関係者用のカウンターでこのカードを提示し、あとはその都度指示に従って欲しい、ということだった。そのためカンパラで泊まるホテルや、カンパラのEU Space Development Corp.の誰を訪ねるかは聞かされていない。そしてハルツーム国際空港のカウンターで言われたのは、14時10分発のエンテベ国際空港域に乗れ、ということだけで、伴は飛行機から降りたらどうすればいいのだろうと思っていた。ただそのような心配は不要だったようで、入国手続きは何処と見渡すと、EU関係者はこちら、と書かれたルートがあり、そこのカウンターでICカードを見せると担当者の端末には伴の顔や旅行の目的などが表示されるようで、担当者はちらっと伴の顔を見ただけで何も質問などなく審査が終わった。そして伴が自分の荷物を受け取ろうとしていたときに、見慣れたEU Space Development Corp.の制服を着たがっちりした体格の男が近づいてきて、

「伴 吉春さんですね。」と話しかけてきた。この人は、デニス メッタというEU Space Development Corp.の職員で公式にはコーディネーターだが主な仕事は要人の送迎や警備らしい。いかにも物腰の柔らかい話し方をするのだが、その体格と雰囲気から以前は軍関係だったのだろう、と伴は思った。

メッタ「早速ですが、これを右手の手首につけてください。」と言ってブレスレットのようなものを渡された。

メッタ「これを付けた時点で、事前訓練の開始となります。これであなたの脈拍など生体活動をモニタリングします。」。

車を回してくるというので、ハルツームのような装甲車みたいなものが来るのかと思ったら、普通の青い色のSUVがやってきた。車が走り始めたところで、

伴「ホテルまでは、どのくらいかかるのですか?」と聞くと、

メッタ「先ほど、事前訓練の開始と言いましたように、あなたの生体反応は我々の測定対象となっていますので、行先はホテルではなくEU Space Development Corp.カンパラ基地のトレーニングセンターの宿泊所になります。」

伴「そういうことでしたか。」

ちなみに、今回のカンパラ旅行は、伴が高所作業をすることに関して健康上の問題がないかの確認と、実際にハルツーム上空300㎞で伴が高所作業をするときに伴が機材の操作方法を習得することと、機器配置などで何か問題がないかの確認で、大きな問題がある場合は機器の改修が必要になる場合もある。

大切な業務中だから私語は禁止されています、と言った割には、デニス メッタは宇宙エレベーターに関して詳しい説明をしてくれた。以下は、その概要である。

宇宙エレベーターの原理から、赤道上にあるカンパラが宇宙エレベーターのメインの基地となり、その上空36,000 kmに静止軌道ステーションがある。もともと宇宙エレベーターが作られたのは、小型衛星を軌道上に載せるときにロケットで上げるよりは宇宙エレベーターで上空まで運んでそこで放出するほうが安価、という理由だが、そのときに必要な高度は多くの場合上空36000 kmよりも低いので上空24,000 kmに中間ステーションが作られ、そこへのアクセスを増やすのと宇宙エレベーターの安全性を増やすために、赤道を挟んで角度15°となるハルツームとマラウイのリロングウェにも宇宙エレベーターの基地が作られ、その2点と上空24,000 kmの中間ステーションが結ばれた。挿絵(By みてみん)

このときハルツームの基地は当初目的の衛星打ち上げではない用途で注目された。それは衛星との通信で、例えばハルツームからのケーブル上の地上1,200㎞のところに衛星用アンテナを設置すると、このアンテナからロンドンの方向を見ると地平線の下で見えないのだが、ロンドン上空300㎞を通る衛星は視野に入るので信号を受け取ることができる。そうであれば、英国内で生じたクラウド処理用データをサーバーセンターで処理するときに、すべてを英国内のサーバーセンターで処理する代わりに、一部をサーバーセンターがより安価なハルツームのEU施設内で行うことが可能となる。このとき、EU施設内のサーバーセンターを国別にしておけば、例えば英国内のデータは第3か国ではあるがEU管理のもとにある英国用施設で処理されるのでデータを外国に持ち出すということではない、と見なすことができる。このため、ハルツームではヨーロッパからのデータを処理するための多くのサーバーセンターが作られ、それの管理や必要な処理を担当する多くの会社も集まってきたので、ハルツームは宇宙産業というよりIT産業の都市に変貌を遂げた。一方カンパラの宇宙エレベーターの設備は小型衛星などの打ち上げに特化するため、ハルツームのように多くのサーバーセンターが作られることは無かった。具体的に言うと、宇宙エレベーターのケーブルや中間地点に衛星用アンテナを取り付けると、それと地上の施設を結ぶ光ファーバーも必要になるが、それらは衛星を上空まで高速で送り届けるのには邪魔なのだ。例えば、たまに発生するのは一度に数100機の小型衛星を地上24,000 kmの中間ステーションから放出するというもの。放出された衛星たちは1日かけて地球を周回しながら決められた軌道に降りて行くのだが、これらを中間ステーションに運ぶには、多数の衛星を入れた直径3mのクライマーを多数数珠つなぎにして中間ステーションから引き揚げる。この時問題となるのが中間ステーションへ到達するまでの時間と、中間ステーションのスペースとなる。クライマーは最高時速100㎞での移動が可能なのだが、これは他に邪魔がない場合で、これでも10日間必要となる。もし上から空になったクライマーを同時に降ろす必要がでてきたら途中のマイクロスペースなどでスピードを落として交互走行を行うことになる。これを避けるため、カンパラにはお互いに直径3mのクライマーが時速100㎞での移動が可能な、上り線用と下り線用のケーブルがある。このほかにハルツームと同様に上り下り切り替えで時速は最大50kmだが直径5m高さ10mまで対応可能なケーブル、さらには実験用のケーブルの計4本が中間ステーションまで伸びている。従ってカンパラの宇宙エレベーター基地の敷地面積はハルツームの倍近くある。このように、カンパラには上空へ運ぶための多数の衛星が持ち込まれるため、多数の小型衛星の組み立てと最終試験などを行う多数の会社が集まってきているので、ハルツームよりは直接宇宙に関係する都市という雰囲気がある。さらに言うと、大型のクライマーが必要になったのは、地球を周回する衛生のためではない。月や太陽系の他の惑星、さらには太陽系外へ行くには大型の衛星が必要となるが、それを地球上から大型ロケットで打ち上げるのではなく、地上24,000 kmの中間ステーションまたは36,000 km上空の静止軌道ステーションから打ち上げることができるように、中間ステーションには大型衛星の組み立てができる作業室が作られている。そこでの最初のプロジェクトは火星無人探査機で、2086年に開始された。3年で発射台製造、これは直接中間ステーションから発射すると中間ステーション本体にダメージが想定されるため中間ステーションから少し離れたところから発射するためのもの。そして3年で打ち上げる衛星の組み立ての予定が2年延び、2094年に発射実験が行われた。このときは発射台のトラブルで失敗だったが2回目の2098年は成功だった。ただ、この実験のために中間ステーションの作業部屋が12年間占有されてしまい、他の希望者は一切使用できなくて多くの文句が出たため、これ以降は2年以内で衛星を組み立てて発射するというスケジュール管理が義務づけられている。発射台自体は使いまわしているので、現在まで大きなスケジュール変更はない、という話らしい。

ところで宇宙エレベーターの残りの基地であるマラウイのリロングウェの場合は、少し規模は小さいがハルツームに近い状況だそうで、ハルツームでは対応しきれないアフリカ諸国のデータ処理を行っていて、やはりIT関係の会社が集まっている、という話だった。

宇宙エレベーター基地はカンパラの北側、カンパラの中心部から見るとエンテベ空港とは反対側になる。その基地と上空に伸びる4本のケーブルが見えるようになってきた時、デニス メッタ「あそこのどこが目的地かわかりますか?」4本のうちの1本には大きな建物がついていて、残りのうちの2本はほぼ同じ大きさでがっちりした建物がついていて、一番端にある1本には細いタワーのような建物が見えた。伴「先ほどの話からすると、一番端のケーブルが実験用で、そこがトレーニングの場所と思います。」デニス メッタ「さすが、正解です。ただ、あなたのスケジュールを見ると検査が終わったらすぐにハルツームに戻るようだねえ。ここはハルツームより食べ物はおいしいと思うけど、それを味わう時間はないということだねえ」と半分笑いながら言った。車が着いたところは遠くから見えたケーブル横の細いタワーではなく、その隣にある5階建ての白いビルで、伴はまず荷物を部屋においてから2階にある検査室へ行くと言われた。デニス メッタの言うままにエレベーターで4階の少し狭いホテルのような部屋に荷物をおいてすぐにまたエレベーターで2階に行き201室とだけ書かれた広い部屋に入ると一見整形外科などのクリニックと思われるようなつくりで、中にいかにも医者と思われる、やせて少し背の高そうな男の人がいて、こちらを見てその人の前の椅子に座れというしぐさをした。

デニス メッタは「ここの担当のEckardt<エッカルト> Helgen<ヘルゲン>だ。この人はほとんど無駄な話はしないからねえ」と言いながらついてきて、伴の椅子の斜め前に立った。

Helgen「Helgenです。伴さんには、まず注射を受けてもらいます。それでは」

さすがに説明が必要だろうとデニス メッタが伴に話をした。それによると、体調を腕につけたブレスレットで正確に把握するため血液中に造影剤を入れるということで、この薬剤は3週間効果が続くので宇宙エレベーターでの本番実証実験の終了まで有効で、その後は体内で分解されるらしい。伴は、その注射を打つのはHelgen 医師と思っていたらデニス メッタが注射器を持っていた。

デニス メッタ「何?意外な顔をしているようだけど、さっき言ったように俺はいろいろなことをするのだ。なんたって、ここに来る前はウガンダ陸軍の医療班にいたのだから。」

確かに注射の腕は悪くないようだったが、左腕にチクッとする痛みはあり、そこに絆創膏を貼られて2分くらい押さえるようにと言われた。その後、伴は予備実験と言うことで地下1階の大きな部屋に連れていかれた。そこには5mくらいのアームにつながった椅子があり、そこに座ると身体をベルトで固定された。装置が動く前に、デニス メッタからジェットコースターに乗ったことがあるかと聞かれ、伴は子供の時1回乗ったことがあるが嫌いだ、と答えたのだが、その答えには関係なく椅子が持ち上がりアームがだんだんと速く回転しそのうち一定回転となり、そしてだんだんゆっくりとなって停まった。トータルで10分くらいだ。デニス メッタの話では、その実験中での最大角速度は2Gだそうで、怖いと言われているジェットコースターの半分くらいの大きさだ。Helgen 医師は伴の腕に付いているブレスレットの出力をチェックして、「特に何も問題はないようなので、予定通り明日から3日間のテストを受けてもらいます。」と言っただけで、あとはデニス メッタに任せていなくなってしまった。

デニス メッタ「あの人は、いつもあんな感じですから、気にしないでください。これからの予定ですが、一度先ほどの部屋に戻り夕食は18時から宇宙基地本館2階のレストランです。レストランは昼夜開いてはいますが20時には終了して、準備をして22時に先ほどの部屋に来てください。」。

伴「実験開始は明日からでは?」

デニス メッタ「差し上げた資料には、02:00クライマー発進とあるでしょう。ぎりぎりに入るのも面倒なので23時にクライマーに入っていただこうと思います。」

伴は細かな時間まで見ていなかったようで、

伴「え、そうでしたか」。ちなみに、宇宙基地本館とはメインの宇宙エレベーターに付属した建物で、そこには上空の中間ステーションや静止軌道ステーションの運用管理を昼夜にわたって行うコントロールセンターがありそこでは常に数10人のスタッフが勤務をしているため、昼夜に関わらずレストランは開いているのだ。

伴が部屋に行って必要最小限の荷物を用意して、18時少しすぎにレストランへ行って見ると、見慣れた顔の男が手を振ってきた。デニス メッタで、伴はこの人は明日またここに出てくるのだろうと思っていたのだが、そうではなく伴がクライマーに乗ってテスト用のマイクロスペースに着くまではケーブル横にあったタワーにあるコントロールルームにいるそうだ。伴は、この時は知らなかったのだが、デニス メッタはその時間から伴の検査が終了する3日後まで仮眠室付きのコントロールルームに缶詰めなのだった。伴が夕食のトレイを持って席に着くとデニス メッタがトレイを覗き込んで

「どうして、これにしたの?」と聞いてきた。

伴「これがお勧めと書いてあったから。」

デニス メッタ「今月はケニアから研修生が大勢来ていて、一応ケニア月間と言うことになっているからなあ。それに日本人はお米が好きだから?ウガンダだってお米の料理はあるけど、今夜のメニューには無かったか。」。

伴が持ってきたのはピラウ&カチュンバリ、ケニアのピラフと野菜スープで、これにしたのはお勧めと書いてあったからではなく、久しぶりにお米の料理が食べたくなったからだった。伴にとって米の料理は数か月ぶりで、ピラフとはいえお米はおいしいなあ、と思っていたら、

デニス メッタ「次は、ウガンダの料理も食べてくれ」。

伴「次はそうしましょう。でも、その料理はマラウイの、えーとミートソースですよね。」デニス メッタのプレートにあったのは、大きな皿の上に白いマッシュポテトのような山があって、それにひき肉と野菜のソースがかかっている。

デニス メッタ「そう、ニャマヨガヤだ。この白いのは何か、わかるか?」

伴「ええ、トウモロコシの粉のペーストですよね。」

デニス メッタ「そうか、ハルツームでもこのメニューは出てくるか。」

伴「はい、向こうでもたまに出てきます。」

実は伴が初めてハルツームでこの料理を見たときに同じ質問をKierがしたとき、マッシュポテトと答えてKierから、これはシマというマラウイの主食だ、ということを教えてもらったことがある。政府間ではいろいろあることもあるが、ここアフリカの宇宙エレベーターの3つの基地のレストランでは、お互いの代表的な料理をたまに出しており食べ物での交流は非常に進んでいる。

食事後、伴は軽くシャワーを浴びて用意された青っぽい作業着に着替えた。ブレスレットはシャワー程度ならば動作に支障はないらしいが、直接シャワーの水が当たると脇に付いているLEDが点滅していた。

伴が22時少し前に先ほどの部屋に行くとデニス メッタと他に3人ほどEU Space Development Corp.の制服を着た人がいて、本来はプロジェクトの担当窓口が説明することになっているのだが、と言いながらデニス メッタが説明をした。それによると、クライマーに乗って約10時間で実験用マイクロスペースに着く、クライマーに乗っている最中はシートベルト着用でリクライニングにして睡眠可能だが必ずヘッドホンをして連絡が取れる状態にするとともに酸素マスクをすること、伴の乗ったクライマーには散布するBVMCA粒子が入ったトレイと同じ大きさ・重量のトレイが多数組み込まれたラックが入ったクライマーが連結されておりこれをマイクロスペースの所定の位置にセットすることが最初の作業となる、ただしマイクロスペースからの散布までは行わない(そこまでの改修はしていない)、マイクロスペースの中はあらかじめ革新的資源活用機構側の要望に合わせて機材が配置されていているので実証実験で行うのと同じ作業手順をここでも試すこと、作業開始時間は最初の日は到着時刻で次の日は9時で作業終了は18時など。ヘッドホンの使用はクライマーの動作時に非常に大きな騒音があってうるさいためで、クライマーに特化したノイズキャンセル機能が付いているので、コントロールルームからの連絡はよく聞こえる。作業内容は日本ですでに何回もテストをしているが、そのときは重量物を動かすのでサポートスーツを着用することになっていて、こちらでも同じものを着用することになっている。また夜の仮眠時は室温が低下しても対応できるように防寒具を着用することになっている。先に説明したヘッドホンと防寒着に関しては、あとで非常に役立つことになる。そしてデニス メッタからの注意事項が1点、マイクロスペースでの滞在期間が短いからマイクロスペースでは、トイレなどは乗ってきたクライマーのトイレを使用すること。マイクロスペースのトイレを使用すると、帰るときにトイレ掃除をする必要があるから、という理由だった。時速100㎞で24,000㎞上空の中間ステーションまで行くこともあるからクライマーの水やトイレ排水の容量は10日以上対応可能で、今回のように往復含めて数日間ならクライマーのトイレだけで十分ということなのだ。

これらの説明後、伴は防寒具も着用してクライマーに乗り込んだ。

ここで簡単にクライマーの動作説明をする。まず宇宙エレベーター自体は地上36,000km上空の静止軌道基地と地上基地までCNTケーブルで繋ぐもので、地上24,000km上空にある中間基地やその間にあるマイクロスペースはこのメインのCNTケーブルにぶら下がっている。挿絵(By みてみん)

クライマー自体は直径3m高さ4mの円筒形で、中間基地から降りてくる別のCNTケーブルにぶら下がっていて、中間基地側でこのケーブルを巻き上げたり戻したりすることでクライマーが上下する。マイクロスペースに行くのもクライマーが用いられるので、クライマー用CNTケーブルはメインCNTケーブルの近くに設ける必要がある。メインCNTケーブルは固定なので、クライマーには図に示すように中央部にメインCNTケーブルを通すパイプがある。

クライマー用CNTケーブルとクライマーはジョイントを介して接続されている。上部から吊るすだけだと振動などでクライマーとメインCNTケーブルが接触する恐れがあるので、クライマーは地上基地ともCNTケーブルで繋がれている。

次にクライマー内部だが、先の説明のように真ん中にカーボンファイバーのケーブルが通るための直径50㎝ほどの筒があるため、その横に椅子、反対側にトイレなどが備え付けられている。挿絵(By みてみん)

伴は椅子に座り、手動の操作になるのだが酸素マスクを着け、腰・股・肩の5点式のシートベルトで体を固定し、ヘッドホンをした。酸素マスクが手動なのはそれなりの理由があるのだが、それはまた後の話になる。準備が早くできたこともあり、予定より早くクライマーは徐々にスピードを上げながら登って行った。伴は途中わざとヘッドホンを外してみたら、確かに眠るには少し邪魔になるギューンという音がずっとしていた。訓練する場所の高度については何故か説明はなかったのだが、時速50㎞のクライマーで10時間予定だから500㎞上空のはずで、高度を言わないのは何かセキュリティ上の理由だろう、と伴は思った。ただ実際はこのマイクロスペースの高度はその時の事情により変化しているというだけで、実際伴が来る1週間前は今回の訓練に備えて内部を改修するために地上にあった。今回500㎞にあるのは、高度300㎞に近くて安定に固定できるのがその高さだから、という理由だ、というのを後になって伴は教えてもらった。クライマーに乗っている最中、基本はシートベルトを付けて座っているのだが、シートから降りてトイレに行ったり軽く体操をしたり歩き回りながら食事をしたり歯を磨いたりすることも可能だ。今回は10時間だけだが、なんたって地上24,000km上空の中間ステーションに行く場合は、上り線用で今回の倍の時速100㎞可能のケーブルとクライマーで行くのだが、それでも丸々10日間かかるのだから。クライマーは地上36,000㎞まで行くこともあるため安全性が最重要と言うことで窓というものは無いが、座っていると中央の筒とは反対の壁側に一見窓に見えるモニタがあり、そこから外の景色が見えるようになっている。これは外側のドア付近に埋め込まれているカメラ出力なのだが、一応外の様子が見えるというのはなぜか心が安らぐ。ただ夜間だと暗いだけでほぼ何も見えない。

日が替わって予定通り4月24日の8時50分にヘッドホンからデニス メッタの元気な声がしてきた

「Yoshiおはよう。まもなく到着なので座席についてシートベルトをして欲しい。」。伴「HMDのほうがいい?」デニス メッタ「ドアが開くまではうるさいから、ヘッドホンのほうがいいだろう」確かにその通りで、シートベルトして少し経つと徐々に減速が始まりそのうちに停まった。

マイクロスペースという名前は地上24000㎞の中間ステーションや36000㎞の静止軌道ステーションと比較して小さいということで、基本は直径が15mの円筒形なのだが、いろいろと付属のものが付いている。

まずここでマイクロスペースの構造を簡単に説明しよう。左が側面図、右が上から見た平面図で、主要部分の直径15m高さ7.5mのエリアは左図では上部の中央の四角、右図では中央の円であり作業などをする必要が生じた時は作業人が1名だけここに居住することになる。挿絵(By みてみん)

そのために必要なベッドやトイレなどの他に、マイクロスペースの外は大気圏外なので空気浄化装置や汚水処理装置の他、図には明記されていないが酸素ボンベ、水のタンクなどが備え付けられている。

このメインの円筒形の中央には直径4mの空洞があり、そこをメインのCNTケーブルが通っている。マイクロスペースとCNTケーブルを繋ぐのが3か所のグラバーとゲートになり、通常は3か所とも閉じていてマイクロスペースはメインのCNTケーブルにしがみついている。これでマイクロスペースは、一つ課題がある。このままでは回転してしまい、水平方向が定まらない。そのため上下のマイクロスペース(または地上/中間ステーション)との間を6本の補助CNTケーブルで繋ぎ回転を防止している。中間ステーションについては、地上と3本のCNTケーブルで繋がっているので回転はしない。

左の図でこの円筒形の下に付いているのはクライマー退避スペースで、この働きを説明しよう。

クライマーがマイクロスペースに来た時に取りうる選択は2つで、1つ目はこのマイクロスペースを通り抜けることで、2つ目はこのマイクロスペースにドッキングすること。ただしクライマーがドッキングしているときでも、他のクライマーはこのマイクロスペースを通り抜けて移動できることが必要である。

次の図は、1つ目の選択肢のクライマーがマイクロスペースを下から上へ通過する場合を示している。挿絵(By みてみん)

クライマーは1台ではなく、複数台が各々12mのCNTケーブルで繋がっているとしている。一番左のように最初のクライマーが到着すると、グラバー1とゲート1が開きクライマーが通れるようになる。この時マイクロスペースはグラバー2・ゲート2とグラバー3・ゲート3の2か所でメインCNTケーブルにつかまっている。ここでクライマー用CNTケーブルを4.5m(クライマーの高さ4m+ゲートの厚み0.5m)だけ引き上げると、最初のクライマーはゲート1を通り抜けてクライマー用退避スペースに入るので、ゲート1・グラバー1を閉じることができる。この状態でゲート2・グラバー2を開けるとクライマーはゲート2を通ることができる。この時マイクロスペースはグラバー1・ゲート1とグラバー3・ゲート3の2か所でメインCNTケーブルにつかまっている。この状態でクライマー用CNTケーブルを7m引き上げると、最初のクライマーはゲート2を通り抜けてゲート3に来るのでグラバー2・ゲート2を閉じることができる。この状態でクライマー用CNTケーブルを4.5m引き上げると、最初のクライマーはゲート3を通り抜けてマイクロスペースの外に出る。この時マイクロスペースはグラバー1・ゲート1とグラバー2・ゲート2の2か所でメインCNTケーブルにつかまっている。そして次のクライマーがゲート1の入り口に来る。これを繰り返すことにより、クライマーはこのマイクロスペースを通り抜けていくことができる。

次の図は、2つ目の選択肢のクライマーがマイクロスペースにドッキングする場合を示している。挿絵(By みてみん)

クライマーが到着してからクライマー退避スペースに入るところまでは1つ目の選択肢と同じだが、その後クライマーはCNTケーブルから離され、移動クレーンに接続される。上下ともにCNTケーブルが残されるので、その間にクライマーの高さと同じ長さ4mの中間CNTケーブルを接続する。これにより他のクライマーを移動させることができる。移動クレーンに接続されたクライマーは、指定されたジョイントにドッキングする。

今回の実証実験では1日当たりクライマー2台分のBVMCA粒子を散布するので、図のようにマイクロスペースにはクライマー3台が繋がっており、またマイクロスペース内部には散布に必要なラックが5本設置されている。挿絵(By みてみん)

このうちの1台は、クライマーで運ばれてきたBVMCA粒子が入ったトレイを運ぶための移動用、残り4台のうち2台はBVMCA粒子をマイクロスペース外部へ放出するための粒子散布対応ラック、残り2台はトレイを一時保管するための一時保管ラックである。各クライマーにはトレイが40個収納していて、各ラックは10個のトレイを収納できる。実証実験では、1日に80個のトレイに入ったBVMCA粒子を散布するので、1日でクライマー2台分となる。

なお、今回の訓練では散布は行わない。

事前説明はこれで終わり、伴の乗ったクライマーに話を戻そう。

クライマーは、先の説明のようにマイクロスペース下部のクライマー退避エリアへの入り口で停まった。次にゲートが開き4.5m引き上げられ、伴のクライマーは完全にクライマー退避エリアに入り、移動クレーンに繋ぎ変えられた。ここで、クライマーを動かすためには、クライマーの中央を通っているメインCNTケーブルをクライマーの外に出す必要がある。伴が座席から見ているとクライマーの壁面にあったストレージから仕切り壁面が出て来てクライマーの半分が壁面で覆われた。挿絵(By みてみん)

そこでゆっくりとクライマーは水平方向に動き出した。これでクライマーは退避エリアから外に出て、メインCNTケーブルと離れたのだろう、と伴は思った。その後上に引き上げられ、また水平方向に少し動いたところで停まり、ガチャッという音がした。これでマイクロスペースにドッキングしたようだ。

伴の乗ったクライマーが止まってから連結された資材運送用のクライマー2台もマイクロスペース内に固定されるので、伴のクライマーのドアが開くまで少し待たされた。伴は作業のために着用するパワースーツを持ちHMDをかけクライマーから出てきた。地上500㎞なので身体は少し軽く感じた。ちなみに地上500㎞というとリニューアルはしているが100年以上前から地球上空を飛んでいる宇宙ステーションより少し上空で、宇宙ステーションの中では乗務員は歩くのではなく空中を遊泳している。これは、宇宙ステーションは非常に高速で地球の周囲を回っているので宇宙ステーションの動きで生じる遠心力と地球からの引力が釣り合っているために宇宙船内部では無重力状態になっているということによる。一方、宇宙エレベーターの場合は高度が高い分地球からの引力は小さくなるが、地上と同じ角速度で回転している(速度自体は地上よりは高度の分だけ速い)ので無重力状態にはならない。宇宙エレベーターで無重力になるのは静止軌道ステーションの中だけである。今伴がいる地上500㎞上空では、地上と比較すると地球からの引力が15%ほど小さくなるので見かけ上重さが15%くらい減った状態になる。なお遠心力は10%くらい増えるのだが、地上500㎞程度であれば遠心力は地球の引力の0.5%以下なのでほとんど影響しない。

パワースーツを着用したところで、

伴「パワースーツ着用しました。」

デニス メッタ「それでは、一番端のクライマーに入っているトレイ40個とマイクロスペース内のラックのトレイを交換しましょう。可動ラックには転倒防止のワイヤーが繋がっています。まず一時保管用ラック1本に入っているトレイ10個を可動ラックに載せ替え、可動ラックをクライマーのところに運んでクライマーにあるトレイと交換しましょう。挿絵(By みてみん)

この作業を4回続けます。スケジュール上では、これが終了するころが昼食の時間になるはずです。ラック自体はそちらから送ってきたものです。ここのテストが終わればハルツームにそのまま送るので、そのつもりで。」

伴「了解です。日本で何回もテストしているので、大丈夫です。」

デニス メッタ「あと、トレイの重さだが、実際に行うのは地上300㎞上空なので、そこで感じる重さに合わせています。重りを入れただけですけどね。」

要するにここは地上500㎞なので実際より少しだけ重くしているということになる。

伴「ありがとうございます。」

ここで補足を加えながら一度まとめると、マイクロスペースにはラックが5台あり、そのうち1台だけがクライマーとの受け渡しなどに使う可動タイプであとは固定。さらに固定のうち2台は、実際の実験ではBVMCA粒子を外部へ放出するユニットとつながっている。残り2台はトレイの仮置き用。トレイのサイズは220H × 600W× 1500D、ラックのサイズは2800H×800W×2000Dで11個のトレイを格納でき一番上のトレイ部分はロボットになっていてどこかのトレイを交換するときはロボットの部分が降りてきてトレイを引き出し地上1mのところで停まるので、その位置で作業員がトレイを交換し、それをもとの位置に戻す。挿絵(By みてみん)

このためトレイを動かすときはラック前2m以内には近づけないことになっている。マイクロスペースのラックに載せることができるトレイの数は40個である。一方クライマーのほうは、クライマー1台にトレイが40個乗るようにラックが組まれているのだが、ラックの前にはトレイを引き出して作業員に渡すためのロボットが組み立てられているので、ドアを開けるとそのロボットだけ見える。ハルツームの実証実験では1日でトレイ80個分のBVMCA粒子を散布する予定なので、ちょうどクライマー2台分となる。

ところで宇宙エレベーターができた当初は、外部の団体が宇宙エレベーターの上空設備で作業をする場合、作業者に関しては上空作業ができるかどうかの健康チェックのみ、使用するために持ち込む機材についてはEU Space Development Corpが受け取り後に様々な検査を行ってから組み立てやクライマーやマイクロスペースへの設置はすべてEU Space Development Corpが行っていた。しかしこれでは非効率ということで、作業者のテストに関してはできる限り実際に行う作業に近い条件での確認を行う、機材に関しては仕様書の段階でEU Space Development Corpがチェックを行い、組み立て設置は基本的にはEU Space Development Corpだが、必要に応じて申し込んだ団体がEU Space Development Corpの監督のもとに行う、という形になった。特に多量の小型衛星を上空から放出する場合は、クライマーからマイクロスペースへ機材を移す代わりに、クライマー自体を改修してマイクロスペースにドッキングした状態でクライマーの壁面を明け衛星を放出するということもやっている、と後でDavidから聞いた。その場合に問題なのは電源で、クライマーには余分な電力は無いがマイクロスペースは外壁に太陽電池を貼っていて十分な電力があるので、マイクロスペースから非接触でクライマーに電力供給をしているということだった。

今回の実験では、ラックの組み立てやクライマーへの組み込みはすべて日本で行った。このプロジェクトが決まった時点で、革新的資源活用機構は各機器のサイズなどのスペックをEU Space Development Corp.に提出して承認を受け、その後EU Space Development Corpから空のクライマー4台を受け取り、それに機材を組み込んだ後ラックとともにカンパラの宇宙エレベーター基地に送ったのだった。そのため伴は日本で使用する機器の扱いについては十分な訓練をしてきている。今回のカンパラ上空での訓練が終わって機器改修が必要ないという時点で、これらの機材はハルツームの宇宙基地に送られ、そこで再度マイクロスペースに設置されることになる。

事前説明が続いたが、ここで伴が実際に行う作業を見よう。まず一時保管ラックから可動ラックへ空になったトレイの移設で、一時保管ラックに付いているロボットが空いているトレイ1個を取り出して床上1mのところで停まるので、伴はロボットからトレイを受け取り隣の可動ラックのやはり床上1mのところで停まっている可動ラックのロボットに渡す。挿絵(By みてみん)

その間に一時保管ラックのロボットは次のトレイを用意する、ということを10回繰り返す。これで一時保管ラックの空きトレイは可動ラックに動いたことになる。次に可動ラックをクライマーの横に動かし、可動ラックに入っている空きトレイ10個とクライマーにある粒子の入ったトレイ10個を交換する。このときも伴は可動ラックのロボットから空きトレイを受け取り、それをクライマーに組み込まれているロボットに渡すのだが、クライマーではそれが2段あり上が空いたトレイ用、下が粒子の入ったトレイ用で、空いているトレイを上に入れ、それから下の段から粒子の入ったトレイを受け取り、それを可動ラックのトレイに渡す。挿絵(By みてみん)

どちらのロボットも空いている時間に次のトレイを用意する。そしてこれを10回繰り返して終了となる。空いているトレイの重さは25㎏程度でぎりぎりパワースーツなしでも作業はできるかもしれないが、粒子が入っている方は圧縮空気も重さもあるので45㎏くらいになりパワースーツなしでは難しいだろう。伴は、途中少し休憩を入れたもののそれ以外は休みなくラックに入っていた40個の空きトレイをすべてクライマーにあった粒子入りトレイと交換した。

伴「終わりましたが、どのくらいかかりました?」

デニス メッタ「休憩も含めて2時間半ちょうどだが、ずいぶん頑張るねえ。可動ラックと他のラックとの間での交換作業が8回、可動ラックとクライマーとの間での作業が4回あったね。」

伴「少しだけ速いけど、ほぼ予定通りのペースでしたね。ハルツーム上空では1日でトレイ80個分を散布するわけですから、作業量はこの倍にあとラック・ラック間の作業もあるから、1日のトータルの作業量はこの3倍近いはずです。」

デニス メッタ「それを4日間とは、ねえ」

伴「1日の作業量減らして5日間上空にいるよりはいいでしょう?」

デニス メッタ「それは、そうだ。ところで前から聞きたかったのだが、ラックやクライマーに付いているロボットは、この作業のための特注?作るのは結構大変?」

伴「特注かどうか、ということだけだと、特注になるのですが、でもラックに組み込まれたものと取り出したり組み込んだりという用途は非常に多いので、汎用のラック組み込み用ロボットにパーツを組み込んで少しだけ改修、で対応しています。この手の業務を引き受けてくれる会社は、どこでも見つかると思います。」

デニス メッタ「それでは昼食時間なので、俺は少し席を外してもいいかな?何かあれば呼び出してくれ。」

伴「大丈夫です。ところで食事はクライマーの中で取ったほうがいいですか?食べ物自体は、どのみちクライマーの中だし」

今回の滞在日数は少ないので、日数分の水分と食糧はクライマーで持ってきているのだ。

デニス メッタ「どちらでもいいですよ。夜寝るときはクライマーの椅子よりマイクロスペースのベッドを使うことになるでしょ?」

伴も夜寝るときはベッドのほうがいいとは思っているが、昼食はクライマーの椅子の上でとることにし、トイレ横にあるストレージからランチボックスとパック入りのヨーグルトドリンクを取り出した。コーヒーやお茶などの選択肢はあるのだが、伴はレンジがないものと思い込んでいたのでヨーグルトドリンクだったのだが、後で聞いたらそれは勘違いでレンジはマイクロスペース内のロッカーの上にあって、何故聞かなかったのかと逆に言われた。今回の場合、伴はこの後明後日の朝食まで5回このような食事を続けた。

午前中に日本から持ち込んだ機器を上空で操作するという訓練は終わったので、あとは単に健康状態を見るだけ、ということはなく、その日の午後はマイクスペースの内部のレクチャーをリモートで受けた。というのは、何か問題が生じた時にマイクロスペースにいるのは1人だけなので可能な限り第1次対応を行う必要があるからだ。その何か問題が生じた時だが、非常電源で最後まで通信可能なのは音声通信で端末はマイクロスペースのベッドの脇にある。それでコントロールセンターからの指示に従い操作をすることになる。

2日目は、マイクロスペースのシステムを再起動するときの方法とその手順、何らかの重大事故によりマイクロスペースから脱出する場合の説明と訓練だった。まずシステム再起動だが、単純にシャットダウンしてすぐ再起動であれば大きな問題は無いのだが、何らかの事情で例えばシャットダウン後2時間経ってから再起動などというとき、どうやって2時間を測定するかという問題も生じる。全システムシャットダウンと言うことは、外部との通信ができないということで、その条件で2時間後というのをどうやって判断するか、が課題と言うことになる。そのために用意しているとベッドわきのロッカーの底から出てきたのは目覚まし時計。

伴「これ止まっていますけど」

デニス メッタ「ゼンマイ仕掛けだ。横にゼンマイのネジ巻きがあるだろう?」

伴は最初意味が分からなかったが、それらしいものが他になかったので手元にあったものを見せた

「ひょっとしてこれですか?」

デニス メッタ「子供の時、それで遊んだことは無いのか?それを時計の裏の穴に差し込んで回してみな。3回転くらいでいいだろう。」

そういわれてみると小さいころ見たことがあるような気がするがよく覚えていないと思いながら、伴は時計の裏を見ると穴らしいものは1個だけだったので言われた通り回すとガリガリという音がした。

伴「動きました。」

デニス メッタ「それで時間はわかるだろう。問題はシャットダウンの時間が、例えば2時間以上になるときは、温度や内部の空気管理をしないので一応宇宙服の着用が必要になる。宇宙服はベッドの下にしまっているので、ベッドと床の留め金を外して宇宙服を取り出し、着用の訓練をしよう。」

これがあるから、この訓練は2日目なのだ。訓練後宇宙服はもとの場所に戻すが、ベッドはそのままで、後日EU Space Development Corp.の担当者が原状復帰をするときに一緒にもとの状態に戻すことになる。このあと伴が教わったのは、マイクロスペースからの非常脱出で、宇宙服を着用してマイクロスペースの壁面を開けクライマーに乗り込んでクライマーごと飛び出すことになる。クライマーには上部にパラシュートが付いているが、地面に降りるときはかなりな衝撃があるという説明だった。ただ、今まで誰も実際にクライマーに乗り込んで地上500㎞からの脱出訓練はしたことがないそうだ。あと細かいことでもう1点、ベッドわきの床にネジが4か所あり、それを開けると小さな透明の窓があり、備え付けの双眼鏡で夜であればカンパラの明かりが見えるとのことだったが、伴が空けたのはまだ明るい時間帯だったのと薄い雲が出ていたのでよく見えなかった。

デニス メッタ「これで訓練は終了で、あと2時間でクライマーを動かすけど先に夕食にする?」

伴「あの程度の音なら我慢の範囲内だから、移動中に食事します。ところで、私がそちらに着くまでコントロールルームにいるのですか?」

デニス メッタ「それが仕事だからなあ。」

伴「ご苦労様です。ところでHelgen先生は?」

デニス メッタ「たびたびここに来てはバイタルデータをチェックしていたよ。さっきベッドを動かしたとき、重いと思っただろう。あのベッドには測定器がたくさんついていて、君が寝ていた時にいろいろ測定させていたようだ。そのデータ見ていて何も言っていなかったから、健康上の問題はないだろう。何かあると、いつもぶつぶつ言うから。」

ということで上空訓練は終わり、2時間後に伴はクライマーに乗り込み機材が入ったクライマーとともにその10時間後にカンパラの基地に戻ってきた。そして健康上の問題や機材の問題はないという判断となり、スケジュール通りBVMCA粒子の散布実験を進めることになった。



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